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虹の欠片5

大変お待たせしました

続きです

【瑠璃】


 琴美にはああは言ったけど、本当は私の方が先にリタイヤするところだった。私が今も生きていられるのはあの子のおかげ。


 私の初グラビアが週刊誌に載った日、お兄ちゃんが早朝にコンビニで家族分4冊買ってきてくれた。「んー。瑠璃の魅力の半分も撮れてないな。今度はパパが撮ってやるよ」パパに水着姿撮られるのはなんか嫌だ。

「でも、この写真なんかいいんじゃない?」ママの昔の写真をネットで見たけど、確かに負けてはいないと思う。

「初めてにしては良くできてると思う」お兄ちゃんは褒めてくれた。

 家族の反応はまあまあ。ネットの反応はどうだろう?

『板垣瑠璃いい体四天王』

『エロくない?』

『板垣瑠璃のグラビアお世話になります』

『早朝から3回〇いた』

『オレなんか5回』

『どんだけ絶倫なんだよ笑』

 ……なにこれ。

 そうか……みんなそういう目で見てるんだ。男が見ているのは私の水着姿じゃなくて、その下。私の裸。そして色々想像して興奮したんだ。もうグラビアはやりたくない。裸をみんなに見せたくない。好きでもない人に、恥ずかしい姿を想像されたくない。


「私、もうグラビアやりません」事務所へ行き、マネージャー兼社長にはっきりと言った。

「ええ!?今週号が好評で、もう次のオファーが来てるし、仕事選んじゃだめだよ」

「絶対に嫌です。もし強制するなら事務所辞めます」

 すったもんだの挙句、次のミュージカルだけ出て、事務所を辞めることになった。


 ミュージカルは、ゲーテのファウストを現代風にアレンジしたもので、私はヒロインの役。ヒロインに一目惚れして、悪魔と契約して若返る主役の男は、7歳歳上の榛葉耕一郎さん。

 私って昔から同級生には興味がない。なんか子供っぽいし、断然歳上がいい。けど、座組で「いいな」つて思う人は大体既婚者。榛葉さんは独身だし、ストイックで真面目そうな上に、熱量の高い演技や激しいダンスも素敵。

 しかも演技とはいえ、「愛してる」とか真剣に言われてメロメロ。だから

「瑠璃ちゃん、いっしょに食事どう?」と誘われて

「行きます行きます!」と二つ返事でOKした。いっしょに来る予定だった人たちは、気を利かせたのか、結局二人で食事に行くことになった。

「瑠璃ちゃんはダンスがいいね」

「小さい頃からやってますから」やった。褒めてくれた。お店じゃなかったら飛び上がって喜ぶところ。

「歌もいい。歌も小さい頃から?」

「ボイトレは事務所入ってからですが、母の真似して小さい頃から歌ってました」

「ああ、お母さんは中川華蓮さんだったね、演技も上手いのはそのせいかな?」

「あ、いえ。演技はまだまだです。榛葉さんは流石って感じですよね、ダンス素敵だなっていつも思ってます」

 榛葉さんはネットの人みたいにディスったりしないし、家族みたいに贔屓目に見てくれたりしない。前向きで真面目で真剣で熱い。素敵。こんな人とお付き合いできたらなぁ。そう思っていたので、数日後飲みに誘われた時も、その後のホテルも付いていった。だってずっと一緒にいたかったから。榛葉さんなら見せてもいいと思ったから。

 思った通り、初めての私に優しくしてくれた。ずっと「ちゃん」付けで呼ばれていたから、お願いして呼び捨てにしてもらった。


 ホテルを出る時、「いっしょだと色々とアレだから先に出て」と言われて「アレって何?」って思ったけど、面倒くさい女だと思われたくなかったから、そういうものかと思って、一人で夜のカブキを歩いた。

 普通の女の子だと夜の、しかもカブキの一人歩きは超危険だけど、私は琴美のお父さんに空手を習ったから平気。チンピラの一人や二人なら余裕で倒せる。小学生の頃は日本中が危険地帯だったけど、今は平和だしね。

 そういえば、最近公園やミュージシャン通りに来てなかったけど、知り合いいるかな?

