舞踏会前日(3)
深夜、オルフェ家の屋敷では火災の後片付けが続いていた。イーシャの部屋は煙の臭いが消え、使用人たちは疲れた表情を浮かべながらも修復作業に追われていた。エリナは心配そうにイーシャを見守りながら、部屋の修復を指示していた。しかし、その静けさを破るかのように、屋敷の外から不穏な音が響き渡った。風が強まり、暗闇の中に不気味な気配が漂う。エリナは異変に気づき、眉をひそめた。
「何かおかしいわ。外の様子を見てくる。」
エリナが屋敷の外に出ると、闇の中から黒いローブをまとった一団が静かに屋敷の門に近づいていた。彼らの動きはまるで影のように素早く、門が破壊される音が響いた。侵入者たちが屋敷内に突入し、激しい音と混乱が広がった。
「襲撃よ!」エリナの声が響き渡り、使用人たちは慌てて武器を手に取ったが、侵入者の数と戦闘経験の差に圧倒された。イーシャはその音を聞き、恐怖で震えながらも自分の部屋に隠れた。
その混乱の中、アルベルトは剣を手に廊下に立ち、屋敷を守るために立ち上がっていた。彼は冷静に構え、侵入者たちの一団を迎え撃つ。彼の剣さばきは鋭く、一閃一閃が確実に敵を仕留めていく。敵の刃をかわし、鋭い突きを繰り出す動きはまるで舞踊のようで、その姿は威風堂々としていた。
アルベルトは使用人たちに向かって強く叫んだ。「イーシャを守れ!イーシャを絶対に逃がすんだ!」
その言葉には、家族と屋敷を守るための強い決意が込められていた。しかし、侵入者たちは次々と現れ、彼の周囲を取り囲む。父は決して後退せず、家族を守るために剣を振るい続けた。しかし、数で圧倒する敵の前に彼の体力は徐々に限界に達していった。彼の動きは次第に鈍くなり、ついには一人の侵入者が彼の隙を突いて致命的な一撃を加えた。彼は力尽きて床に倒れ、静かに目を閉じた。
屋敷の内部は瞬く間に混乱の渦に巻き込まれ、激しい戦闘が繰り広げられた。エリナは傷だらけになりながらも、必死にイーシャの部屋に向かい、彼女を守ろうと奮闘していた。エリナの目には決意の光が宿っていた。
エリナがイーシャの部屋に到達したとき、彼女の体は血にまみれ、息も荒かった。火の手が部屋の中に迫り、エリナは力を振り絞ってイーシャに向かって叫んだ。
「お嬢様、お逃げください!このままでは間に合いません!」
イーシャはエリナの必死の呼びかけに神妙な面持ちで頷いた。「でも、エリナさん…あなたは?」
エリナは微笑んだ。「私は大丈夫です。お嬢様が安全に逃げることが何よりも大切です。急いでください、どうか…」
エリナは最後の力を振り絞ってイーシャを押し出し、彼女が逃げる時間を稼ごうとした。イーシャは涙をこらえ、部屋を飛び出した。炎と煙の中を駆け抜け、屋敷の外に脱出した。外は黒煙と火の光で一面に染まっていたが、イーシャは必死に森の中に身を隠した。
ついに、屋敷は完全に火の海と化し、夜空に赤い光を放ちながら燃え続けていた。イーシャは森の中で安全を確認しながら、心を痛めて屋敷の崩壊を見守った。
深夜の混乱が続く中、襲撃者たちは屋敷内を徹底的に捜索していた。リーダーの男は冷酷に指示を出し続け、「予言の子が隠れているはずだ。全員、残る手がかりを探せ」と命じた。
襲撃者たちは屋敷の崩れた廃墟の中を手分けして捜索していた。焦りと苛立ちの入り混じった彼らの動きは迅速かつ効率的で、壁の隅や破片の下、地下室や屋根裏まで、ありとあらゆる場所を徹底的に調べ上げていた。しかし、イーシャの姿はどこにも見つからなかった。
リーダーの男は屋敷の中を歩きながら、焦りの色を隠せなくなっていた。「こんなことはないはずだ…予言の子がいると言われているのに…どこにもいないとは。」
一人の部下が疲れ切った様子でリーダーの元に戻り、息を切らしながら報告した。「リーダー、屋敷内を調べましたが、予言の子の姿はどこにもありません。すべての部屋を調べましたが、痕跡すら見つからない状況です。」
リーダーは眉をひそめ、冷静さを取り戻そうと努めたが、その顔には疑念と苛立ちが浮かんでいた。「本当に予言の子がここにいたのか?情報が間違っていたのか?」
部下たちは無言で首を振り、リーダーの不安をさらに深めた。屋敷の外では火がまだ燃え続け、灰と煙が空を覆っていた。リーダーはその光景を見つめながら、冷たい声で指示を出した。
「全員、引き上げろ。予言の子がここにはいない可能性が高い。情報を再確認し、次の手を考えよう。」
部下たちはリーダーの命令に従い、撤退を開始した。彼らは急いで屋敷の周囲を離れ、引き上げていった。リーダーは最後に一度、焦燥と不満の入り混じった視線を屋敷の廃墟に向けた後、自らも後を追った。