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そうこうしている間に馬車は、王都で今最も予約の取れないカフェに到着した。キース先生が先に馬車を降りて、私とローラに手を貸してくれる。
店構えは素朴な農家のようだ。茅葺屋根にレンガ造りで平屋の店の前には、たくさんの鉢植えに可愛らしい花が咲いている。ピンクに塗られた店の扉に掛けられた黒板の看板に「本日のパフェ チェリーとチョコレートと飴細工のパフェ」と書いてある。
チェリーとチョコレートと飴細工ですって…なにそれ、すごく美味しそう。キース先生は看板の字を読んで、わかりやすく嬉しそうな表情をしている。
店の前には10人ほどの行列ができていて、みんな店の中を覗き込んだり、手持無沙汰に立っている。限定100食のパフェはまだ残っているようだ。よかった…!
「とうちゃーく!
そうだ、私予約を確認してきますので、先に入りますね!それに、一人分席を追加しなくっちゃ…」
ローラはいつになくテキパキと店に入って行った。興奮が抑えられないのか、「僕はパフェを見てこよう」と呟きながら、キース先生もローラに着いて行ってしまう。
少し遅れて二号車の馬車が到着した。マクアダムス卿が先に馬車を降り、馬車の入り口で降りて来る生徒たちに手を貸している。
三人は馬車を降りるなり、店先の黒板に書かれた「チェリーとチョコレートと飴細工のパフェ」、に気付き「あーこれ絶対美味しいやつだ!」と歓声を上げている。わかる!!
「あ、レイラ様。ローラ様とキース先生はどうしたんですか」
パティがこちらに気付いて、駆け寄ってくる。続いてシャローナとミシェル。
「今先に店に入っていったわ。予約を確認してくれているみたい。ねえ、気になっていたのだけど、馬車でマクアダムス卿と何を話したの?まさかずっと沈黙とか」
「私たちがずっとお喋りしていて、マクアダムス卿は結局何も話さなかったですねー」
「あら。じゃあ、シャローナは聞きたいことが聞けたのかしら?」
シャローナを見ると恥ずかしそうに目をそらした。「結局、声を掛けれなかったらしいのよ」ミシェルが補足した。想像通り、なんだか気まずい雰囲気の車内だったようだ。
そう言えば、マクアダムス卿は店にも一緒に入るつもりなのだろうか。ローラは「一人追加しなきゃ」と言って店に駆け込んでいったけど。
道の脇に止めた馬車の横で私たちを眺めているマクアダムス卿は、カフェに入るそぶりは見せていない。
急に、名案が閃いた。そうだ、キース先生はマクアダムス卿とご友人のようだし、明日のダンスはこの人に手伝ってもらったらいいんじゃないかしら。
残念なことに私は男性の友人が極端に少ない――と言うより、男性の友人なんていない――ので、キース先生のダンスの講師を急に頼めるような人脈は全くない。
マクアダムス卿は近衛師団に所属しているくらいだから、家柄も良いはず。ということはきっと基本的なダンスくらいは踊れるはずだし、普段の立ち居振る舞いも洗練されている上、キース先生と背格好も似ているからお手本にするにはピッタリの人物なのでは?
恐らく明日も騎士殿は学園で警備業務なのだから、仕事の合間にちょっとくらい手伝ってくれるんじゃないだろうか。
私は馬車の横で、相変わらず近寄り難いオーラを放っているマクアダムス卿に早足で歩み寄り、話しかけた。
「カフェには、入られないんですか」
「こちらでお待ちしていますので、お気遣いなく」
「でも今、ローラがマクアダムス様の分の席を追加しに、店に行ってしまいました。今さら取り消すのもお店に悪いですし、一緒にいらしていただけませんか」
ちょっと驚いたような面持ちになる騎士殿。こういう鉄面皮の男もびっくりすることってあるんだ。そのまま私は畳みかける。
「それに、不躾ですが、マクアダムス様にお願いしたいことがあるんです」
ダンス得意ですか? とストレートに聞きそうになるが、本題に入るのはここでない方がいいだろう。
ちょうど、店から出てきたローラが手招きしていて、騎士殿の返事を聞き逃した。ローラは私とマクアダムス卿にも「二人とも、早く早く」と声をかけているので、彼の分の席も確保できたようだ。
「こんなところまで追いかけて来ておいて、馬車の横で突っ立ってるだけなんておかしいじゃありませんか。
ね、参りましょう」
かなり生意気な物言いだな、と自分でも思うが、思い切ってマクアダムス卿の背中を押して、私は店に向かった。騎士殿は、店で私たちを見張っていたほうがいいと判断したのか、意外にも抵抗せずに一緒に歩きだした。
王都で一番美味しいと評判の「チェリーとチョコレートと飴細工のパフェ」だ。ここまで来ておいて、食べない方がおかしい。実は騎士殿も甘党なのかもしれない。




