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虹の欠片3

 その後、私の人生に様々なことが起き、特にあの暗黒の二年間、その後の償いの日々の中で、『あれ』のことはすっかり忘れてしまった。そんなある日、大変お世話になった高梨社長から連絡があった。

 人間は寿命には勝てない。だが夢は引き継ぐことができる。第二期ニジドリ結成の夢を引き継いでほしいとのことだった。


 以前、私は『あれ』を再現することはできないと思った。しかし、その後たくさんの本を読む中で、不可能を可能にした人物が幾人もいることを知った。

 ワイルズは、二百数十年間多くの数学者を挫折させ、不可能といわしめたフェルマーの最終定理の証明に成功した。

 アインシュタインは、光速で動く物体などに関する相対性理論を頭の中で構築した。

 そしてオイラーは神すらも超えた。

 神を説いた開祖たる人間は皆「宇宙は無限」と信じていた。例えば真言宗の空海は「宇宙は大日如来である」と言った。

 しかし現代においては「宇宙は有限」であり、世界は11次元まであると知られている。旧来の概念では、神よりも大きなものがあることになってしまい、この世とあの世以外にもいくつも世界があることになってしまう。

 オイラーが成し遂げたことを中学生でも分かるように説明すると、まず無限に続き永遠に割り切れない自然対数の底eと、eと全く無関係であるが、同じく無限に続き永遠に割り切れない円周率π


e=2.71……

π=3.14……


 それと自然界には存在せず、見ることも感じることもできない虚数i


i=√-1


 この三つを組み合わせて


eのπi乗


 という宇宙より神より広大で、無限で、感知も想像すらもできない途方もない数について考えた。

 そしてこれに1。ただの整数の1を合わせると


eのπi乗+1=0


 なんと0になってしまうことを証明したのだ。オイラーは宇宙も神も超えた途轍もない何かが確かに存在することを証明したのだ。

 私はワイルズにもオイラーにもなることはできないだろう。しかし三十年かけて手でトンネルを掘った禅海和尚にならなれるかもしれないと思った。

 虹のように輝く女の子をたった七人、再び集めることならできるかもしれないと思った。

 七には不思議な性質がある。

 1から7までの七つの整数を合わせると、28という、掛け算でもないのに7の倍数になる。この28を約数という形でバラバラにする。1と2と4と7と14と28。

 この内の28そのもの以外を合わせると、また28に戻る。七はバラバラになっても元に戻るのである。

 私は直感を信じることにした。就いていた職を辞して、高梨社長の跡を継いで二代目ベリージャムプロダクション社長になることを決めた。

 程なく株の譲渡に必要な書類、引き継ぎ事項、在籍者名簿などが送られてきた。

 在籍中のタレントのファイルにはユキちゃむとカレンの履歴書と、今年度分の業務日報がとじられていた。住所や本名や連絡先が赤ペンで丁寧に修正されていた。旧メンバーの分もあったが、当面必要なさそうなのでバラバラとめくって見るにとどめた。偶然にもミオタンの現住所の部屋番号が私の誕生日と同じであったことに気づいたが、それだけだ。

 私はオーディションではなく、自らの足で第二期メンバー七人を集めようと思った。

 三年が経過したが、まだ候補すらみつかっていない。ダイヤモンドとまでは言わない、サファイアやルビーの原石でいい。

 私は今日も東京を歩き回り、虹の欠片を探している。

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