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「はじめまして、レイラ嬢。本日はお誕生日おめでとうございます。」


 目の前の第二王子が、抑揚のない声で挨拶した。私を見る眼差しは、嫌悪に近い感情が浮かんでいる。


 あ~なるほど。やっぱり初対面の頃からこんな感じなんだ。


 ゲーム内の記憶を呼び起こしても、アルバートはレイラにいつも冷たかった。まあ、レイラの意地悪でわがままな人柄がそうさせたのかもしれないけれど。


 でも私たちは今日が初対面のはず。

 原作ゲームの中のレイラなら、わがまま放題で態度も尊大だし、第一印象で嫌われても仕方がない気がするけど、この僅かな時間で、私って嫌われるようなことしただろうか。


「お誕生日おめでとうございます、ラヴィニア嬢。

 いやあ、ラヴィニア侯が仰るとおり、可愛らしいお嬢さんですな、殿下」


 偉そうなおじさん――クリムト宰相は目の前の少年の素っ気ない態度に気を遣ってくれているようだ。偉そうな見かけだけど、実は良い人なのかもしれない。


「そうかな、俺のタイプではないみたい」


 クリムト宰相の言葉に彼ははっきりとそう答えて踵を返し、一人で一番遠くの長椅子に腰掛けてしまった。

 随分正直な物言いだわ、と思いつつ、残された二人の中年男性――父とクリムト宰相をチラリを見上げてみる。

 父は明らかに無理をした笑みを浮かべており、クリムト宰相は猛烈に気まずい表情を浮かべている。

 これは大変気の毒な状況だ。


「わたくし、気にしていませんわ。人の好みはそれぞれですもの。

 きっとわたくしのことをいいと言ってくださる方が、そのうち現れてくださいますわ」


 咄嗟にいつものように物分かりのいいことを言ってしまって、今の発言は全く二人にとってフォローにならなかったことに気付く。父が力なく声をかける。


「レイラ、殿下のお好みでなくても、今日はとても可愛いよ」

「お父様、お客様の前で恥ずかしいことを仰らないで。

 クリムト宰相、お会いできて嬉しかったです。何もない所ですが、どうぞこ寛いでお過ごし下さいませ」


 父の渾身のフォローを諫めて、私はふたたび深々とカーテシーを決め、その場から去った。

 応接間を出るまでは、あくまで楚々と。

 誰からも見えなくなった瞬間、お気に入りのドレスをたくし上げて爆走した。


 目指すは、自分の部屋! ムカつくことがあったけどそれどころではない。

 思い出したことを今のうちにノートに書き留めたい。


 途中、曲がり角でかなりの勢いで誰かにぶつかってしまった。背の高い、美丈夫だった気がする。見かけない顔だったからアルバートの護衛の騎士の一人だろう。

 かなりの加速でぶつかったが、弾き飛ばされたのは私の方で、倒れそうになったところをぎゅっと支えられる。

 こんなはしたないところを目撃された上に、抱き抱えられて、しかも自分からの精神状態はそれどころではなくて。私は彼への謝罪もそこそこに再び部屋に向かって走った。


 走りながら、私は自分の思考スピードの限界まで考えた。


 原作ゲームは、どんな仕組みだった?

 誰と誰が攻略対象で、どんな登場人物がいた?

 そして、私はどうやってヒロインに復讐され、どんな最期を迎える?

 私は、どうすれば非業の死を避けられる?


 自分の部屋に入ると、使用人が使うドアと廊下に繋がるドア両方に鍵を掛ける。

 今日は私が主役のパーティだが、そんなことにうつつを抜かしている場合ではないのだ。


 私の生きるか死ぬかの大事な情報が、今はフレッシュな状態で脳味噌に詰まっている。そのわずか一つでも抜け落ちないように、私は原作ゲームの冒頭から思い出せる限り詳しく、内容を書き留める作業を開始した。


 ◆


 十一歳の誕生日、結局私は部屋から一歩も出ず、原作ゲームの記憶をかき集め、書き留める作業に集中した。

 途中何度も侍女や父や母、私の誕生日を祝うために遠方から来た祖父や祖母から部屋から出てくるように懇願されたけど、私は意地でも出ないと決めて、一心不乱に記憶を整理した。

 最終的にはアルバートも廊下から声を掛けてくれたらしい。

 ここが「らしい」となっているのは、ちょうどお手洗いに行っていたタイミングと重なったようで、実は彼から何を言われたのか全く覚えていないのだ。

 はは。


 どうやら自分の発言が私を傷つけたと誤解したアルバートは、今日の非礼を丁寧に詫びて、もう一度会う機会が欲しいと言っていたらしい。

 もし仮に、彼の言葉を耳にしていたとしても、部屋から出ることにしたとは思えないから、今となればどちらでも良いことだ。

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