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27 キース先生の試練

キース先生の手を借りて私とローラは一号車の馬車に乗り込んだ。先生は二人掛けの椅子を一人で座り、私は先生の正面、ローラの隣に座った。

ステキなペパーミントグリーンのシャツに着替えた先生の、爽やかな笑顔がまぶしい。


「キース先生、これから行くカフェは、ここのところ王都で一番人気のお店で…」


ローラが早速本日の午後のプランの説明を始める。

これから向かう店の看板メニューは大きなパフェ。大きいだけでなく、その繊細な味と美しい盛り付けで女性客から絶大な人気を得ているらしい。毎月月替わりの季節のフルーツが乗ったパフェを提供しており、毎日限定100食しか提供されないそうだ。一つでお腹いっぱいになってしまうほどボリュームがあると聞いているが、私たちはランチをスキップしていて、お腹はペコペコだ。

ローラの熱弁は続く。熱心なローラの説明に、先生は真剣に耳を傾けている。


私は馬車の窓から流れる景色を見ながら、王宮で先生が堂々と振舞えるだろうか、ということばかり気にしていた。

せめて、猫背を伸ばしてもらわないと。魑魅魍魎の如き悪い女に騙されてしまったらどうしよう。いつものままの先生の方が安全だったかしら。

悶々としていると、急に自分がとあるものを買い忘れていることに気付いた。


「ああ、しまった。お話し中ごめんね、ローラ」


私はどうしても気になったことを聞くために、先生に話しかけた。


「先生、靴下って持ってますよね?」


先生は、意外なことを聞かれたという表情で目をぱちぱちさせている。


「うん、さすがに靴下は大丈夫。持ってますよ」


私はそのまま視線を先生の便所サンダルに向けた。なるほど、靴下も相当しんなりしている。靴下は、学園の購買でも売っているから、絶対に買ってもらう必要があるわね。


「そう言えば、先生。王宮にはなぜ招待されているんです?」


ローラが今更の質問を投げ掛けたが、私もその肝心な質問をしていなかったことに気付く。

そーそー。どうしてだったんだろう。


「ああ、ここだけの話だけど、ラヴィニアさん発案の拡声器が王宮の警備システムの一部に採用されることになったんですよ。その記念式典の後の夜会に呼ばれているんです。

 僕はそういう場はどうも苦手で、招待されたときにお断りしていたんですが、どうしても出席せよと研究所の所長から直々に言われちゃいまして。しょうがないから行って来ることにしました」

「夜会ですかー!ステキ!きっと美味しいものが沢山食べられるんでしょうね…」


ローラが目を輝かせている。


学園に通う学生達は、王都内で催される夜会には出席することができない。

卒業前、3年生の秋に学園内で行われる舞踏会がデビュタントボールにあたるパーティで、これ以降は正式に夜会への出席が許される。私たちはまだ2年生のため、来年の秋まで夜会への出席はお預けだ。ちなみに、夜会には、舞踏会と晩餐会の二種類がある。王宮ではどちらも公式な社交の場として数多く開催されているが、先生の招待されている夜会はどちらなのだろう。


「えーっと、それで、その夜会は、舞踏会なんですか」

「そのようですね。両陛下もご出席とかで…。いやあ、本当に気が重い」

「ちなみに、先生、ダンスの方は…?」


心配になった私はおせっかいが過ぎるとは思ったが、念のため確認してみた。


「それがね、学生の時に習ったきり、十年近く踊ってないんですよ。

 まあ、僕なんかと踊りたいご令嬢がいるとは思えないので、そこは心配いりません」


先生はにっこりと言い放った。

ノー!なんということだ!ショックのあまり、私は馬車の中で立ち上がってしまいそうになった。

ついつい大声が出てしまう。


「そんなことありませんよ、先生! もう、来週の夜会では、先生に誘われたいご令嬢が先生の前に行列を作ってもおかしくないというのに…。それなのに『僕なんかと』、ですって!先生ったら!

 ――で、先生、ダンスのステップは覚えてらっしゃるんですか」


一気にまくし立ててしまった私は、ぜえぜえ肩で息をしながら、先生に詰め寄る。


「いやあ、僕は学生のころからダンスは全然ダメで…。たぶん、ワルツもガボットも踊れないでしょうねー」


なんてこった。盲点だった…。

今回キース先生が招待されているのは舞踏会であり、更に一度断りを入れた舞踏会に出席するよう強い要請があったということは、先生は出席する令嬢たちの花婿候補として招待されているということになる。


舞踏会に出席した先生が、その優れた容姿と、若干25歳で王宮が認める技術を確立したという稀有な才能で、社交界の話題を席捲することは間違いないだろう。

ただし、その立ち居振る舞いが洗練されていれば、という条件付きだ。


舞踏会に出席したというのに、誰とも踊らないなんてあり得ない。

舞踏会で娘を売り込みたいご婦人に令嬢を押しつけられた先生が、濡れた子犬のように困っている顔が脳裏に浮かんだ。そうなっても、誰も助け船は出せない。まごつく先生。恥をかかされたと勘違いするご令嬢。怒りだす母親のご婦人。


先生の評判が地に落ちてしまう。


――そんなことには、私が絶対にさせません!!


決めた。ここまでおせっかいを焼いたのだから、もう少しさせてもらおう。


「キース先生、明日もお休みですわね」

「ええ、授業はありませんよ。皆さんがお休みですからね。研究に休みはありませんが、休もうと思えば休めます。何かありましたか」

「でしたら、明日はどうぞ休んでくださいませ。明日は、一日、ダンスの特訓です」

「ええ!?」


先生がまたしても困った顔をしているが、そんなことは気にならない。付け焼刃でいいから、明日一日でダンスとマナーを叩き込むのだ。

幸い私たち風紀委員のメンバーは、育ちの良さだけは折り紙付きで、幼少のころからダンスとマナーは厳しく躾けられている。私たちが練習台になり、先生にはマナーや、ダンスのリード、適当な女性のあしらい方を教え込むのだ。


私は、男性のダンスパートの手本となるいい感じの男性がいないか、頭を巡らせた。

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