遭難信号
西暦3011年
とある場所にある航空宇宙局で1件の信号を傍受した。
「リーダー、信号を傍受しました。」
「信号の内容は?」
「メインモニターに開示します。」
メインモニターに映し出されたのは遭難信号であった
【ワレキュウジョモトム エミリー カーペンター】
「エミリーカーペンターだと?」
リーダーと呼ばれた男は首をかしげた
「遭難者リストから洗い出します」
「1件ヒットしました、3年前に消息を断っているベガ号の乗組員と思われます!」
信号を傍受した局員が叫んだ。
「ベガ号だと!あのベガ号か!」
リーダーの男も何かを思い出したかのように慌てて叫んだ。
「あのベガ号のようです、これは大変な事ですよ」
局員の声は震えている。
「至急大統領に伝えなくては」
リーダーはさらに慌てて電話に手をかけた。
それから2日後
大勢の記者の前であの航空宇宙局のリーダーと呼ばれていた男が話を始めた
「お忙しい中お集り頂きありがとうございます。航空宇宙局のアランと申します。本日お集り頂きましたのは」
アランは一呼吸置いて続けた
「お集り頂きましたのは、3年前消息不明になり世間を騒がせたベガ号の乗組員から遭難信号を傍受したためです」
記者で埋め尽くされた会場は一気に喧騒へと変わった。
「ベガ号だって?!植民地探索船のベガ号ですか?!」
「そうです、皆さん落ち着いて聞いてください」
アランは会場全体をなだめるように言った
「信号はベガ号料理長のエミリーカーペンターより送られてきておりまして、
【ワレキュウジョモトム エミリー カーペンター】
とだけ送信されてきております、詳細はわかっておりません」
「生存者は他にいるのですか!」
「落ち着いてください、先ほども述べたように、我々も詳細はわかっていません。
我々が把握しているのは少なくともカーペンター料理長は生きているということ、こちらからの通信が遮断されていることと、ベガ号の座標を割り出せたことだけです」
「座標がわかっているということは、救助可能ということですか?」
「はい、ですが問題がいくつかあります。」
アランは記者達を刺激しないよう慎重に言葉を選びながら言った
「1つはベガ号のいる所まで3光年の距離があり、現代の技術をもってしても助けに行くのに半年はかかる距離にいること。もう一つはベガ号にある食料が救助に行くまでもつかどうか。ご存じの通りベガ号は植民地探索船で、108人の乗組員が乗っております。その108人が2年間生きていける食料がベガ号には貯蔵されていました。」
アランは一呼吸置いて続けた
「現時点でベガ号が消息を断ってから3年が経過しており、カーペンター料理長が生きていて、食料が尽きていないことを考えると・・・おそらく何人かは亡くなっていると考えられます。」
倫理や道徳が生きていれば、と言いたくなるのをアランはグッと堪えた。
遭難し、食料が尽きたとき、人は人を食べることがある。
おそらくここに集まった記者達も同じことを考えているだろう。
さっきまでざわついていたのが、今は妙に静まり返っている。
「結論から申し上げます。108人全員が生存していると仮定して、100人からなる部隊を編成し、大型母船【天照】での救助を行います。」
大型母船【天照】は本来、植民地化した星へ開拓民を移送するために使う超大型船で、この国はこのクラスの大型船を2艦保有しており、1艦は【天照】もう1艦は【月読】である。
この1つ下のクラスになると最大150人までしか乗れないため、108人救出することを考えれば妥当であろう。
「質問があります。」
1人の記者が手を挙げた。
「どうぞ」
「【天照】と仰いましたが、1船で救助を行うのですか?船団を組んだ方が【天照】に何か起きた時安全かと思うのですが。」
「簡単な理由です、先程も申し上げましたが、ベガ号は地球から半年かかる距離で漂流していると思われます。この半年というのは超超長距離走行、即ち、ワームホール走行を使用した場合にかかる時間です。残念ながらワームホール走行ができる艦は【天照】と【月読】にしかありません、他の艦を連れていけばそれだけ救助が遅れることになります。【月読】は現在使用中の為、【天照】のみでの救助活動ということになります。それに、【天照】は最新鋭の設備が整っています、安全に航行できることは保証されておりますのでご安心ください。
」
正直なところアランも船団を組んで行くべきだと考えていたが、ベガ号の食料があとわずかであることを考えると選択肢はなかった。
かくして、アランを隊長に100人からなる救助隊が編成された。
医者、料理人、エンジニア、コメディアン、軍人、記者等、様々な職種の人間が選ばれた。
