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第3話 追撃の刃、獣耳の誓い

夜明けの光が差し込み、崩れた廃屋の中に影を伸ばしていた。

 リュオムは錆びた窓枠に手をかけ、遠い空を見上げる。

 星は消えつつあるが、胸の竜魔紋はまだかすかに熱を帯びていた。


「……この世界でも、維新を成すきに」

 小さな声で呟いた言葉は、誰よりも自分自身に向けられていた。


 背後から足音。振り返ると、獣耳の少女――ミラが腕を組み、不機嫌そうに睨んでいた。

「維新? そんなもん無理だよ。人間が奴隷から抜け出せるわけない」

「できんことをやるが維新じゃろう」

 リュオムは笑って返す。

 その笑みが余計に癪に障るのか、ミラは舌打ちをした。

 だが、その耳はわずかに震えていた。


 昼下がり。三人は人目を避け、廃屋を出て市の外れに向かっていた。

 食糧を調達するためだ。

 シン=トナリは僧衣を整え、落ち着いた眼差しで周囲を見守る。

 ミラは街路に近づくと耳を動かし、気配を探った。


 しかし、その瞬間――聞き覚えのある声が響いた。


「おい……この獣耳は逃げた奴隷だ!」


 奴隷商が現れた。

 脂ぎった顔を歪め、ミラの首筋を指差す。そこには刻印のような痕が浮かんでいた。

「この印が証拠だ。お前は売り物、所有物だ!」


 ミラの顔色が青ざめる。

 その瞳には「どうせ逃げられない」という諦めが滲んでいた。


「おまん、よう聞け」

 リュオムが一歩前に出る。

「人は物やない。鎖で縛られとっても、志までは奪えん」

 奴隷商は鼻で笑った。

「戯言を。お前もすぐに市場に戻るんだよ」


 だが、そのやり取りを遮るように、冷たい声が降りた。


「竜魔紋を持つ者……帝国に従え」


 黒衣の仮面の男が、部下の兵を率いて現れた。

 観客席からリュオムを見下ろしていた影――今度は目の前に立っている。


「おまえの力は、この世界の秩序を揺るがす。魔王の器となりうる者……」

「魔王? わしはそんなもんになる気はさらさらないぜよ」

 リュオムは笑い飛ばした。


 仮面の男が片手を掲げると、兵士たちが剣を抜き、三人を囲む。


 戦闘が始まった。

 シン=トナリが数珠を掲げ、光の結界を展開。敵の刃を受け止める。

 リュオムは木剣を振り、竜魔紋の熱が全身を駆け巡るのを感じた。

 視界が冴え渡り、敵の動きが透けて見える。


「うおおおっ!」

 一気に斬り込み、兵を吹き飛ばす。

 しかし、仮面の男が迫ると、その力は圧倒的だった。

 竜魔紋が暴走しかけ、リュオムは膝をつきそうになる。


「……やっぱり、お前も鎖から逃げられない」

 仮面の男の嘲笑が耳を打つ。


 その時。

 ミラが叫び声を上げ、短剣を振りかざして仮面の男に飛びかかった。


「私はもう売られない! 縛られない!」


 刃が仮面の肩を裂き、わずかな隙が生まれる。

 リュオムは立ち上がり、その隙を突いて仮面の男を押し返した。


「……よう言うたのう、ミラ!」


 三人はそのまま必死に駆け、追っ手の包囲を振り切った。


 崖上にたどり着き、息を切らして立ち止まる。

 夜風が吹き抜け、遠くには帝国の旗が揺れていた。


 ミラは震える声で言う。

「……あたしも……親分の隊に入る。もう、誰にも鎖をつけさせない」


 リュオムは笑い、シンも静かに頷いた。

 三人の目に映る空には、竜を象るような雲が流れていた。


「これでえい。わしらの志は一つぜよ」


 海援隊の灯が、確かにともった瞬間だった。



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