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今日は授業が半日で終わりなので、たっぷり時間がある。
キース先生の研究室を後にし、私は昼食を食べに「星座のダイニング」に向かった。
今日のランチは何だろう。
明るい食堂に足を踏み入れると、嫌な二人と出くわしてしまった。
アルバートの腕に手を絡ませてドヤ顔を浮かべているセシリアと、無表情のアルバートだった。
「あら。レイラ様!こんにちは」
「ええ、こんにちは」
見て見ぬふりをしてやり過ごそうと思ったが、向こうから声を掛けられてしまっては無視もできない。とりあえず挨拶だけして早くランチを食べちゃおう。と、すれ違って通り過ぎようとする…
―――って、いやいやいやいや!!何普通に通り過ぎようとしちゃってるのよ、私!
こんなところで会うと思っていなかった二人の出現に面食らってしまったが、私は風紀委員のメンバーだ。
誰であろうと、学園内でイチャつく奴らを野放しにできない! 一人だろうと、丸腰だろうと、予期せぬ敵の出現だろうと、風紀委員の名に懸けて学園内でのイチャコラは許さんぞ!
「ちょっとお待ちください、アルバート! 学園内で男女がそのように親密に腕を組むことは、校則違反ではありませんか!?」
セシリアに何か言うと後々面倒くさそうなので、ここはアルバートに伝えたほうがいいだろう。ということで、振り返り、挨拶もしてこなかったアルバートに問いかけた。
「レイラ、またしても妬いてくれているの?」
振り返ったアルバートは、昨日に引き続きお門違いな質問をしてくる。
「…ちがいます!」
「ではどうして昨日から、僕のことを追いまわしているんだろう」
「あのね、アルバート。校内でそのように男女が密着することは、ご存じのとおり校則違反です。それに、校内生徒の目がある中で、そのような無秩序な振る舞いはあなた自身の評価を下げることになってしまいます」
セシリアの腕を振りほどくと、アルバートがこちらに一歩近づいてくる。表情がなかった顔に、意地悪な笑みが浮かぶ。私はじりっと一歩下がってアルバートから距離を取る。
「…それだけ?」
「はあ? それだけってどういう…」
「だから、婚約者の自分を差し置いて他の女と腕を組んで歩くなんて許せないって、素直にそう言えばいいのに」
「あ、それはないです。大丈夫」
私はアルバートの言葉を遮るように即答して、お嬢様スマイルでニッコリ微笑んだ。
「そこは心配なさらないで、アルバート。あなたが私との婚約を破棄したがっていることくらい判っています。私もこの家に生まれた以上、義務としてあなたに尽くすつもりでいるけど、愛されたいなんておこがましいことは考えていませんから。あなたの恋愛にとやかく言うつもりはありません。
だから、とにかく、これ以上校内でみっともないことはやめて下さい」
アルバートへの文句を一息で言い切ってやった!しかも噛まずに…!聞いていたか、性悪王子!
私はかなりスッキリして、晴れやかにアルバートを見つめる。
一方アルバートはからは意地悪な笑みは消え、私の言葉にぽかんとした表情を浮かべている。
何か私、おかしなこと言ったかな。
そうこうしている間に、学園内で目立つ存在のアルバートに対して私が声を上げたので、周りに生徒も集まり始めてしまった。
こんなところで目立って、後々セシリアをイジメていたと誤解されてはかなわない。そろそろ退却だ。
「では、わたくし、ランチがまだなので。――ごきげんよう」
軽く会釈して踵を返すと、セシリアが大慌てで再びアルバートの腕を取っているのが見えた。
◆
言ってやった!
言ってやった!
言ってやったわ~~~~~!!!
私は小躍りしたい気持ちを押さえて、あくまでいつも通り優雅に、ビュッフェカウンターの列に並んだ。
とうとうアルバートに思っていることを言ってやった。
思えば、アルバートと私は二人きりで話したことは殆どなく、会話の合計時間も30分にも満たないのではないだろうか。
いつも不機嫌そうで話しかけ辛かったり、誰か大人と一緒だったりして、アルバートに面と向かって自分の意見を言う機会なんて皆無だった。
そうだよ、こうやって最初から「あなたの恋愛を邪魔するつもりはない」って言っておけばよかったんだ。
そうすればセシリアと対立することもないし、私がセシリアに意地悪をしているという誤解を受けることもなさそうだ。
セシリアのあの私に対する「参ったか!」という態度は気に食わないけど、長生きできるならそれくらい我慢しよう。
スッキリしたーーーーーー!
私は最高の気分で、アボカドバーガーを2切れと、トマトと豆のサラダを盛り付けた。
空いている席に座ると、ニヤついてしまいそうになる。
長生きできそう、と思ったら、急にお腹が減ってきて、私はもう一度ビュッフェカウンターに戻って、山盛りのポテトフライを皿に取った。
揚げ物のドカ食いは久しぶりだけど、今日は全く罪悪感がない。にんまり。




