第987話 アイアンリンドの地下牢で幽霊を祓う
ヒューイが快適そうで安心した。
というか、不快なら念話で言ってくるはずだから心配はしてなかったけどね。
コッペリアさんの先導で、また城内に戻る。
「お城は暗くて陰気だな」
「どこでもそうよ」
防衛施設だから居住性は二の次なのよね。
カツーンカツーンと足音が響く。
ふと、何かの気を感じて足を止めた。
地下に向かう階段があった。
先には灯りが無くて真っ暗闇である。
「この先は?」
「あ、ああ、あの、その、地下牢ですよ」
「牢屋か!」
「地下牢だけ?」
「あとはその、霊安室もありました」
地下墓所は無いみたいね。
お城によっては地下に墓地があるときがある。
『~~~~~~』
なんか呼んでるな。
距離が遠いのか言葉の意味がつかめない。
私は階段を一歩下りた。
「あ、あのあのあの、その、オバケでますよ、地下」
「うん、何か感じました。せっかくだからお祓いして行きますよ」
「え、ええっ?」
「大丈夫だ、コッペリア、聖女に守護竜が付いている、世界一オバケに強いコンビだ」
「いやその、怖いんですけど……」
「行きます」
私は前方に光球を生み出して階段を下りる。
アダベルも楽しそうに下りてきた。
コッペリアさんは青ざめながらも付いて来た。
「古いお城だから、怪談も多そうですね」
「は、はい、ここは、何度も戦場になってますし、非業の死を遂げた人も多いのです」
階段を下りると地下牢だった。
今は使われていないのか、牢の中には木箱や家具が積まれていた。
ここじゃないな。
「この奧は?」
「れれれ霊安室ですー」
途中、お爺さんの霊がいた。
私が天を指さすと、お爺さんは素直に上がっていった。
呼んだのはこの人じゃないな。
「こ、ここが霊安室です、ああ、怖い~~」
「平気平気」
「へーきへーき」
「にゃーん」
「げろげろ」
コッペリアさんに鍵を借りてドアを開けた。
中では金髪の若いイケメンがベッドに腰掛けていた。
ちょっと昔っぽい甲冑を着ていた。
胸のあたりに大きな傷があるな。
「あなたが呼んだの?」
『ああやっと答えてくれる者が来た。申し訳無いが王都に戻りたい。馬を用意してくれないだろうか』
「王都?」
『王都で父の手伝いをしなければならないんだ。だいぶ遅れてしまった』
というか、誰だろうこの人。
昔にアイアンリンド城で死んだ人なんだろうけど。
結構高貴な感じがするイケメンだな。
「失礼ですか、お名前は?」
『私はリチャード。リチャード・ポッティンジャーだ』
「リチャードさん」
なんと、夭折したポッティンジャーの若旦那だったのか。
「ひいいっ、リチャードさまは、その昔、近くの平原の会戦でお亡くなりになり、こちらでしばらく安置していた事がございます」
リチャード兄ちゃんと同じ名前だな、何か関係があるのかな。
「もう、あなたが死んでからずいぶんになりますよ」
『え、だけど私は生きている』
「死んだのを忘れているだけです」
『そう……、なのか……。私は父が王になるのを見る事ができなかったのか……』
「ジェイムズ翁も二年前に死んじゃいましたから、王都に待っている人はいませんよ」
『それでっ、父はアップルトンの王になれたか?』
「いいえ」
リチャード・ポッティンジャーはその端正な顔を曇らせた。
『ああ、なんという事だ、父は悲願を果たせずに死んだのか』
リチャード若様はジェイムズ翁を王位に付けたくて頑張っていたんだなあ。
若様のお母さんは王女さまだから、即位の目が無かったわけじゃないんだよね。
マリアさまがぶっ潰しただけで。
『今、ポッティンジャー公爵家は誰が継いでいる? 断絶したのではあるまいな』
「現当主はドナルドさまですね。かなり強い公爵家としてがんばってますよ」
リチャード若様はにっこりと笑った。
『そうか、ドナルドは優しい奴だから、良く領地を治めているだろう。それは良かった』
ドナルドが優しい?
リチャード若様の前では猫でもかぶってたのかね。
今現在は狒々親父だぞ。
『そうか、そうか……、私は死んでしまっていたのだなあ。いくら人を呼んでも来ないわけだ』
「お疲れ様でした。天に昇るのであればお祈りをしますけれど」
『君は女学生ではないのか?』
「私のホーリーアイスブレスでもできるぞ」
『君は竜人か、そこに居るのは時々見るメイドだな』
コッペリアさんには、ちっとも見えて無いし、声も聞こえないから不気味だろうなあ。
「コッペリアさんをここで見た事あるって」
「たまにお掃除に入るんですよ。なんだか視線を感じるとか、声を聞いたとか噂になってました」
メイドさんにも霊感がある人がいるんだね。
「私は聖心教の正式な司祭なので昇天の儀が行えます」
「こいつ聖女だからさ」
『おお、マリア様の次もアップルトンに聖女が現れたのか、それはすばらしい』
なんだな、リチャード若様は何か良い人だな。
貴公子って感じだ。
生きていればポッティンジャー公爵家も今とは違っていたんだろうになあ。
まあ、戦争だから仕方がないけどね。
『それでは聖女どの、天上に送ってはくれまいか、父も待ちくたびれているだろう』
「うん、ジェイムズ爺さんなら待ってそうだよ」
『父と会った事があるのか』
「私も爺さんが死んでから気がついたんだけどね」
『奇縁というべきであろうな』
さて、アダベルのブレスで天上にぶっ飛ばされるのは可哀想だから、本式で送るかな。
私は腰から子狐丸を抜いて床に刺した。
「迷いたるリチャード・ポッティンジャーの魂を女神様の元にお送りします。雄々しく戦い、父親を庇って命を落とした若武者の無念と悲しみをお救いください。そして全てを浄化し天上にお迎えください」
子狐丸が青白い光をふわりとたたえた。
リチャード若様は床に片膝をついて手を握りしめて祈りを捧げている。
コッペリアさんも膝を付いた。
それを見て、アダベルも慌ててひざまづく。
「全ての迷いを捨て、悲しみも喜びも、愛も憎しみも、全てを脱ぎ捨て、根源として、輪廻の旅に戻りたまえ」
地面から湧き出した無数の光がリチャード若様を包み込んだ。
「おお、綺麗だな」
「すごいです」
『暖かい、聖女よ、感謝する』
私は天に向けて手を振り上げた。
「光の空に祝福を」
締めの言葉と共にリチャード若様は光の粒に分解されて空に向けて上昇していった。
うん、またどこかで会おう、リチャード若様。
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