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第1話『どこか知らない場所』

 先程まで夕食を食べていたはずのステイシオスは、


 突然の出来事にビックリし、


 手に持っていた木のスプーンを落としてしまった。



 「ここ、どこだろ……」



 突然目の前から両親がいなくなり、


 更には家具も、


 家も、


 村も、


 全てがどこかへ行ってしまい、


 まるで、


 一人だけ知らない世界へ飛ばされたような感じ、


 この感覚に触れ彼は、


 これが初めての体験では無いという事を思い出し、


 久しぶりの転移を経た彼は、


 物心付く前から額に在った傷を、


 無意識に触りながら気を失いその場に倒れた。




 気を失ったステイシオスは、


 忘れていた転移の記憶の数々を夢の中で体験していた。



 薄暗い森、


 穏やかな黒い海、


 自由に泳げる空の上、


 人が沢山いて夜なのに明るい街、


 その全てが今のステイシオスにとっては初めてだが、


 懐かしい、


 そんなおかしな感覚を何度も体験していく内に、


 いつの間にか彼は薄い毛布の掛けられた、


 布団の中で目が覚めた。



 「お爺さん!赤毛・・子供・・起き・・・・・・・・!」



 そしてすぐ隣で聞こえて来る声にビックリし、


 ステイシオスは飛び起きた。



 それは所々単語が聞き取れるくらいの言語で、


 ステイシオスが暮らしてた村の言語とは少し違っていた。



 「あぁ、良か・・・・良か・・・・……」


 「私・・・・山・・倒れ・・・・・・・・見た・・ほっとけない・・・・・・・・・・」


 「お爺ちゃん?お婆ちゃん?助けてくれてありがとうございます……」



 ステイシオスは勇気を出してそう言うと、


 老夫婦側からも所々聞き取れないところがあるようで、


 その途切れ途切れの言葉にビックリしていた。



 「所々・・・・・・語・・おかしい・・・・、・・・・子、・・・・・・・・外人・・・・・・?」


 「さぁ、分から・・・・・・」


 「まぁどうも無さ・・・・・・良かった・・」


 「そう・・・・・・・・……言葉・・途切れ途切れ・・・・・・伝わ・・・・・・・・・・・・」



 ステイシオスは、


 また眠くなり、


 二人に敵意は感じられない事から、


 安心して眠りに就いたのだった。




 時間は飛び、


 ステイシオスがこの世界に転移して一年が経った。



 この世界の日本語という言語の発音や文字の形成の仕方が、


 彼のいた世界のモノに似ていたのもあり、


 数カ月でこの世界の言葉を介せる様になっていた。



「ステイシオスくーん!こっちも手伝ってちょうだい!」


「分かったよーお婆ちゃん!」



 最初は嫌がっていた薪割りも、


 行き場を無くしたステイシオスに対して、


 無償でご飯を食べさせてくれる老夫婦に申し訳なくなっていき、


 自ら始め出し、


 段々と回数をこなす内に上手くなり、


 今では数十本程度の薪なら数分で片が付くようになっていた。



 ここでの生活に慣れたステイシオスは、


 時々両親の事を思い出しては、


 どうやったらあの世界に帰れるのかと考えていた。



 ステイシオスが老夫婦の家にして数週間が経ったある日、


 どこから来たのか、


 などの質問攻めに遭った際に、


 自らの出自や、


 この山に来た方法を喋ったが、


 所詮子供が自分の家に帰りたくなくて言っている嘘だと思われてたのだった。



 「ステイシオス君がいたいだけいて良いのよ」


 「そうじゃよ。わしら老いぼれ二人じゃ寂しかったからのぉ」



 二人ににはそう言われたが、


 嘘偽りの無い事実だったので、


 ステイシオスは複雑な感情になっていた。



 額の傷以前の出来事を思い出していたステイシオスは、


 あの時の息をするように転移していた感覚を維持しながら、


 なんとか元の世界へ転移しようと頑張っていたが、


 戻れる兆しは微塵も無く、


 そもそも肝心の転移が発動しないでいた。



 その為、


 老夫婦はステイシオスは本当に帰る場所が無い子供と思われてしまったのだった。




 この老夫婦が住んでいる所は、


 周りに村や街など一切無い山の奥深くであり、


 近くに相談出来る場所も無いため、


 老夫婦は困り果てていた。



 「はて、()()()()()()君は、一体どこから来たんじゃろうか」


 「本当ですねぇ、こんな山奥に歩いて来たのかしら」


 「そんな事はないじゃろう。きっと車で近くまで連れて来られて、親に捨てられたんじゃろう。可哀想になぁ」


 「こんな山奥じゃあ他に頼れる人はいないからって、最初は数日泊める予定でいたけど、結局一年を超すなんてねぇ」


 「まぁええじゃないか。老いぼれ二人じゃ限界のあった雨樋(あまどい)の修理もやってくれたし、すていしおす君は頑張ってくれておる」



 そんな老夫婦の会話を(ふすま)の向こうから、


 寝ながら聞いていたステイシオスは、


 老夫婦に感謝しながらも疲れた身体を癒す為に、


 眠りに就いたのだった。




 老夫婦の朝は早い、


 ステイシオスの起きる時間には既に起きており、


 畑仕事や洗濯などを早朝からやっている。



 食事は自給自足で、


 お爺さんからは畑の仕事などを、


 お婆さんからは料理の仕方などを教わっていた。



 そのお陰で様々な農知識や料理の知識を手に入れたステイシオスは、


 自ら畑を作って農作物などを育てては、


 それを使って元の世界の料理などを再現していた。



 そんなこんなで数年一緒に暮らしていると、


 ある日突然元の世界へ転移したのだった。

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