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第４章ぜよ

　彼は、そろばん塾が嫌いであったがじゃ。

　もともと自分からすすんで入塾したわけじゃないし、土日に塾がやっちょったため、貴重な休みの日の半分近（はんぶんちこ）うが、つぶされてしまうきや。

　やけんど、塾外の環境はまっこと気に入っちょった。

　塾の周りはちっくとした空き地のようになっちょって子供たちの遊びの場になっちょったし、近くには何軒もの駄菓子屋があり、良作もそこでよう菓子を買（こ）うて食べたものや。

　月に千円の小遣いやった彼が、それほど毎週菓子を食べることはできざったが、駄菓子屋に寄ってさまざまなお菓子や陳列（ちんれつ）してある水鉄砲らあのおもちゃ類を眺めちゅーだけでも、十分心の栄養になったものやった。

　塾の裏手は、地域の公民館になっちょり、そこに設置された長いベンチには、そろばんの「ノルマ」を終えた子らが座って菓子をほおばりもって、ゆうべ観たＴＶ番組や自分の好きなアイドル歌手の話をするのや。

　家ではＮＨＫの教育番組しか観（み）せてもらえざった良作は、ここでアイドルやヒット曲、はやりのグッズやサブカルチャーに関する貴重な情報を得（え）ちょった。

　もちろん、上級生・下級生も含めて友人のひとりも持たざった彼が、会話に参加したくてもできるものではなかったき、話をするグループのそばをろいろいしもって、それとのう聞き耳を立てるというスタイルで情報収集を楽しんじょったのや。

　良作は、駄菓子屋のいくつかのはす向いにあるこんまいゲームセンターにも、おそるおそる入ってみたぜよ。　

　その当時、ゲームセンターに出入りする者は、いわゆる「不良」とみなされ、学校でも児童の出入りを固（かと）う禁じちょった。

　実際、素行（そこう）の良（よ）うない中高生や怪（あや）しげな大人らぁのたまり場となっちょって、中はタバコの煙でモクモクしちょったし、そのうえ壁のあちらこちらには半裸の女性のヌード写真が何枚も貼ってあったがやき。

　・・・教育上、えいはずがない。

　好奇心から入ってみた良作やったが、いっぺん入っただけでよけであったが。

　その場におった「人種」にも嫌悪感（けんおかん）をおぼえ、狭い店内の異様な空気感と息苦しさにいたたまれのうなったがじゃ。

　ここは学校側の言うように、自分がおるべき場所じゃないな、と体で理解できたのや。

　彼がここに入ることは、二度となかったぜよ。