第994話 王都に向けてアイアンリンド城を離陸する
お腹がくちくなると、なんか眠くなるね。
「ここは美味しかった、また足を運ぼう」
「ありがとうございます守護竜さま」
次は秋かな、秋のダンスパーティの送迎でまた来る事でしょう。
なんだか素朴な街で気に入ってしまったな。
「良い街ねカーチス」
「そうだろう、俺んちの街だからな」
「カーチス、鹿はどうするの」
「あ」
カロルに預けてあったのをすっかり忘れていたな、こいつは。
「鹿を狩ったのか、どれどれ見せてみろ」
フィルマン父さんが言うのでカロルは道ばたで鹿の死骸をでろんと出した。
「おお、これはなかなかの大きさだな。とどめは魔法か、良い毛皮が取れそうだな」
「置いて行きなさい、お肉は私たちがありがたく頂くし、毛皮はあなたとエルザのコートにしましょう」
「そうするか、いやだが皆で獲ったのだが」
「宿泊代がわり……」
「気にしないでいいみょんよ」
「そうそう、殿の家族が喜ぶならそれがいい」
イザベラお母さんがふふんと笑った。
「それでは帽子を五つ作りましょう。暖かくて良い記念になるわ」
「お、それはいい、母さん」
「それはナイスアイデア……」
「お揃いの帽子は嬉しいみょん」
「剣術部のトレードマークになりますな、殿!」
良いなシカ革帽。
冬に暖かそうだ。
「カロリーヌ、すまないが城の厨房まで運んでくれるか」
「わかりました、おじさん」
カロルは再び収納袋に鹿を収めた。
再び皆は城を目指して歩き始めた。
城に着くと、カロルは家令さんに先導されて厨房へ、私たちは階段を上がって飛空艇発着場へと向かった。
古い城は魔導エレベーターが無いのが困るな。
コリンナちゃんの息が切れ始めるのである。
「本当はもう少しのんびり泊まって行ってほしいのだが」
「また、夏か秋に来ますよ、フィルマン父さん」
「そうか、期待しているぞ、領袖」
ブロウライト家の人は気さくでアットホームで良いなあ。
居心地が良いぞ。
「セージは大人しく人間の事を勉強するんだ」
「わかりましたアダベルさま。本当にお世話になってありがとうございます」
「気にするな、竜族はみな姉弟だからな」
初見、問答無用でぶっ殺そうとしておりましたが。
まあ、アダベルの中ではノーカウントなのであろう。
宿泊階に着いたので、皆分かれて荷物を持ってくる。
私は収納袋なので何時でも手ぶらである。
便利だなあ。
「もう皆様行ってしまうのですね、さびしゅうございます」
「コッペリアさんにもお世話をかけたね。これを上げよう」
ヒカソラ世界は欧州に似ているがチップ制度が無いのだ。
なので、毒消し小瓶を渡した。
「あら、綺麗な青色ですね、なんですか?」
「毒消し、時間を止めてあるから瓶を開けるまで永久に効果が劣化しないわよ」
「ひっ、こ、こんな凄い物を……」
「お金はほとんど瓶代だけよ。安全の為にもっておいて」
「はいっ、ありがとうございます、聖女さま」
コッペリアさんはにっこり笑って首から小瓶を下げた。
メイドさんに毒消しがあるともしもの時に役に立つからね。
アダベルが散らかした物を可愛い鞄に押し込んでおる。
学園長に買って貰ったかな。
コッペリアさんが見かねて手伝ってあげていた。
「はあ、楽しい旅も終わりかあ」
「明日からは学校だ」
「そうね、試験の結果が楽しみだわ」
さて、私はヒューイを取りに行こう。
「馬屋に行ってくるわ」
《今、船の近くにいる》
あ、誰かが上げてくれたのね。
助かった。
(今行くわ、ヒューイ)
アダベルがやっと鞄に荷物を詰め終わって誇らしげに胸を張った。
「じゃあ、船に移りましょう」
「わかった」
「行きましょう」
コリンナちゃんの荷物はコンパクトにまとまって手間いらずっぽいな。
こういうのも人柄が出るね。
みんなで発着場に行くと、なんだか物資が積み上げてあった。
なんぞこれ?
「お土産をあれもこれもと考えていたらこんなになっちゃったわ」
「アイアンリンドは軍事基地だから物資の補給もお手のものなんだ」
「中身はソーセージとか、ハムとか入ってるわ、派閥のみんなで分けて食べてね」
「おお、ハム、ソーセージ」
田舎のお土産地獄であるな。
お肉屋さんが私たちが追加するのを止めるわけだよ。
「エイダさん、物資を積み込んで」
【了解です】
マジックアームが展開されて、物資をどんどん甲板に積んでいった。
「うーむ便利だな。一隻で旅団の兵站をまかなえそうだな」
「戦争には使いませんからね」
「それは残念だ」
フィルマン父さんは根が軍人なんだよなあ。
「父さん、私も聖女さまの飛空艇に乗りたいです」
「今回はアロイスには機会が無かったな」
「秋の時は学校を休んで王都に来いよ」
「はいっ、行きたいです王都!」
「アイロスくんは将来、魔法学園に行くの?」
「はいっ、聖女さま、再来年ですっ!」
カーチスが三年生の時に一年に入ってくるのか。
「それは楽しみね」
「はいっ、早く王都に行きたいですっ」
リチャードさんが鞄を持ってやってきたので、カーチスが黙って鞄を持ってあげた。
「ありがとうカーチス」
「気にすんな」
「リチャード兄さんが居なくなると城がさびしくなります」
「ごめんねアロイス」
「その代わりにセージ殿が城に来る、お世話を頼むぞ、アロイス」
「お願いします」
「はいっ、まかせておいてくださいセージさんっ」
物資が片づくと、馬丁さんに連れられたヒューイがポツンといた。
「エイダさん、後部ハッチを開けてください」
【了解です】
ヒューイはトコトコと自分で後部格納室に入っていって寝転んだ。
「馬丁さんもありがとうね」
「いやいや、聖女さんの竜馬のお世話をしたとあっちゃあ、末代までの語り草でさあ」
良い馬丁さんだなあ。
「それでは、出発します、また夏に会いましょう」
「楽しみにしているよ、領袖。リチャードを頼むな」
「ええ、もちろんですよ」
派閥の家族は私の家族でもあるからね。
うんうん。
みんな搭乗が終わったようだ。
私もブロウライト家の人に手を振りながらタラップを上がった。
メイン操縦室に入ると皆席に付いて離陸準備を始めていた。
「さあ、王都に帰るわよ」
「「「「はいっ」」」」
私は艇長席によじ登った。
「蒼穹の覇者号……、離陸します……」
帰路はエルマーが操縦である。
艇長はラクチンだ。
ふわりと蒼穹の覇者号はアイアンリンド城から空に舞い上がった。
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