第986話 夜半、アイアンリンド城を徘徊する聖女候補
お肉の食い過ぎでお腹が重い。
「すごいヘビーな晩餐だった」
「そうかー、まだまだ食べれたが」
ドラゴンの食欲と一緒にするない。
食事も終わり林檎も食べたので部屋に引っ込む事とした。
今は廊下を帰り中であるな。
「なんか、変わって無くて安心しちゃったわね」
「昔からこうなのかあ、ああ、そういえばブロウライト家の三男はどうしたの?」
コッペリアさんが振り返った。
「アロイス坊ちゃんは中等寄宿舎に行ってらっしゃいますので明日お帰りになりますよ」
「もう、そんなになるのね」
カロルがしみじみと言った。
「アイロス坊ちゃまもカロリーヌさまが来ると聞いて大層お喜びでしたよ」
「そうね」
「どんな奴どんな奴? カーチスみたいな暴れん坊?」
「ふふ、そうですわね、リチャード様よりはカーチス様に似ておられますね。乗馬が大好きなので、聖女さまの騎獣を見たら大層お喜びでしょう」
なるほど、飛空艇で飛んで来たから、普通よりもフィルマン父さんとイザベラ母さんの帰りが早かったのだな。
私たちはお部屋に着いた。
私はベッドに倒れ込む。
「もう、お腹いっぱいで動けん」
「もー、駄目だなマコトは、食が細いぞ」
「アダベルが大食いすぎだ」
ああ、ベッドが良い感触。
だが、寝るにはちょっと早いな。
「お腹が落ち着いたらヒューイの様子を見に行くかな」
「そうだな、ちゃんと世話をされてるか確認すべきだ」
そうだな、だが、今は酒と肉で動けん。
「ヒール一発で治ったりしないのか」
「消化は病気じゃあ無いので厳しい」
コリンナちゃんはアダベルにお肉を迂回させたので、わりとお腹は楽のようだ。
荷物から教科書とノートを出して来て勉強を始めおった。
「私も錬金したいけど、釜が無いわ。蒼穹の覇者号にも付けて貰おうかしら」
「携帯用錬金釜ってないの?」
「あるんだけど、効率が良くないのよね」
コリンナちゃんもカロルも勤勉すぎである。
たまの旅行なのだから、のたのたしたまえよ。
『ヒール』
自分で自分の首筋をつついてお酒を抜いた。
ああ、具合の悪い半分ぐらいはお酒だったか。
「満腹は治ったか」
「酔いの方を飛ばした。満腹感が収まるには時間が掛かる」
アダベルがベッドの上で、かまってくれ音頭を踊るので、やれやれと言いながら体を私は起こした。
「ヒューイを見に行こうか」
「いこういこう」
「いってらっしゃい」
カロルは読書をするようだ。
付いてこないのね。
廊下に出るとコッペリアさんが通りがかった。
「あら、聖女さま、御用でしょうか?」
「騎獣の様子を見に行くわ、馬房はどこかしら」
「ご案内いたします」
コッペリアさんが先導してくれるようだ。
助かる。
アイアンリンド城はなにげに大きいからなあ。
あと、この手の城は敵軍が入って来にくいように構造も複雑なのだ。
大広間の前を通りかかったら、男衆はまだ起きていて酒盛りをしていた。
みんなベロンベロンだな。
エルマーは居ないので部屋に戻ったっぽい。
「マコト、アダベル、どこに行くんだ~?」
「ヒューイの様子を馬房に見に行くのよ」
「あの竜馬は凄いですね、聖女さまにふさわしい騎獣だ」
「でかくて格が高い感じがするな」
ライアンとオスカーがヒューイを褒めてくれた。
「ありがとうね」
「立派な騎獣に乗られていると聖女さまを侮る連中も減る事でしょう」
「なに? まだ領袖を馬鹿にする奴がいるのか?」
「そうなんだよ、親父、貴族の連中にとっては何時までもパン屋の娘らしい」
「女神さまをお呼びになられたという、千年に一度の偉業をなされたというのに、何と言う事か」
フィルマン父さんが憤慨しているが、まあ女神さまは勝手に出てらっしゃたからなあ。
私の手柄ではあるまいよ。
「あんまり深酒しないのよ。明日もあるんだから」
私がそういうと、男衆はおーう、とか、ほーんとかの声を上げて返事をした。
「ああ、そうそう、守護竜どの」
「ん、なんだい、カーチスの父よ」
「明日、セージの守護竜お披露目式をするのだが、竜体で出てもらえないだろうか」
「明日かあ、ご馳走を喰わせてくれるならいいよ」
「よし、お昼は広場で食べ放題宴会と行こう。王都の守護竜と友達という事になれば、セージの民衆の覚えも良いだろうと思ってな」
「そういう事なら良いぞ、セージは私の可愛い弟分だからな」
「それはありがたい」
セージくんとエバンズの姿が見えないが、もう部屋に戻ったかな。
夜のお城は薄暗い。
魔導灯は付いているのだが最小限だ。
コッペリアさんは魔導ランタンを手に持って照らしながら歩いている。
階段をトコトコ下りて最下階、玄関を出てお城の外に出る、だが、城塞の中ではある。
練兵とかする場所だね。
ヒューイの気配が近づいてくるので馬屋の建物が解った。
《主、来た、姉上もだ》
(きたよー)
「きたぞ」
「え、なんですか、アダベルさま?」
「あ、そうか、聞こえないのか、あー、竜族の通信だ」
「そ、そうなんですか」
「すいませんね、コッペリアさん」
「いえいえ」
コッペリアさんが馬屋の戸をホトホトと叩くと、おっちゃんが顔を出した。
「こりゃあ、コッペリアさん、どうなさいました?」
「聖女さまが騎獣のご様子を見たいそうです」
「ああ、ああーっ、これはこれは、あなたが聖女さまですかっ、そうするってえと、あんたが守護竜さま?」
「そうですよ」
「そうだ」
「これはよくいらっしゃいました。お会いできて嬉しいですよ、ささ、こちらへ」
ヒューイは一番奥の馬房で寝そべってくつろいでいた。
「どう、ご飯はおいしい?」
《ご飯は美味しかった、肉を食べた。ブラッシングも丁寧だし、ここは良い所だよ》
「そうか、それは良かったね」
「ここは良い馬屋だ」
「ありがとうございますよ、守護竜さま」
私は馬丁さんに向き直った。
「ヒューイが、ご飯が美味しかった、良く世話をしてくれたと言ってますよ」
「騎獣と喋れるんですかい、それはそれは、そう言われると嬉しいねえ」
「明日の朝までお願いしますね」
「ええ、まかせといて下さい、聖女様」
馬丁さんは胸を叩いた。
うん、さすがは軍事拠点のお城、良い馬丁さんを雇っているようである。
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