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「そうだ。さっき、医務室の人からこれを預かったよ」


 兄がテーブルの下から、紙包みを取り出し私に手渡す。なんだろう。お菓子?差し入れ?

 受け取ってワクワクしながら包みを開くと、そこには昨日片方無くしてしまったと思っていた、お気に入りの紺色のスリッポンが現れた。


「よかった!昨日どこかで無くしてしまったと思っていたんです。これはどなたが?」

「看護師さんが渡してくれた。昨日レイラをここに連れてきてくれた、見目麗しい騎士が見つけてくれたらしい」

「うー、あの人が」


 あまり関わりたくない人物に、お礼を伝えるべきことが増えてしまい、げんなりした。

 でもスリッポンが戻ってきたことは素直に嬉しい。私を運んでくれている時は、スリッポンは片方しか履いていなかったはず。その時は何も持っていなかったと思うので、その後どこかで見つけてくれたのだろうか。

 昨日も全くお礼も出来なかったのだから、お礼状くらい送ったほうがいいかしら。思いの丈を書き綴ったら、果たし状になってしまいそうだ。

 あんまり、関わりたくない。


「あれ。女性陣全員が大騒ぎするほどの美形だったらしいけど、レイラのお気には召さなかったかな。

 …そうか、レイラは普段からアルバート殿下ほどの美しい方が身近にいるから、男性を見る目が厳しくなるよね」


 いやいや全然違います!私は首がもげるんじゃないかってくらい、激しく首を振って否定した。


「いいえ、ぜんっぜん殿下は身近になんていません。そもそもこのままだと本当に結婚できるのかもわかりませんし」

「それはどういうこと?」


 しまった。わざわざ兄に心配をかけるようなことを言わなくてもよかったのに、口が滑ってしまった。


「…いえ。なんとなくです」

「レイラ、前から言おうと思っていたことだけど、殿下とうまくいっていないなら、今ならまだ婚約を白紙撤回できると思う。お父様に言い辛いなら、僕から口添えしてもいい」

「違うんです」


 向こうから勝手に婚約破棄を申し入れてくれるはずなので大丈夫です、と心の中では呟くが、そのまま兄には伝えられない。

 そもそも婚約の白紙撤回など本当にできるのだろうか。どんな理由なら両家の結束にヒビが入らないように、ソフトランディングできるんだろう。

 婚約破棄の理由は、アルバートに愛されていないから? そんな理由で婚約を撤回したとしても、私に次なる婚約者が現れるだけだ。その人を愛せず、その人に愛されなかったら、また婚約を破棄する? そんなことができるわけがないし、ラヴィニア家から婚約の撤回を申し出ることは、父の立場を考えると簡単ではないはずだ。

 それに、こんなに原作ゲームのストーリーから逸脱しているのに、アルバートとの婚約破棄という予定調和まで壊れてしまったら、今後の展開はどうなってしまうんだろう。


「お兄様に余計な心配をさせてしまいました。その…私なんかに王族の妻の大役が務まるか、自信がないんです」


 我ながら、いい感じの言い訳ができた。ごく自然かつ、令嬢らしい悩みではないか。しかし兄は私から視線を外さない。


「正直に答えてほしい。レイラ、例の嫌な予感がしているんじゃないよね」


 兄が言っているのは、私が幼い頃、まだ前世の記憶がよみがえる前に自分を含めて家族が「未来を見る力がある」と信じていた、私の予感のことだ。幼少時代に、兄が事件に巻き込まれるのを未然に防いで以来、兄は私にその「力」があると未だに信じている。


「いやだ、お兄様。あれは子供の頃の遊びのようなもので…。あの頃は本当に何か感じていたのかもしれないけど、最近は何も…予感なんてないですよ」

「ならいいんだけど。お前は昔からちょっと物分かりが良すぎるからなあ」


 遅めのランチを食べていたつもりが、すっかり話し込んでしまった。


 昼食を取っていた部屋を出ると、パティとその母上が話し込んでいる。


「ああ、パティのお母様! 私、レイラ・ラヴィニアと申します。パティには今回、本当に助けられました。お母さまにもお礼を申し上げたくて。本当にありがとうございます」


 私は深々とお辞儀をする。挨拶の儀礼的なものではなく、腰を直角に曲げて頭を下げた。

 それに対してパティの母上は、初めて私がパティと会った時のように、勢いよく話し出す。


「いえ!レイラ様、頭を上げてください!

 うちのパティがこんなことに巻き込んでしまって…こちらこそ本当に申し訳ありません。さっき厳しく叱っておきましたわ。大体いつもうちの子は軽率なんです。お恥ずかしいことですわ。何も考えずに行動してしまうのが癖で、一体誰に似たのかしら」


 恐らくあなたに似たんじゃないか、とこの場にいる誰もが思ったが、ぺこぺこ頭を下げながら、デルヴィーニュ辺境伯夫人は話し続ける。


「そうでした、おみ脚はもうよろしいんですの」

「ええ、お陰様で。もう立って歩いても問題ないようです」

「よかった!本当によかった!」


 そこでようやく、デルヴィーニュ辺境伯夫人と兄とパティがそれぞれ挨拶を交わす。兄がいるせいか、つんと澄まして令嬢風に見えるパティが、こっそり小声で耳打ちしてきた。


「レイラ様のお兄様、久しぶりにお見掛けしましたが、また一段とかっこよくなられてますね」

「ふうんパティはお兄様みたいな方がタイプなのね」

「い~え、私の本命はレイラ様です」

「あら。昨日の騎士殿じゃなかったのかしら?」


 ふふふ、と顔を見合わせて笑う。

 ヒューとパティか。なかなかお似合いかもしれない。真っすぐで優しい兄。同じく真っすぐ過ぎて若干破天荒なかわいいパティ。二人がくっついたらパティとも身内になれるし、これって私にとって最強の夫婦なのでは? 勝手に脳内カップリングを始めて楽しくなってしまった。


仲良しの友達と兄がめでたく結婚して、自分がその家の子どもになっちゃう、という妄想、誰もがしていると思います!(←してないかもしれない)

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