バカ広いんだから、バカヒロイン
銃弾が飛び交う。
白刃が煌めき、黒塵が舞う。
「先輩、好きです! 付き合ってください!」
遮蔽物が斜めに滑り落ちた。誰かの家だったものだ。物理的にも、精神的にも、誰かの人生の財産だったもの。
「は、初めて会った時から気になってました」
しかし、今は誰かの盾にもなれず転がってる邪魔な瓦礫でしかない。
隣で名前も知らない戦友が倒れた。
「カッコよくて、優しくて、指導も丁寧で……いい人だなって思ってて」
赤い水たまりがまた増える。
倒れたモノから残った物資を掠め取る、生き残るために。
「それに合宿で私たちと上級生で意見が分かれた時、やんわりまとめてくれたりして、とても頼りになる人なんだなって思ったんです! ……それで、そこから、その…………好きになっちゃいました」
白煙が噴き上がり、視界が遮られる。目の前の影が敵かどうかも分からない――
「……え、そうです、よね。先輩みたいな素敵な人に、恋人がいないわけ……ない、です、もんね」
それでも前へ進む。それでも戦う。
ただ、生き残るために。
「いえ、すみません。大丈夫、です。だいじょ、うぶで……うぇえええっ!」
※
盛大な泣き声が響くリビンクの中で、私は読み始めたばかりの本を閉じる。
「お姉ちゃん、うっさい。読書の邪魔……後、泣き声あざとすぎ」
「いやいや、演劇じゃあこんくらいわざとらしくやるのがいいんだって! むしろこんくらいじゃないと全体に声届かないんだよ!」
私と違って快活な姉は大きな身ぶり手ぶりで説明する。
「あんたも来年はうちの高校でしょ? だったら分かるよ。うち体育館バカ広いんだって!」
「バカ広いんだから、あんなバカヒロインじゃないと伝わらないってこと? 寒いよ。それに会場の選定間違ってると思うよ?」
「そういう意味で言ったんじゃないってばー!」
広々としたリビングに姉の声が響く、うるさいのなら自分の部屋で読めばいいと思われるかもしれないが、この姉は私が逃げてもついてきて練習するのだ。
なら、狭い部屋で騒がれるより広い方がいい。
――それに、読み始めたこの本よりかはずっと平和なのは間違いない。




