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モラトリアム人間

皆さんはモラトリアム人間という言葉をご存知だろうか。モラトリアム人間とは大人になっても精神的に青年期のモラトリアムにいる人間のことである。そう、俺の事ではない。俺は高校生、モラトリアム真っ只中なのである。ではなぜこの話をしたのか。それは俺が自分のアイデンティティの確立に未だ至っていないからである。モラトリアムとは自分探しの期間という意味も持つ。つまり自分が何が得意なのか、どういう人間なのかを認識する期間ということだ。しかし俺は高校3年生になっても「自分」を認識できていない。このままではモラトリアム人間一直線である。これはそんな俺がモラトリアム人間を回避するために、高校生最後の貴重な1年間を費やし足掻く物語である。

高校3年生の新しいクラス、自己紹介カードと呼ばれるものを書いた。名前、生年月日、好きな教科などなど様々な項目を埋めていくのだが、その中に気になる項目があった。「将来の夢」である。この「将来の夢」を見つけることはモラトリアム人間回避の1番分かりやすい目標である。さてどう書くか。幼稚園の時は宇宙飛行士、小学校では農家、中学校では司書と書いていたが、高校に入ってからは「将来の夢」について考えることはめっきり減ってしまっていた。モラトリアム人間回避のため、そろそろ真剣に考えなければならないな。宇宙飛行士?学力が足りない、というか頑張りたくない。農家?虫嫌い。司書...これは良いのではないだろうか。本は嫌いじゃないし、他人とのコミュニケーションも少なく、何より静かだ。環境に関しては相当良いように感じる。よし、司書にしよう。

発表の時間になった。今回は誕生日月が同じ人たちで集まりその中で発表する形式らしい。つまり俺は4月誕生日なので4月誕生日の人たちで集まり発表するということだ。まずは俺から、名前、生年月日と順番に言っていき最後に、

「将来の夢は司書です、理由は楽に仕事したいからです。」

パチパチと、人数が少ない故あまり大きなものではないが、拍手を貰った。とりあえず皆いい人そうで安心だな。

「では質問の時間です、今発表した方に何か質問がある方はどうぞ。」

先生、質問の時間があることは先に言って欲しい。まぁ別に討論のように詰められるわけではあるまいし、仲良くなるきっかけにもなりうるのでありがたくはあるのだが。すると眼鏡を掛けた大人しそうな女子が手を挙げた。まさかこの人が手を挙げるとは、見た目に反してコミュ力高いタイプか?なんてことを考えていると

「質問ではないんだけど、さっき楽だから司書になりたいって言っていたよね、それは誤解だと思う。司書という仕事は本を何冊も運ぶから力仕事な面があるし、とても倍率が高いからなりにくい。更に正規で働くなら待遇があまり良くない場合もあるよ、祝日も出勤する必要があるしね。だから楽そうだからって理由で司書を目指すと痛い目を見ると思う。」

「え?」

その場にいた全員が目を丸くした。だが俺はすぐ我に返って頭に浮かんだことをすぐ口に出した。

「君司書になりたいの!?」

思ったより声が大きかったようでクラス全員の視線を集めてしまった。視線を向けられるのに慣れていない俺は「はは...」なんて愛想笑いを浮かべることしかできなかったが、各々質問に戻ったので事態の収束には成功したと言えよう。結果オーライである。

「いや、将来の夢決まらなくて色々調べてる時にたまたま...」

「てことは君もモラトリアム人間なんだね!」

「まだ高校生だよ!?」

テンションが明らかに噛み合っていないように思えるが今はそれどころではない。仲間だ、ついに仲間を見つけたのだ。それだけで俺にとってはすごく嬉しかった。仲良くなれるかなんて分からない。だけど俺はこの子と友達になりたいと思った。俺はコミュニケーション能力に関してはあまり自信がない。ただ、それは彼女も同じであることから親近感が湧いたこともあり、初対面なのにグイグイいっていた。

「俺たち友達にならない!?」

「えっ!?いい...よ?」

「よっしゃあ!」

心の底から嬉しかった。高校2年間をドブ(漫画やゲームアニメ等)に捨てた俺にとってはほぼ初めての友達だ。性別なんてどうだっていい、ただ仲間であり友達であること、それが嬉しいのだ。嬉しすぎて後の人たちの発表は正直頭に入ってこなかった。彼女は将来の夢のところを空欄にしていたので、俺は「司書」を消して2人で同じ夢を書くことにした。

将来の夢【モラトリアム人間回避】

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