軍人を除けばみんな志願者だ、よく志願してくれたとアランは思った。
1年間もの間家族とは離れ離れだ、もしかしたら生存者もエミリー1人だけかもしれない、本当に感謝にたえない。
絶対にこの救助を成功させねばとアランは心に誓った。
会見から5日後【天照】は飛び立った。
地球から飛び立ってから2か月が過ぎようとしていた。
すでに【天照】は2度のワームホール走行を成功させ、航行は順調であった。
艦内の雰囲気も良く、カップルも2組できあがっていた。
「カミュ少佐、このまま行けば10日程早く到着しそうだね」
無精ひげを蓄えたアランが満足気に尋ねた
「ええ、隊長。大きな障害がなくここまでこられたのは幸運でした。しかし、油断は禁物ですよ。」
「ああ、そうだな。」
【天照】の外に無限に広がる闇を見つめながらアランは呟いた。
宇宙には危険が沢山あり、小さな事故が命取りとなる。
「カミュ少佐、みんなの気を引き締めるために、今日は宴を開こうか。」
少佐は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべ言った
「あなたのそういうところ、好きですよ。」
二人は見つめあって笑った。
4カ月が経った頃、アランはふと考えた
「なぜ3年も経ってから遭難信号を出したのだろう?1年目以降に何かが起きたとしても、距離から考えて、1年から1年半の間に信号を出さなければおかしな話だ。何かしらの妨害があったのかもしれない。」
あとで少佐に相談してみようと思ったが、そのうち忘れてしまった。
地球を立って半年後
「いよいよだな、あと2日程でベガ号だ」
アランは胸の高鳴りを抑えきれずに叫んだ。
「ここまでみんなよく頑張ってくれました。隊長が英雄になれる日が近づいてきましたね。」
少佐が微笑んだその時、通信室からの電話が鳴った
「はい、こちらアラン・・・・なんだって?間違いないのか?だが、電波の発信源はまだ2日も先の位置だぞ・・・わかった、そちらへ行く。」
「どうしたのですか隊長」
「わからん、ここから10分の位置にベガ号と思われる船を見つけたらしい」
足早に通信室へと辿り着いた2人はメインモニターに映し出された船をみて唖然とした
「ベガ号だ・・・」
暗闇に漂うその船は間違いなくベガ号だった。
「少佐急いでみんなに通達を」
「はっ」
「船を横付けしろ、ベガ号にドッキングしだい私と少佐で潜入部隊を伴い乗り込むぞ!」
20分後
【天照】の左舷から連絡通路が伸びドッキングが完了した。
「よし、船内の地図は頭に入れてるな」
「隊長、この半年で嫌というほど頭に叩き込まれていますよ」
最年少のジムが笑って答えた
「そうだな、よし、私とカレン、ジムは通信室に行くぞ。他のものは少佐と共に生存者を探せ」
「了解」
「電気は生きているようだな」
アランが呟いた
「ええ、それにしてもなぜ遭難したんでしょう?船にダメージもなさそうだし、船内もキレイですね?」
カレンが不思議がるのも無理は無い、宇宙船が遭難する場合8割型は船の損傷によるものだ、だが、この船は外も中も綺麗なままだったのだ。
「隊長、通信室が見えました、下がってください」
ジムが前に躍り出て扉に手をかけた。
通信室に入るなり
「あれ?何もない」と言いながらアラン達を中に招き入れた。
「何がないんだジム?」
「いや、通信システムがないですよ」
ジムの言う通りだった、通信室の中は椅子や棚はあるものの肝心の通信システムがなかった。
ふと窓の外に目をやると【天照】が見えた
「なんだあれは?」
【天照】の船壁になにやら黒いものがへばりついて蠢いている。
その時ヘルメットの中で緊急通信のアラームが鳴り響いた。
--どうした!--
--た、たいちょ、にげ、にげて--
--カミュ!どうした!--
そのまま少佐からの通信が途絶えた。
「くそ!なにが起きてる!」
24時間後
ベガ号から少し離れた宇宙空間にその船は漂っていた。
船内では頭から触手のようなものが生えている生命体が会話している
「様子はどうですか?」
「そろそろ食事の時間は終わりそうだ」
「しかし、うまくいきましたね」
「ああ、おかげでペットの食事代が浮くよ」
その生命体は傍にいる黒く蠢くものを見つめながら言った
「こいつらは生き物を何でも消化してしまうからな、そこなしの胃袋だよ」
「でも、1度お腹を満たせば暫くはもつじゃありませんか」
「そうだな、だがそろそろ次の餌をおびきよせる準備をしておこう、今回きたやつの名前がいいだろう」
そう言うとその生命体は、ベガ号から持ち出した通信システムの前に立ちタイピングし始めた
【ワレキュウジョモトム アラン ホワイト】






