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第9話 王都アガレス、秩序の名のもとに

王都アガレスは、巨大だった。


白亜の城壁は幾重にも連なり、街路は碁盤の目のように整えられている。

人間、獣人、エルフ――種族の違いはあれど、誰もが一定の距離を保ち、無駄な衝突はない。


表向きには、理想的な共存国家。


だが、違和感は確かにあった。


街角ごとに立つ兵士の数は多く、検問所では旅人一人ひとりに鋭い視線が向けられる。

掲示板には「秩序を乱す者を見かけたら通報せよ」という布告が張り出されていた。


――星紋を持つ者は、特に注意せよ。


その一文に、人々は無言で視線を逸らす。


秩序は、静かに息苦しさを孕んでいた。


王城の奥、政務の間。


玉座より一段低い位置に立つのは、王ではない。

王を支える実務の要――宰相ハルエルだった。


長い銀金の髪。

透き通るような肌。

人ならざる長命の気配を宿す、ハイエルフの男。


だがその眼差しは、どこまでも冷静で、感情に溺れない。


「報告を」


低い声が響く。


跪いた部下が答える。


「黒紋兵部隊、霊泉の村付近にて敗走。

 青い刃を持つ転生者が確認されました」


「被害は?」


「死者は……出ておりません」


一瞬の沈黙。


ハルエルは、ほんのわずかに目を伏せた。


「ならば良い」


怒りも、苛立ちもない。


「力を持つ者ほど、慎重に導かねばならぬ。

 混乱は、弱き民から血を流す」


側近が言葉を探す。


「……拘束、あるいは排除を?」


ハルエルは首を振った。


「急ぐな。

 “剣”ではなく、“意思”を見極める」


その声は、あくまで民の安寧を思う者のものだった。


だが同時に、そこには揺るがぬ決意があった。


――志は尊い。

――だが、志だけで国は守れぬ。


一方その頃。


森を抜け、街道を進む三人は、夜営の準備をしていた。


ミラは《青海》の鞘をじっと見つめている。


「……不思議な剣だね。

 触ってるだけで、海みたいな音がする」


リュオムは焚き火の前に腰を下ろし、剣を膝に置いた。


「剣を持った以上、守れるもんも増える。

 けんど……斬らんで済む道も、探したいき」


シンは数珠を握りながら、周囲を見渡す。


「王国が本気で動き出したな。

 黒紋兵を出すということは、相当だ」


「縛って守る国……か」


リュオムは火を見つめる。


「信じて任せるのと、

 縛って守るのと……どっちが正しいがじゃろうな」


答えは、まだ出ない。


翌日、街道で出会った商人から話を聞く。


「今の王国を動かしてるのは、宰相ハルエル様さ。

 転生者の管理政策も、全部あの方の判断だ」


「悪い人なの?」


ミラが尋ねる。


商人は首を振った。


「いや……むしろ立派なお方だ。

 戦を減らし、飢えを抑え、街を守った」


シンが小さく息を詰める。


「……妙だな」


「どうしたが?」


「名を聞くたび、胸がざわつく」


リュオムも同じ感覚を覚えていた。


理由は分からない。

だが、無関係ではないと直感が告げている。


夜。


焚き火の前で、リュオムは《青海》を膝に置く。


「縛って守る国と、

 信じて任せる世界……」


星空を見上げる。


その遥か彼方、王都アガレスの方向にも、同じ星が輝いている。


――同時刻。


王城の高楼。


ハルエルは夜空を仰いでいた。


「……同じ星を見ているか。

 名も知らぬ転生者よ」


彼の胸にも、かすかな疼きが走る。


まだ交わらぬ二つの志。

だが、確実に同じ時代を生きている。


世界は、静かに胎動を始めていた。


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