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その日の午後。
学園内の庭園の東屋に集まった風紀委員のメンバーはベンチに腰掛け、お菓子を持ち寄って話し込んでいる。
キース先生にお願いした魔道具について話していたのだが、話題は食堂でアルバートに私が注意したことで盛り上がってしまった。興味津々でシャローナが聞いてくる。
「で、そしたら殿下はなんて!?」
「いや、何も言ってこなかった。周りに人が集まり始めちゃったから、私もそのまま食堂に入ったの」
「え~~~~~~~~!!!また憎たらしいことを言うのかと思ったわ」
「あの女はどうしての?」
「彼女も何も言ってこなかったわ。でも、ちゃんと二人がいる前で『あなたの恋愛には口出ししない』って言ったし、校内でみっともないことをするのはやめて、とも言えたの」
「うわーー、あの殿下にそんなこと言えるの、レイラだけよ」
まあそうだよね。アルバートには親しい友達もいないようだし、セシリアはきっとこんなことは言わないだろうから。
こうして苦言を呈せるのは、今の学園内では私くらいかもしれない。
「そっかあ。とうとうそんな寂しいこと言っちゃったんだ。私は密かに、殿下はレイラのことが好きなのかなって思ってたけど」
ローラが急にとんでもないことを言う。
「何言ってるの!? あの人は私のことなんかどうとも思ってないわよ」
「そうかなあ…」
「そうよ、ローラ。レイラに好意があったとしたら、殿下がセシリアとイチャイチャするのはおかしいじゃない」
シャローナの指摘は的確だが、まだローラは納得しないない表情だ。
「そうだとしても、レイラのことは気に掛けてるように見えるのよ。好きではなくても、きっと嫌ってはないと思うけど」
そうかしら。どの記憶を漁っても、嫌われてない証拠が思い当たらない。
話しかけようとして、仲良くなろうと試みて、冷酷に拒絶された記憶が蘇る。両親に勧められて数か月に一度送っていた手紙と贈り物にはいつも返事がなかったし、会えば常に冷たい態度だった。そもそも良好な関係を築きたいとアルバートが思っていないことが分かった私も、いつしかアルバートに近付こうとはしなくなった。
そんなことに慣れ過ぎて、私はアルバートとコミュニケーションを取ることを忘れてしまったのだ。
もしかしたら、アルバートも私のことを嫌っているわけではなく、ただ単純に接触を図るまでもない人物と捉えているのかもしれない。
ローラはユニークな感性の持ち主だから、こんな風に極度に硬直した私たちの関係を、ポジティブに解釈してるのだろう。
「ま、どっちにしても、婚約者のあんなキスシーン見ちゃったら、殿下とどうこうなりたいなんてきっと思えないわよね」
「「「ねーーーー!」」」
ねー、は、思わず3人でハモってしまった。
アルバートには申し訳ないが、風紀委員内での評判は最低だ。
◆
その後、四人でパティへの返事を書くことにした。
一番字が綺麗なミシェルがスラスラとペンを走らせている。
「――書けた!こんな感じでどう?
『パティ・デルヴィーニュ様
ご連絡ありがとうございます。隣の部屋で不審な動きとは不安ですね。風紀委員が協力しますので、詳しいお話を聞かせて下さい。
明日、私たちと一緒に夕食を食べませんか。星座のダイニングに、七時十五分に、いて座の絵の下で待っています。
明日お会いできるのを楽しみにしています。
風紀委員会
シャローナ・ハサウェイ
レイラ・ラヴィニア
ローラ・ナイトレイ
ミシェル・ビノシュ』
――どうかしら?」
「うんうん、いい感じ!」
「明日、来てくれるかしらね」
「きっと来てくれるわ。この手紙は、私が彼女の部屋に届けておくわね」
丁寧に折りたたんで、白い封筒に入れた。同じ寄宿棟の私が、手紙を受け取る。
絶対パティは来る、私たちは全員そう確信していた。




