第995話 蒼穹の覇者号は一路ホルボス村に向かう
「お知らせします、艇長のマコト・キンボールです。本船はアイアンリンドを十四時ちょうどに出発、王都に向けて飛行中です、途中ホルボス村に立ち寄り三十分ほどの休憩を挟んだ後に王都に向かいます。目的地王都には十七時到着を予定しています。今日の天候は快晴、楽しい空の旅をお楽しみください」
アナウンスを終えて私はパタリと伝声管の蓋を閉めた。
「ホルボス村へはなんで?」
「トール王子とティルダ王女に影犬を返して貰うのを忘れていたのよ」
「ああ、クヌートさんに返すのか。借りパクすればいいじゃん」
「そうもいかない」
なにしろ私は聖女なので清廉潔白に行かねば。
ペスは初めての従魔なんで思い入れが深いんだけどねえ。
奴だけでもくれないだろうか。
くれないだろうなあ。
影シリーズを返すと、私の従魔は、ヒューイ、ゴブ蔵、カマ吉の三体になるな。
三つのシモベだ。
魔力のラインの問題があるので、従魔は無制限には増やせない。
角兎軍団とかは作れないわけさ。
従魔とテイマーの間には魔力のパイプが繋がっていて、常時供給されている感じになる。
あまり燃費の悪い従魔を従えると魔力切れになって大変なんだそうだ。
孤児院のペット従魔ぐらいだと大した魔力量じゃないんだけどね。
あとはトトメスとか。
というか、トトメスは本当に従魔なのか?
ただのカエルを頭に乗っけているだけではないのだろうか。
疑惑は深まるばかりである。
エルマーが快調に船をかっ飛ばしている。
まだ高度が低いから地上がよく見えて速度感があるね。
マップ画面にはホルボス村までの航路図が映っている。
屏風山脈の端を迂回して回り込む感じか。
行きはアンドレア領に行くので飛び越したけど、帰りは川沿いの平地を繋いで行く感じだな。
アイアンリンドの街は微妙な遠さなので高高度飛行をするほどでも無いっぽい。
「さて、ちっとリチャードお兄さんに挨拶してくるかな」
「ラウンジでくつろいでらっしゃるわ、エバンズ博士が説明しているみたいね」
「エバンズは歩くマニュアルだからなあ」
便利な男だぜ。
「じゃあエルマー頼んだよ」
「まかせて……」
私はポンと艇長席から飛び降りた。
「マコト、船内に行くのか」
「そうよ、何を食べてるのアダベル?」
「カーチス母ちゃんが途中で食べなさいってくれたビスキュイ」
「おいしい?」
「まあまあ」
そう言いながらアダベルはバリバリとビスキュイをかみ砕く。
歯が強いな、さすがはドラゴン。
ビスキュイというのは保存食の乾パンで、死ぬほど堅いビスケットだな。
そんなに美味しい物じゃない。
一応お使い用に砂糖が掛かってナッツが付いているね。
「しってるかマコト、ビスキュイに干し肉を乗せて食べると、甘塩っぱくて美味い」
そう言ってアダベルはビスキュイに干し肉を乗っけてかみ砕いた。
アダベルは歯が丈夫だなあ。
常人にはかみ切れない取り合わせだぞ。
私がメイン操縦室を出るとアダベルもモシャモシャ食べながら付いて来た。
廊下に出ると左舷スイートから笑い声がした。
お洒落組とヒルダさん、ゆりゆり先輩が盛りあがっているようだ。
ご令嬢はスイート好きね。
今日は長時間航行ではないので、みな大体ラウンジにいるようだ。
廊下を歩いて小さな螺旋階段を上がってラウンジに入る。
ドアを開けると、どっと笑い声が響いて盛りあがってるのが解った。
「おお、マコト、来たか、操縦は?」
「帰りはエルマーだよ」
リチャードお兄さんがソファーから立ち上がる。
「すごいですね聖女さま、とんでもない飛空艇です。感動しました」
「王都までのんびり乗ってくださいね。具合はどうですか?」
「それが、今日はとても具合が良いんです。これも聖女さまがリチャード様を鎮魂なさったお陰かもしれません」
私はよっこいしょとソファーに座った。
ラウンジに居るのは剣術組と二年生男子、あとブリス先輩もいるな。
リチャードお兄さんと同じ年代だから話も合うのかもしれないね。
アダベルも私の隣に座り、テーブルに出ているお菓子をつまんだ。
「お、これは?」
「アンドレア領のお菓子だみょん、メリッサさんがくれたみょんな」
「干しぶどうビスキュイもあるのか」
アンドレア領は葡萄が名産だなあ。
「窓から外をみなければ、高速で空を飛んでいるとは解らないですね。家で談笑しているのと変わりません」
蒼穹の覇者号はビアンカ様のお船だったから、もの凄く安定性が高い。
普通の飛空艇だと、この速度を出すと結構揺れるのだけど、この船は微動だにしないね。
「兄貴が王都に出れるようになって嬉しいよ。具合さえ良ければ三年生に編入しても良いと思うぜ」
「学校での勉強に堪えられるかなあ、様子を見てからだね」
「失礼ですが、これまで勉学は?」
「主に家庭教師でしたね。父が良い先生を付けてくれたので」
「気取った婆さんだったなあ」
「いや、まだお城に居るからねカーチス」
「うへえ」
おばあさんの家庭教師さんが付いていたのかあ。
地方貴族っぽいね。
ダルシーが私とアダベルのお茶を入れて持って来た。
よし、葡萄ビスキュイにチャレンジだ。
パクリ。
ぎぎぎ。
ぐぎぎぎぎっ。
バキン!
ボリボリボリボリ。
うん、堅い。
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