 地ベタに座って飲んでるグループ。知らない人たちばかり。

 音楽に合わせて踊ってる人たちも、知らない顔。曲のジャンルもあんまり好きじゃない。

 あ、女のストリートミュージシャンって珍しくない?どれどれ。

♪♪♪♪~

 ヤバい!この人の歌もギターもプロ級。スゴすぎる。心がブルブルする。私は気付いたらリズムを取って聴き入っていた。

 パチパチパチパチ……

 この人と仲良くなりたい。話しかけちゃおう。

「私、ファンになっちゃいました。いつもここでやってるんですか?」

「ああ、うん。最近ここ来たばっかり」

「私、ルリっていいます。瑠璃色の瑠璃。20歳です。良かったらお名前教えてください」

「……アヤカ。私もハタチ」

「えっ?タメ?じゃあアヤカって呼んでもいいですか?」

「いいよ。じゃあ私も瑠璃って呼ぶ」

「まだ演る?もうちょっと聴きたいな」

「うん、いいよ」

 あ、この曲大好き。

「ねえ、横で踊ってもいい?」

 アヤカは歌いながらうなづいた。

 振りが決まってるわけじゃない。私が感じるままに体を動かせるのは、この曲が有名だから。歌に合わせて思ったように。

 あっ!若草色のワンピースのお姉さんがハモリ出した。お姉さんもものすごく上手い。そうそう、この曲って二人で歌う曲だもんね。ヤバい。めっちゃ楽しい。


 数日後には、ミュージカルの稽古、榛葉さんとホテル、アヤカやお姉さんとのセッションを繰り返す毎日になった。舞台が始まってからも、アヤカには必ず会いに行って踊った。

「お姉さん、お名前教えてください」

「私はキララ」そう言ってお店の名刺をくれた。

「歌ものすごく上手いですね」

「うん、実家が田舎だから遊びってカラオケぐらいしかなかったの。あなたのダンスも凄い上手。プロのダンサーさん?」

「一応ミュージカルとかやってます」

 あっ、でも今の舞台が終わったら、次のアテはないんだった。


 舞台が千秋楽を迎えた。マチネ、ソワレと終えて、全員で打ち上げ。今日は榛葉さんと二人になるのは無理そうだし、アヤカのところもお休みかな。打ち上げが終わった後でいいから、榛葉さんと二人きりになりたい。

 よし、解散。榛葉さんは……あれ?いない。LINEしてみよう。

『二人きりになりたいです』

 5分、10分。いつもなら即レスなのに、既読にすらならない。電話してみよう。呼び出し音が一度も鳴らずに切れる。

 嫌な予感がする。Xを見てみよう。あれ?フォローが外れてる?アカウント検索、あった。

『このユーザーにブロックされています』

 嘘!お願い、間違いであって。

 榛葉さんが持っていないかわいい系のLINEスタンプをプレゼントしてみる。お願い。

『このユーザーはすでに持っているのでプレゼントできません』

 全部ブロックの上、着信拒否……。どうして?私たちは真剣にお付き合いしていたんじゃないの?でもこれは……。

 私、捨てられたんだ。榛葉さんにとっては期間限定の遊びだったんだ。私は真剣だったのに……ずっと、ずっと一緒にいられると思ったのに……。

 私は気がつくとミュージシャン通りに来ていた。≪今日私の心は死んだ。粉々に砕け散り 大きな音と共に崩れ落ちた≫

 アヤカの歌を聴いてる内に、涙が止まらなくなった。終電で帰る人たち、今日の宿が決まった人たちが帰り

「瑠璃ちゃん、大丈夫?」

「…………はい」

「私そろそろ帰るね」綺羅々さんも帰って、私とアヤカだけになった。

「今日は踊らないの?」

「…………うん」

「私はネカフェに泊まって始発で帰るけど、いっしょに行く?」

「…………うん」

 雑居ビルの二階から八階まで占められた大きなネカフェで個室をとった。アヤカも私も同じ六階。

 そうか、この高さなら……あそこの窓が開く。

 ちょっと高くなっている窓枠によじ登った。パパ、ママ、お兄ちゃん、琴美。さようなら……。

 急に後ろへ引っ張られて、窓から引きずり下ろされた。

「バカ!何やってんだよ」

 アヤカ……。

「死んだら悲しむ人たちがいるんだよ。親とか友達とか。私だって瑠璃が死んだら悲しいし、綺羅々さんだってきっと悲しむよ」

「死んじゃえば全部無くなるんだから関係ないよ……」

「そうだよ、過去も未来も嬉しかったことも楽しかったことも、これから起こる楽しいことも全部無くなっちゃうんだよ。瑠璃は私たちとやってたこと楽しくなかったの?」

「……楽しかった」

「私は小さい頃から音楽やってきたけど楽しくなかった。私が発してたのはただの音だった。それを楽しくしてくれたのは、音楽にしてくれたのは瑠璃なんだよ。私はこれからも音楽やりたい。そのためには瑠璃が絶対必要なの。お願いだから私といっしょに音楽やってよ。これからもいっしょに楽しいことやろうよ」

 アヤカも泣いてる。

 確かにアヤカの歌はもっとたくさんの人に届けるべき歌。たくさんの人の心を震わせる歌。

「アヤカが続けるのに、私が必要なの?」

「うん、絶対に絶対に必要!」

「私がいたらもっと楽しくなるの?」

「うん、きっとすっごくすっごく楽しい!」

「私も楽しくなれるかな?生きてた方が……いいかな?」

「うん、うん!」

「分かった。アヤカの言う通り生きてみる」


 琴美も加わって、アヤカと綺羅々さんと私の四人でパフォーマンスするようになった。

 楽しい!今この瞬間に感じたまま歌って踊ることが楽しい。

 明日どうなるかとか全然わかんないけど、それでいい。この楽しい時がずっと続いてくれればそれでいい。

 たくさんの人が、見て手拍子して体を揺すって楽しんでくれるようになった。そうか、私たちだけじゃなくて、見てる人や聴いてる人たちも楽しいんだ。楽しさは共鳴するんだ。


 そして、ある日「私たちの明日はこっちだ」と教えてくれる人が現れた。

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