第984話 アイアンリンドの晩餐は肉づくし①
お風呂から上がってダルシーに体を拭いてもらった。
下着を付けてドライヤーでブイーンと乾かして貰う。
ああ、良いお風呂だったなあ。
ダルシーに制服を出してもらって着替えた。
ああ、さっぱりした。
「ダルシーダルシー、ブイーンってして」
「ようございますよアダベルさま」
ダルシーはアダベルの髪をブイーンとした。
アダベルは眼を細めて気持ち良さそうにしている。
みなさんお風呂から上がったので練り歩くように泊まる部屋に戻る。
古いお城は魔導エレベーターが無いのでちょっとだるい。
窓から見える空はすっかり暮れて暗くなっているね。
「おや皆さん、なんだかつやつやしていますね」
廊下でエバンズと一緒のセージくんに会った。
「お風呂に入ったんだよ、セージくん」
「お風呂とは……?」
「水浴びみたいなもんだ、冷水ではなくて温めたお湯でやる」
「ほう、そんな事が!」
「そうか、セージはお風呂を知らなかったか。竜の体ではあまり必要が無いからだね」
「そうだともエバンズ、たまに水あびはするが、お湯でですか」
「私も人化してから初めて入ったけど、良い物だぞ、体験してこい」
「そうですね、いやはや初めての事ばかりで興味がつきません」
「まだ晩餐には時間がありそうだ、一緒に行って教えてやろう」
「うむ、行こうではないか」
セージくんはエバンズと一緒に階段をいそいそと下りていった。
「わかるなあ、初めて人間の世界に来た時は不思議な事ばっかりだったよ」
「遠い昔みたいに言ってるけど、あんたが人間界に来て一ヶ月ぐらいだからね」
「お、おおっ、たったそれくらいなのかあ、もう、三年ぐらい経ったかと思った」
アダベルも密度の濃い一ヶ月を過ごしてきたんだなあ。
いや、私もイベント盛りだくさんで十年分の事件を味わった感じだけどね。
お部屋の応接セットでくつろぎながらおしゃべりをする。
コッペリアさんがワゴンを押してきて、お茶を入れてくれた。
「茶菓子は?」
「晩餐前にはお出しできかねます」
「ちえーっ」
アダベルは口を尖らせるが、しかたがないのである。
夕飯前に何か食べると美味しく無くなるしね。
しかし、クロよ、ソファーの背の上でうろうろしなさるな。
コッペリアさんがおずおずと手を伸ばしてクロの背中を撫でた。
「大人しい猫ですね」
「ええまあ」
「クロは良い子なんだっ」
猫じゃなくて傀儡なんだけどね。
後ろにヴィクターがいないのに、ちゃんと猫っぽく動くのはすごいなあ。
家令さんが晩餐の準備が出来たと呼びに来た。
まってました。
みなで廊下を歩いて大ホールに行く。
そこに並んでいたのは……。
「バーベキューコンロだ」
「そうだとも、アイアンリンド城名物のBBQである。皆で美味しく肉を焼いて食べるのだ」
これはあれだ、バーベキューピットボーイズで見たような無骨なコンロだ。
中では炭がカンカンとおこっていた。
「それぞれのコンロに別れて座ってくださいませな」
なんとなく、執行部とアダベルでコンロを囲んだが……。
「うひゃあ、肉を焼き放題なのかーっ!!」
「さようでございます」
私はカロルを見て、コリンナちゃんを見た。
この中では一番料理が出来るのは私か?
「ふははは、お前達、肉を焼く作法をしるまい、しかたが無い私がやってやろう」
カトレアさんが来おった。
わたしは知っている、この子の舌は牛の舌で出来ていて、飯マズ女子だ。
「あ、いや、その、ご遠慮させていただく」
「そうだみょんよう、カトレアしゃんに調理が出来るとは思えないみょん」
「なにおうっ!!」
「その点、私は家庭的だみょん、私に任せるみょん」
コイシちゃんはカトレアさんよりも少しはましであろうが、たった一つ弱点がある、この子は料理に塩をたんまりとぶっかける。
塩辛女子である。
君もひかえおろうっ!
「わはは、領袖には私が焼いてやろう」
フィルマン父さんがやってきた。
「お願いします、カトレアさんとコイシちゃんにはお肉を触らせないでください」
「なにおうっ!」
「理不尽だみょんっ!」
フィルマン父さんは、カトレアさんとコイシちゃんを見た。
「ピッカリンは……、うん、料理に手をださせるな、というのは戦陣訓にある」
「な、なんですって、我が家はそんな悪名を」
「料理を滅茶苦茶にするうえに、大部分を独り占めにして滅茶苦茶食べるので陣では嫌われておったぞ」
「くうっ、おじいちゃまめっ!」
それはおじいちゃまだけの事ではあるまい。
「そして、北方の騎士に料理を作らせるな、も戦陣訓だ。やたらと塩辛くなるからな」
「ご、誤解だみょん、ちょ、ちょっとお塩を多めに使うだけだみょんよう」
「まあまあ、任せておけ」
フィルマン父さんは山刀みたいな包丁を出してきて肉とタマネギをスパリスパリと切った。
よく切れるなあ。
エクスカリバーみたいだ。
「この料理刀が欲しいか? 城下で売っているぞ」
「よく切れますね」
「丁度良い大きさで楽に切れる、土産に買って行くといい」
そんなに高い物じゃないから買って行くのも良いかもね。
フィルマン父さんは、大雑把に切った牛肉をどさどさとコンロの網の上に置き、タマネギ、人参、ジャガイモなども、どさどさ置いた。
野趣あふれる料理だなあ。
ジュージュー良い音を立てて肉が焼けていく。
美味しそうだなあ。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




