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7 アルバートとの婚約

 一か月後、アルバート王子とその母、アンジェラ王后がやってきた。前回の誕生日パーティより、数倍ものものしい警備体制が敷かれ、我が家の周りには甲冑を着た兵士まで配備される始末だった。


 この日は、群青色のコットンのシュミーズ風ドレスを着ている。

 新しいドレスなんて欲しくなかったが、「陛下と殿下に失礼のないように絶対に新調すべし!」という母の強い圧に負けて超特急で仕上げたものだ。

 胸のすぐ下に切り返しがある十九世紀のフランス風のドレスで、群青の薄手の生地を重ねてあり、ハイウエストにした胸元の切り返しは銀色のサテンリボン。胸元はあまり開けず、肩には生地の軽さを生かしたハンギング・スリーブにしている。

 髪はそのまま下ろし、今日は化粧もしていない。アクセサリーは胸元のリボンに合わせた銀サテンのカチューシャのみ。


 前回同様、国家的来賓の皆さまは我が家の応接室に通されていた。私ができる限り表情を殺して部屋に入ると、王后と父と母が楽しそうに談笑している。その傍らには、やはりダルそうに突っ立っているアルバート。


 もう!そんなに面倒なら、来るな!


 応接室に入ってきた私に気付いた大人三人の表情に若干の緊張感が走るが、私は前回同様、最高に丁寧なカーテシーで口上を述べる。


「王后陛下、お目にかかれて光栄です。

 殿下、本日も遠方の我が家までお越しいただき、ありがとうございます」


 顔を上げると、チャーミングな笑顔の王后陛下と目が合う。金髪、明るい青い瞳。アルバートの髪よりももう少し色素の強い、生命力を感じる髪質。たぶんお年は四十代くらいのはずだ。快活そうな表情は全くアルバートと別物で、一瞬で親しみを覚えてしまう。


「先日は、急にアルバートが訪ねてびっくりさせてしまったみたいで、ごめんなさいね」

「…い、いえ、こちらこそ、急に体調がすぐれなくなって、殿下にご挨拶もできず、大変失礼いたしました」


 前回のボイコットは、体調不良ということになっている。このやり取りを無表情で見ていたアルバートが急に口を開く。


「この前は、悪かった。思っていないことを言ってしまった。

 許してほしい」


 表情は変わらない。と言うより…かなり尊大で、許しを乞う人の態度ではない。にも拘らず、王后は大はしゃぎだ。


「まあ!まあ!アルバート、レイラ嬢とお友達になりたいのね」

「…いや、そういう訳では…」

「いいのよ、そんなに照れなくて!レイラさん、どうかアルバートと仲直りをしてやってください」


 勢いに負けて私も答える。


「あー、えーと、ええ、はい、喜んで」


 苦々しい表情のアルバート、ニッコニコの王后と父と母。


 その後、庭の散策を行うことになった。侍女と護衛それぞれ一名ずつだけを連れて、私とアルバートが庭を歩いている。当然何も話すことがないから両者無言だ。

 アルバートは今日は白のスラックスに、白地に所々青の飾りのある詰襟の美しいジャケット、白い柔らかそうな生地のジャボを身に着けている。ちらっと眼を向けると、浮かない表情で俯く顔も完璧に様になっていて、思わず見惚れてしまいそうになる。

 私は彼の半歩前を歩き、まあ適当にぐるっと案内したところで、応接室に戻ればいいかな、早くアルバート帰らねーかな、などと考えていた。


 その時――


「僕は、お前のことあんまり好きじゃないけど」


 ふいに、足を止めてアルバートが言った。


「は?」


 思わず、アルバートの顔を凝視してしまう。急に何を言い出したんだろう。


「だからって、好きな相手と結婚できるわけじゃないから。お前でいい」

「はあ…」

「婚約したら、お前のことはレイラって呼ぶから、お前も僕のことは名前で呼んでいい」

「あ、そうですか…それはどうも」

「じゃあ、そういうことだから」


 そう言って踵を返すと、一人で勝手に元来た道をもどってしまうアルバート。


「え? あ、ちょっと!待ってください、殿下」

「もう名前で呼んでいいって言っただろ! あと、一人で帰れる」


 これで、和解? アルバートからの曖昧な謝罪?

 結局、この日をきっかけに、アルバートと私は原作ゲームどおり、婚約することになってしまった。

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