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梁山泊の黎明

冬の冷気が骨身にしみる北京大名府の路地裏。幼き日の燕青は、まだ世の闇の深さも、義と裏切りの重みも知らなかった。だが、彼の胸に宿った静かな決意だけは揺るがなかった。これから始まる長い旅路の一歩を踏み出すために。

この章は、燕青が盧俊義と出会い、その絆が生まれる瞬間を描く。影に生き、義を継ぐ者の物語の幕開けである。

名は世に知られても、その真実は影に隠れたままの者がいた。

燕青。

梁山泊。

水滸伝に名を残す百八の好漢たちが、義を掲げて集った伝説の地。

彼らの多くは豪胆で熱く、血と汗と涙にまみれた生を生きた。

しかし、その中にあっても、燕青は異彩を放っていた。

あらゆる技に長け、無数の武器を自在に操り、声よりも静寂を重んじる。

名を馳せながらも影のように動き、その歩みは波紋のように広がり、幾多の戦乱の陰で道を切り拓いてきた。

だが、その真実は歴史の表舞台にはほとんど語られず、密かに語り継がれるのみであった。

この物語は、光と影の狭間を生きた一人の男――

燕青の、語られざる記録である。

―――――――――――――――――――――――――――――

北宋第4代皇帝・仁宗の治世。

疫病が都を覆い尽くし、鉛色の空から冷たい雨粒が石畳をひんやりと叩いていた。

静かな波紋を描いては消えるその音は、湿った空気と混ざり合い、街角に漂う煙草の匂いと共鳴する。

路地裏を行き交う人々の咳払いは、疲労と恐怖を帯び、顔には深い影が刻まれていた。

遠くで医師たちの嘆息がかすかに響き、揺らぐ街灯の灯火は、雨に濡れながら哀しげな歌のように瞬いている。

北の霧深い竜虎山の頂は、常に冷気に包まれていた。

湿った岩肌に滴る水音が、静謐な時の流れを告げている。

山奥の小さな庵では、張天師が幾晩も祈祷を重ねていた。

彼の手に握られた符は、ただの紙片ではない。

天命を秘めた、古の力の象徴であった。

都の仁宗はその神秘にすがり、太尉・洪信を使者として竜虎山へ派遣する。

任を終えた洪信は、帰路に山麓の苔むした石段を登り、「伏魔殿」と呼ばれる朱印に覆われた異様な建物へ足を踏み入れた。

老僧のかすれた声が響く。

「ここには百八の魔物が封じられておる。決して扉を開けてはならぬ」

しかし、好奇心に駆られた洪信の指先は震え、夜の冷気に凍えながらも錠を外した。

軋む扉が開いた瞬間、暗闇の奥で閃光が走り、凍てつく冷気は一瞬で熱と光へと変わる。

空気は震え、得体の知れぬ影が解き放たれた。

洪信の心臓は、凍りついた。

都へ戻った彼の報告は、瞬く間に恐怖の波紋を広げる。

「百八の魔物が……封印より解き放たれました……」

やがてその魔物たちは、義に燃える百八の好漢へと姿を変え、乱世の荒波の中で伝説を紡ぎ始める。

時は流れ、第8代皇帝・徽宗の治世。

腐敗は政治の隅々まで浸透し、奸臣たちの陰謀が渦巻いていた。

都は嘆きと怒りに満ち、義侠の志士たちは次々に追い詰められていく。

晁蓋は劉唐、呉用、阮小二・小五・小七、白勝、公孫勝ら同志と共に、大名府で宰相・蔡京へ贈られる賄賂を奪取する。

義を貫く彼らは、最後の拠り所として梁山泊へ身を寄せた。

梁山泊は、腐敗した世に抗う者たちが、義を最後の拠り所として集った地であった。

初代頭領・王倫は晁蓋らの参加に異議を唱え、林冲の刃に倒れる。

その後、晁蓋が梁山泊の座を継ぎ、やがて百八の星の豪傑たちが集い、固い絆と巨大な勢力を築き上げていく。

しかし、曾一族との抗争の最中、武術師範・史文恭の放った毒矢が晁蓋の胸を穿った。

血に染まった手は震え、視線は遠く揺らめく。

「史文恭を討つ者こそ、新たな首領に相応しい」

その言葉は、梁山泊に新たな時代の鼓動を刻みつけた。

宋江は盧俊義――名高き富豪にして無双の武を誇る男を、新たな柱として迎え入れるべく、静かに動き始める。

霧深き竜虎山の谷間から、義と正義の火を胸に抱いた百八の星たちが、今まさに動き出そうとしていた。

そして、その混迷の暗がりの中から――

一人の若き英雄が、静かに姿を現す。

燕青。

物語は、ここから動き出す。

盧俊義の屋敷で育まれた燕青の忠義は、静かにしかし確実に彼の心に根を下ろした。だが、その絆が試される日々はもうすぐ訪れる。義と裏切りが入り乱れる乱世の中で、燕青は何を守り、何を失うのか。

次章では、盧俊義の旅立ちと共に、燕青が留守を預かる中で訪れる暗い影が描かれる。物語はさらに深く、影の道を歩み始める。

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