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舞踏会前日(2)

その日の夜、イーシャは自分の部屋で一人考え込んでいた。剣の修行や父の言葉、エリナとの会話を思い返しながら、ふと前世の記憶が蘇った。「お父様は魔法の力が薄れていると言っていたけど、前世では魔法を使えたし…」と彼女は内心でつぶやいた。


「もし、この世界でも魔法が使えるなら、確認してみる価値があるかもしれない…」彼女はそんな期待を胸に、小さな実験を決心した。部屋に置かれた人形に目を向け、イーシャは前世で使っていた魔法の詠唱を思い出し、心の中で唱えた。


「エレメンタル・フレイム!」


ドカーン!大きな音が鳴り響いた。


瞬時に部屋が煙に包まれ、激しい炎が人形を飲み込み、その人形は跡形もなく消え去った。煙はまるでドラマティックな幕のように部屋中を覆い尽くし、部屋は一瞬で火の海と化した。


「いったい、どうしてこうなったの…?」イーシャは困惑しながら、火の勢いに圧倒された。


騒音を聞きつけた使用人たちやエリナが慌ててイーシャの部屋に駆けつけてきた。


「イーシャ様、ご無事ですか!」エリナは焦りながら部屋に入ってきた。彼女の顔は真っ青で、火の勢いに驚いていた。


「ごめんなさい、エリナ。ちょっと試してみたかっただけなの…」イーシャは申し訳なさそうに言った。部屋の火がどんどん広がっていくのを見ながら、どうにかしなければと思った。


「お嬢様、お怪我はありませんか?」エリナはイーシャの手を取りながら心配そうに尋ねた。


「大丈夫、怪我はしていないわ。」イーシャは苦笑しながら答えた。「ただ、ドレスやアクセサリーがどうなったのか心配だわ…」


エリナは部屋の中を見渡し、火の勢いを見て驚きながらも目を輝かせた。「イーシャ様、これは…すごい魔法です!こんなに強力な炎を操るなんて、驚きました。」


「え?でも部屋が燃えちゃって…」イーシャは困惑しながら言った。


「それは確かに驚きですが、魔法の力そのものは素晴らしいものです。」エリナは興奮を抑えつつ、感激の表情を浮かべた。「お嬢様がこんなに強力な魔法を使えるとは、さすがです。」


「でも、こんな大きな音を立ててしまったし、部屋も…」イーシャは心配そうに続けた。


「魔法の力が強すぎると、時には危険が伴うこともあります。」エリナは真剣な面持ちで言った。「特にお嬢様のように強力な魔法を操る場合、その力を狙う犯罪者が現れることもあります。もちろん、お嬢様くらいの魔法の使い手ならば、その危険を跳ねのけることもできるでしょう。しかし、お嬢様はまだ7歳、何が起こるか分からないのです。ですので、極力控えていただけると良いかと思います。」


「なるほど…それなら、次からはもっと注意するわ。」イーシャは理解し、頷いた。「でも、どうしても今後も魔法を使いたくないわけではないの。」


エリナは少し考え込み、柔らかく微笑んだ。「では、こうしましょう。お嬢様が学園に入学するまで、魔法を使わない約束をしましょう。学園では、きちんとした指導の下で魔法を学ぶことができますから、その時に必要なことを学べるはずです。」


「うーん…それは良い案ね。」イーシャは考え込みながらも頷いた。「それなら、学園に入学するまでは魔法を使わないようにするわ。」


「ありがとうございます、お嬢様。」エリナは安心した様子で微笑んだ。「お嬢様の安全が最優先ですし、何より舞踏会や学園生活に集中できるようにするためにも、この約束はとても大切です。」


「わかったわ。ありがとう、エリナ。」イーシャは感謝の意を込めて言った。エリナの言葉に従い、魔法の力を控えることで、少しだけ安心感を得ることができた。


「今、大きな音がしたが、大丈夫か!」慌てている様子の父がイーシャの部屋に入ってきた。


「なんだこれは…?」部屋の変わり果てた様子に父は絶句した。それを見たエリナは、今あったことをありのままに話した。


「そうか、イーシャには魔法が使えたのか。もしかしたらこの子が先代が残した…」父は深く考えていた。そして、「魔法が使えることは良いことだ。そして、エリナが言ったことは守ることだ。わかったな」


「はい、お父様。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」


「いや、迷惑なんかではない、ただ驚いただけなんだ。エリナ、大変かもしれないが部屋の片づけを手伝ってくれ」そう言い残し、父は部屋から出て行った。


エリナと一緒に使用人たちと消火作業を進めながら、イーシャは新たな決意を胸に秘めていた。

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