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 こうして、結局アルバートと私は原作ゲーム通り婚約させられてしまったわけだが、私はアルバートに対する好意もなければ、アルバートからの好意も全く感じなかった。婚約したものの顔を合わす機会は年に二度のお互いの誕生日だけで、会ったとして話すこともなかった。相変わらずアルバートは私と会うといつも不機嫌であることを隠そうともせず、完膚なきまでの塩対応だったし、周りもそれを咎めることもなかった。

 私はアラサー&元日本人の空気を読んだ大人の対応力でアルバートには最低限の礼を持って接したが、彼の顔面の美しさ以外は惹かれる部分は全くなく、「アルバートは私を憎んでいるからしゃーない」と、納得していた。


 そんな訳で私の場合は、悪役令嬢転生系テンプレ展開の一つ、「性格が良くなった婚約者のことを見直して相思相愛ハッピーエンド!」ということは絶対になさそうだ。


 加えて、私には特段すごいスキルや能力があるわけではないことも、これまでの十七年の人生で判明している。

 実は、すごい魔法が使える、ということもなかった。もちろん、未来を見る力なんて、ない。

 実は、手芸の能力が天才的、ということも、前世の記憶を生かした数々の新作お料理で殿方の胃袋をガッチリ!ということも出来なかった――前世から私の料理の才能は破壊的だったからだ。

 前世の職業は、プログラマーだし、趣味はゲームだったし…。こんなことなら、もっと異世界転生したときに使える趣味を磨いておけばよかった。

 唯一の特技だった「同じ空間にイケメンがいるかどうかがわかる」という自称「イケメンレーダー」能力さえ、この世界では全く役立っていない。推して知るべし。この世界はどこもかしこもイケメンだらけだからだ。


 つまり、一芸が認められて人生が好転する、というエンディングも期待できない。


 結局、この世界で私に与えられたアドバンテージは「実家が金持ち」という点だけだったが、これだけでも十分有難い。前世でド中流の一般家庭で育った私から言わせれば、「実家が金持ち」というのはかなり恵まれた状況だ。今のところは衣食住には困らないし、この先も誰にも迷惑をかけず婚約破棄に持ち込めれば、騎士にハラワタを出される程のひどい目に合わず、長生きできるのではないかと思っている。


 という訳で、「いのちだいじに」をテーマに、この世界で長生きすることが目下の目標なのだ。


 ◆


 さて、風紀委員の活動の指針は、「校内でイチャつく男女がいたら、ひっぺがす」これのみである。この活動をスムーズにするために、この世界にはなかった「ホイッスル」「拡声器」、更には「手鏡型動画保存機(ビデオカメラ)」まで開発し、日夜活動に精を出している。

 風紀委員の三人とは、寄宿棟の入り口で別れた。シャローナとミシェルは青の棟、ローラは緑の棟、私は白の棟と別々の建物に自室があるからだ。


 学園は全寮制で、各自個室が与えられている。侍女やお手伝いは学園には入れず、学園内のお坊ちゃま&お嬢様たちは、これまで侍女にやらせていた身の回りの支度を、卒業までの3年間は自力でやらなくてはいけない。寮に持ち込めるものは制限されており、これまで自堕落に生活していた我が儘な子女たちも慎ましく生活することが求められる。いい仕組みだ。


 私たちの居室は、日本で言う八畳程度。簡素なシングルベッド、小さいサイドテーブル、壁面には部屋に作り付けのクロゼットがあり、ドレスや靴、校内で使う教科書や本などが収納できる。デスクの横には外開きの大きな窓があり、晴れた日は日差しが気持ちいい部屋だ。デスク横の扉を開けると、専用の洗面とトイレがついていてる。


 居室はどこもほぼ同じ造りになっていると聞いているが、王族だけが使う部屋――つまりアルバートに充当されている部屋――は、貴賓室にも使われる程、豪華だという噂だ。

 白の棟の三階にある自室にたどり着くと、本日の収穫物である手鏡をベッドサイドの丸テーブルに置き、クロゼットから白い幅の広いサテンのリボンを取り出す。「手鏡型動画保存機(ビデオカメラ)」は、私がこの先もし断罪されることになった時、証拠となるように、撮影日、撮影場所、撮影に立ち会った者の名前を記載したリボンを結んで一緒に保存することにしている。


「えーと今日は、エスクィントラ24年、5月、29日っと…」

 撮影者:ローラ・ナイトレイ嬢

 立ち合い:ミシェル・ビノシュ嬢、シャローナ・ハサウェイ嬢、レイラ・ラヴィニア

 撮影場所:学園内裏庭、西側


 リボンの所々が滲んでしまったが、しっかり記録できた。


 クロゼットから、鍵付きの箱を取り出し蓋を開ける。そこには間仕切りがあり、それぞれ「手鏡型動画保存機(ビデオカメラ)」を立てて収納できるぴったりサイズになっている。まだ何も入っていない箱の一番上の部屋にリボンを結んだ手鏡を入れ、蓋を閉め、鍵を掛ける。


「ふ~!一仕事ようやく終わったなあ~」


 ばふーんとベッドに倒れこむと、硬いマットレスがお尻にヒットした。


 今日は、風紀委員で初めての撮影が大成功を収めたが、課題は山積みだ。


 風紀委員の活動として、()()()()のイチャ現場に踏み込めるのは恐らく7月の夏季長期休暇前の試験勉強と称して、図書館の書庫で二人きりになるあのイベントだ。

 それまでに、新しい「手鏡型動画保存機(ビデオカメラ)」を調達しなければいけない。この手鏡は、そこら辺に売っているものではない。王都の市街地に秘密裏に出かけなければならないが、学園の生徒が出歩けるのは、1週間に1度の週末だけだ。

 しかもこのイベント発生期間は私も風紀委員のメンバーも試験期間中で、人のイチャイチャのために張り込みをしている時間なんて全くない――。

 学園全体が受験生のようになるのがこの試験期間である。休暇前の試験で合格点を取れなかった生徒は、即退学となる。これは王族であろうと、金持ちであろうと動かせない学園の鉄の掟だ。

 その上、試験で合格点を取れずに退学となるというのは、不名誉中の不名誉で、貴族社会では一生涯後ろ指刺されることになってしまう。


 試験内容は、暗記や計算、小論文などバラエティに富んでおり、毎日の授業を理解していることに加え、自ら考察することが求められる、レベルの高い試験になっている。

 これまで授業の中で何度も模擬試験を行っているが、現時点で及第点を取れているの科目は約半数程度。私も久しぶりに真剣に勉学に取り組まないと、穏便に婚約破棄どころか、家から追い出されてしまいかねない。


 学生は辛いな…。


 ベッドでゴロゴロしていると、ふいに、部屋の扉の下に目が留まった。いつの間にか、扉の下から白い封筒が差し込まれている。


 来た。風紀委員への依頼だ。


 私はワクワクしながら、封筒を開いて依頼人からの訴えに目を走らせた。

週末、時間があるときに少しずつ書いています。

途切れ途切れになってすみません。

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