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 原作ゲームでは、ヒロインは毎日勉強をしたり、本を読んだり、自分の容姿に磨きをかけたり、様々なステータスを上げるためのミニゲームに勤しみ、才色兼備を目指す。

 それに加えて、攻略対象の求める女性像に近付くための、それぞれの隠れステータスを上げる必要もあり、そこそこ忙しくしているはずだ。


 セシリアと私は同じ学年だが、履修科目が違うせいか、あまり学園内で見かけることは少ない。

 私は魔道具――キース先生の担当授業だ――に関するものなど理系の科目を多く取っているが、セシリアは歴史、経済、文学などを中心に履修しているようだ。この単元は、アルバートの履修科目とほぼ同じである。


 2年生が始まる際、アルバートと同じ授業に出席できるように希望する科目を変えたほうがいいのか少々考えたが、結局は自分の興味を優先して授業を選んだ。

 お陰で、アルバートとはほとんど顔を合わせなくてよくなったし、セシリアとも食堂や居室に帰る時くらいしか会うことはない。

 平和な毎日が訪れたというわけ。


 今日はキース先生の「魔道具応用II」の授業を受けている。


 魔道具の授業は「基礎」、「応用I」を履修済みでないと「応用II」は履修できないため、「応用II」の授業は人気科目とは言えない。「応用II」を取っているのは、2年生と3年生合わせても、30人程度。他の授業だと50人以上は擁しているので、かなり少人数の授業だ。

 魔道具は、前世の「電力」に似た機構で、精霊や魔法の力を込めた装置のことを指す。この世界では、夜間の明かりや時計、調理、列車を動かす動力などあらゆる事に使われていて、生活の基礎インフラを支える技術である。

 先日、アルバートのイチャコラ現場を押さえた際に録画を行った手鏡も、キース先生に作ってもらった拡声器も魔道具の技術が使われている。

 前世で当たり前に使われている日常の便利グッズが、この世界ではまだ発明されていなかったりして、意外に思うことも多いが、ほぼ21世紀の日本で使われている電化製品に似たものが、この世界では魔道具で実装されている。


 授業は1コマ1時間15分だ。あと5分で授業時間が終わってしまうのでキース先生が早口で授業のまとめに入っている。今日の先生は、クタクタのTシャツに、同じくヨレヨレのズボン、前世の私なら「便所サンダル」と蔑称してしまいそうなくたびれたスリッパを履いている。先生らしい、激ダサの装いだ。

 彼を思いっきり着飾らせたら、先生の授業は女子に大人気になってしまうだろうな、と整った横顔をぼんやり眺めながら思ってしまう。

 背が高いから、きっと何を着せても似合うだろう。


 今日のキース先生の授業は、魔道具の分解だ。製品化された魔道具を分解し、解析することで、逆アセンブルする方法とそのリスクについて解説された。この魔道具の機構は、前世の世界の電気工学と似たところがあるんじゃないかと思っている。キース先生の授業は、面白い。


「――というところで、本日の授業は終わりにします。

 次回の授業は来週ですが、申し訳ありませんが、この日は休講にさせてもらいます。課題を出しておきますので、再来週課題を提出してください。では…」


 先生がテキストを閉じると、生徒たちが席を立ち始める。

 来週は休講か。たまに先生は学会への出席などで学園内を離れることがある。今回もそれだろうか。

 教室に生徒がまばらになったところで、私もテキストをまとめて席を立ち、先生に話しかける。


「先生、来週はまた学会に行かれるんですか」

「ラヴィニアさん、いやいや、参ったことに、今回は王宮に招待されているんです」

「あら、すごいじゃないですか。どうして『参ったことに』なんです?」


 先生は困ったように笑いながら、頭を掻いて言い淀んでいる。王宮に招待されることはかなり名誉なことのはずだ。堅苦しいところに行くのが面倒くさいのだろうか。


「いやー…。本当に恥ずかしいんですが…ああ、いやいや、なんでもありません」

「えー、先生、途中まで仰ったんですから、教えて下さい」


「恥ずかしい」と聞いたら、余計に聞いてみたくなってしまって、私も食い下がる。


「じゃあ、絶対に笑わないでくださいよ」

「誓います! 誓って絶対に笑ったりなんてしません」

「あのですね…」

「はい!」

「あー、恥ずかしいな」


 さらに頭を掻きまくる先生。整った困り顔がますます困ってきている。無理に聞いた私が悪かったかな。


「えーとね、実は、私、王宮に着て行けるような服がないんです」


 先生は思い切って、と言わんばかりの表情で言い切って、しきりに頭を掻いている。艶のある長髪がどんどん乱れて、なかなかいい光景だ。


「なんと。そうでしたか」

「ははは。とうとう言っちゃった。情けない話ですみません」


 先生の意外な告白に、私は拍子抜けしてしまった。


 全然恥ずかしいことじゃないじゃないですか!

 そうですか、そうですか。

 先生は普段、研究一筋の魔道具オタクとして、わき目も振らずに研究に勤しんでいる。常に便所サンダルと着古したシャツ。きっと、先生のワードローブはヨレヨレのものしかないに違いない。こんなことを確信するのは失礼だけど、絶対にそうだ。


「着ていく服がないから王宮に行かないなんて、あり得ないですよね」


 先生の言葉の一瞬で、私の脳内には先生の盛装姿の妄想が広がり、その凛々しさにニヤついてしまう。

 これは先生の素材を生かす、大チャンスではないだろうか。


「先生、私にお任せください。いつもお世話になっているお礼、私にさせてください!」


 私は鼻息荒く胸をどんと叩いた。この仕草は令嬢らしからぬものだったけど、「張り切ってます」っていう気持ちが先生に伝わったようなので、ヨシとしよう。

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