表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

今時合コン!?

──昼休み、社内の休憩スペース。

後ろからひそひそ声が飛んできた。


「ねぇねぇ、結衣ちゃん!」

声の主は総務の神谷さんと中村さん。


「今度の土曜、合コン行かない?」


「えっ、合コン……?今時?」

結衣は一瞬、飲みかけたコーヒーを吹きかけそうになる。


「ほら、中村の大学の友達で、商社系のイケメンが来るらしくて~」

「1人どうしても女の子足りなくてさ、お願いっ!」


「いやいやいやいや、私そういうの向いてないって!」

即答で断る結衣。


が――2人の食い下がりは止まらない。


「えー!? 何言ってんの! 結衣ちゃん絶対モテるって!」


「ていうか……実はさ、美人な子連れてくって言っちゃったの!ドヤ顔で!」


「うわ……それ聞いたら余計に行きたくないんですけど……」


「結衣ちゃんが来ないと、ほんとに人数割れなの。ほら、空気ってあるじゃん? ねっ?」


(うわあああ、すごい圧きた)


「いや、でも……そういうの、ちょっと苦手で……」


「ほんとお願い!今回だけ!!今日しか勝負できない男たちなんだって!」


(うわあああ……すごい圧きた……)


「ね、ね、お願い!結衣ちゃんが来てくれないとマジで人数割れなの!」


(く、苦しい……)


「……わ、分かりました。一回だけですよ!」


「やったぁ!!神!!」

「救世主!!」

2人はハイタッチして勝手に盛り上がる。


(……あーあ、行くことになっちゃった……)



──オフィス・夕方

結衣は橋本のところへ早歩きで近寄った。


「橋本……!」


「ん? どうかしました?」


結衣は声をひそめながら、机に手をついて真剣な顔で告げる。


「大変だ! 合コンに行くことになってしまった!!」


橋本は数秒だけポカンとし――


「……え、それが“大変”なんすか?」


「えっ?」


「いや……普通に楽しんできたらいいんじゃないですか?」


あまりに淡々と返された結衣は、小声で言った。


「お前……こっちは元アレ(元男)だぞ?」


「……はあ?」


「“はあ?”じゃねえよ!!」


「今はもうそっち(女性側)じゃないですか。男側の心理も分かって最強ですよ?」


「…お前に相談したのは間違いだった」


思わず小声で机を叩きそうになる結衣。



「もう約束…しちゃったんすよね?」

橋本はふっと笑って言った。


「…うん」


「大丈夫っすよ。結衣さんならモテますから!」


「地獄かよ!」



──合コン当日


とある駅近のお洒落なバル。

ほんのり暗い照明に、アンティーク調の木製家具。

いかにも「ちゃんとした合コン」っぽい雰囲気。


「じゃ、入ろうか」

神谷、中村、そして結衣が店に入る。


すでに奥のテーブルでは男性陣が待っていた。

ジャケットに整ったシャツ、さりげなく髪を整えた清潔感ある雰囲気。

確かに“モテそう”な空気がある。



三人が席に近づくと、男性陣が笑顔で迎える。


「こんばんはー、初めまして」

「今日はありがとうございます」


挨拶と笑顔が交差する中で――


男性たちの目が、一瞬だけ同じ方向に向いた。

視線の先は結衣だった。


誰も言葉には出さない。

だが、“綺麗だな”という空気が確かに流れていた。



軽く乾杯を済ませたあと、テーブルには和やかな雰囲気が流れていた。


「仕事って何されてるんですか?」


「趣味とかあります?」


「休みの日ってどんな感じなんですか?」


矢継ぎ早に飛んでくる質問は、なぜか全部――結衣に向かっていた。


「えっ、あ、私は……普通の事務職で……」

「趣味は、最近ちょっと体を動かすようになってきたかな……?」

「休みの日は、カフェとか……ですね」


答えるたびに、男性陣の頷きと「へぇ~」「いいですね!」の反応。


(ここで会話に乗っかるとぐいぐいくるやつだ!)


そして、心の中でつぶやく。


(やめてくれって……あくまで自分は人数合わせなんだ……)


神谷と中村の顔を見ると…

にこやかに笑いながらも少し引き気味だった。


(あ、やば、これじゃあ空気がおかしくなる)


結衣は心の中で軽くため息をつく。


(今日はこの二人のための席なんだから――)



「そういえば、中村さんって、学生時代バスケ部だったんですよ」


結衣はさりげなく話題を横に流す。


「え、ほんとに? 僕も高校までバスケやってましたよ!」


その一言で、場の空気がぱっと広がる。


「マジで? ポジションどこでした?」


中村が目を輝かせ、神谷も「うちの学校は女子バスケ弱くてさ~」と笑いながら話し始める。


(よしよし……このくらいでちょうどいい)


結衣はグラスを傾けながら、静かに話の輪を見守っていた。


――が、


「そういえば結衣さんって、スポーツとかしてたんですか?」

「この近くに住んでるんですか?」


なぜか流れはすぐに自分へ戻ってくる。


(……なんでまたこっちに戻ってくるんだ)


男性陣の視線も笑顔も、自然と結衣に集まる。

元男の感覚で、その理由も分かってしまうから余計に気まずい。


(いや、今日はあくまで人数合わせだって……)


作り笑いを浮かべながら、またも神谷と中村に話題を振る。

二人もそれに乗ってくれるが――数分後にはまた、男性陣の視線が結衣へ。


(……エンドレスかよ)


神谷と中村がちらりとこちらを見る。

その視線に「ごめん」という意味を込めて、結衣は小さく肩をすくめた。


それでも、男性陣の会話の流れはまた自分に戻ってくる。

質問、相槌、笑顔――すべてが自然にこちらへ集まってくる。


(いやいや、今日は二人が主役だっての……)


そう思えば思うほど、妙な居心地の悪さが胸に溜まっていく。

テーブルの隅に置かれたグラスへ、自然と手が伸びる。


一口、また一口。

冷えた白ワインの香りが喉を抜けるたび、もやもやが少しだけ薄れる気がして――またグラスが傾く。


「結衣さん、お酒強いんですか?」

「え、あ……まあ、普通……です」


ワインを何杯飲んだのか、もう覚えていない。

気づけばグラスの氷は溶け、会話の声も遠くなっていた。


「……あ、やば、ちょっと酔ったかも」

そう口にした瞬間、神谷と中村が心配そうにこちらを見る。


(今日はもうお開きだな……)

そう思ったあたりから、記憶は途切れ途切れになった。

タクシーに乗った……気がする。

外の夜景を眺めていた……気もする。


――そして。


まぶたの裏に、ぼんやりとした光が差し込む。

目を開けると、見慣れない天井。

淡いピンク色の壁紙に、大きな鏡付きの壁。


(……は?)


掛け布団を握る手が震える。

ふわふわのカーペット、そして――淡いピンク色の壁紙に大きな鏡。


(どう見てもラブホじゃねぇか!!)


心臓が嫌な音を立てる中、そっと横を見る。

そこにいたのは――合コン相手。


ではなく、橋本だった。


「……おい!!」

結衣はガバッと起き上がり、声を荒げた。


「何だここは!! 何でラブホにお前といるんだよ!!」

橋本は半分寝ぼけたような顔で、ゆっくりまばたきをした。


「……ああ、起きたんすね」


「“ああ”じゃねえ! 説明しろ!!」


一体何がどうなっているのか分からない。

混乱と羞恥と怒りが一気にこみ上げる。


「昨日の夜、合コンだったんだぞ!? 何で隣にお前がいるんだよ!」


橋本は片手で頭をかきながら、淡々と言った。

「いや……結衣さんが俺を呼び出したんすよ」


「はぁ!? 呼んでねぇよ!」


「いえ、呼びました。“合コンはお開きにするから飲み直そう”って」


結衣は眉をひそめる。

(……覚えてない。何も覚えてない)


橋本は淡々と続けた。

「で、行ったら……結衣さん、すぐ酔いつぶれて。ひとりじゃ危なくて……」


「それで!?」


「またホテルに泊まろうとしたんすけど――全部満室でした」


「……満室?」


「ええ。土曜の夜ですからね。で、仕方なく……ここが空いてたんで」


結衣は頭を抱えた。

「よりによってラブホかよ……!」


「いや、他になかったんですって。…マジで何もしてないですから」


「当たり前だ!!」


橋本は肩をすくめ、コンビニ袋を差し出した。

「ほら、スポドリ。二日酔いに効きますよ」


結衣は受け取りながらも、まだ眉間のシワは取れなかった。

(……何やってんだ私は)


確かに、スマホの画面には昨夜送ったメッセージが残っていた。

『合コンはお開きにするから飲み直そう』


(……マジで呼んでる……)


頭を押さえながら、結衣は昨夜の断片的な記憶を探る。

(ていうか、合コンどうなったんだ? 途中で抜けたのか……?)


神谷や中村は?

あの後、場はちゃんと盛り上がったんだろうか?

それとも空気が変になったまま終わったのか……。


考えれば考えるほど、胸の奥にじわっと罪悪感が広がっていく。

とりあえず、今日の昼休みに二人に謝らなきゃ――


そう決意したところで、橋本がぽつりと口を開いた。


「……あ、そうだ。昨日の帰り際に、ちょっと変なこと言ってましたよ」

橋本は意味深な顔をする。


「……は? 変なこと?」


結衣の心臓が、一拍遅れて跳ねた。


(……何、言ったんだ私!?)

もう少し合コン時に内容を掘り下げたかったのですが、

中々難しいもんですね苦笑


評価やブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