第980話 領都アイアンリンドをめざし飛行を再開する
「わあ、こんなふうになっているのですか、すごいなあ」
「ドラゴン人間、ドラゴン人間だわ……」
これ、メリッサさん、メイン操縦室のドアの影から覗きこんでヒソヒソ噂をするのはやめなさい。
賢者くんはカーチス兄ちゃんの着替えを借りてパリッとした格好になった。
ドラゴン頭もゴツイけど、見慣れると可愛い感じかも。
目が優しいしね。
「蒼穹の覇者号にようこそ、賢者さん」
カロルが賢者くんに歓迎の声をかけた。
「ありがとうございます、夢のようですよ」
「賢者さん、あんたは名前はなんていうんだ」
カーチスが火器管制席から声をかける。
「名前は……、ついてませんね」
「よし、じゃあ、親父に付けてもらうのはどうだ?」
「そうですね、お願いできますか、フィルマンさん」
「よし、それでは、セージという名前で呼ぶことにしよう」
「セージですか、良い名前です」
というか、セージって賢者って意味じゃんかよう。
そのまんまだ。
セージくんはメイン操縦室の機械を興味深そうに見ていた。
「セージ、きょろきょろするな、こっちで座ってろ、操縦の邪魔だよ」
「あ、はい、ごめんなさいアダベルさま」
セージくんはアダベルに呼ばれて後部のベンチにちんまりと座った。
「では、カロル、お願いね」
「了解よ、マコト艇長。蒼穹の覇者号、離陸します」
【蒼穹の覇者号、テイクオフ】
ファンファンとプロペラ音がして、ふわりと船は浮き上がった。
「おおおおおおお」
「そうだ、飛空艇の事がしりたいか?」
「はい、これは凄い物ですね」
「今、丁度良い奴が乗っている、今つれてきてやるぞ」
ととと、とアダベルは走ってメイン操縦室を出て行った。
誰を連れて……。
程なくしてアダベルはエバンズを連れて来た。
「ほら、野生の飛空艇博士だ」
「私は博士号は取ってないので博士ではないですよ。おや、こんにちは」
「こんにちは、セージって言います」
「エバンズです、飛空艇の技師をしています」
「こいつに飛空艇の事を簡単に教えてやってくれ」
「おねがいします、エバンズさん」
というかー、あれだな、セージくんは学者気質だな。
お養父様のお仲間だ。
エバンズは後ろのベンチで飛空艇の原理からみっちりセージくんに教えていた。
私たちも横耳で講義を聴いていた。
そうか、そういう原理で飛空艇は飛んでいるのか。
アダベルは飽きてしまったのか、クロとトトメスと遊んでいた。
あんたも聞きなさいよっ。
「凄い仕掛けですね、面白いです」
「今度、初歩の本を貸してあげましょう」
「あ、まずは人間の字を覚えないと」
「セージくんは頭が良いから、すぐ覚えますよ」
「字を覚えたいなら領校で習うかね?」
「学校ですか、それは良いですね」
なんだか話が弾んでいるようだね。
「良かったらエンジンルームを案内しましょう」
「是非お願いします」
セージくんとエバンズは連れだってメイン操縦室を出て行った。
「しかし、守護竜がアイアンリンドの街に来るのかあ、得したな、親父」
「うむ、緑の賢者は名物竜だったからな、街に居着いてくれれば皆喜ぼう」
「テイムするのかい?」
「うーむ、どうだろうなあ、彼も人間の世界が嫌になるかもしれん、その時にテイムされていては気軽に森に帰れないだろう」
「ああ、そうかあ」
フィルマン父ちゃんはセージくんの事をちゃんと考えてくれるんだなあ。
良い人だ。
「なので、守護竜になっては貰うが、本格的な契約はしばらくしてからだな」
「そうだな、それが良いと思うぜ」
「知性も高いようだ、リチャードと良い友達になってくれれば良いのだが」
「ああ、兄貴と話が合いそうな感じだな」
病弱なリチャード兄さんはインテリなのか。
ブロウライト家はみんな脳筋かと思っていたよ。
「リチャードお兄さまに会うのが楽しみですっ、気に入られ無くてはいけない」
「楽しみだけど、ちょっと不安みょん」
「大丈夫だ、兄貴は二人とも気に入るって」
「ええ、リチャードさまは気持ちが良いお方ですから、大丈夫ですわよ」
しかし、リチャード兄さんは病弱なのか、なんかカロルと組んで養命酒的な物を開発すべきかな。
病気由来ではない体の弱さは光魔法でも何ともならんからなあ。
この世界、朝鮮人参とか無いのかな。
マンドラゴラとかはありそうだが。
カロルは集中して操縦しているので、養命酒の相談は後にしようか。
飛空艇は低山の上を、森林の上を飛んでいく。
曇ってきたのか、前方がガスってきたね。
風も結構強い。
くねくねと森を抜ける街道の先に大きめの街が見えて来た。
「あれがアイアンリンドの街だ。こんな高さから見たのは初めてだな」
「本当に良い経験でしたわ」
「お気軽に呼んで下さい、カーチスには色々お世話になってますので」
「なにをいうやら、聖女どの、お世話になっているのはカーチスの方であるぞ」
「ええ、エルザさまと和解したのも、最近勉強をしているのも、あなたさまのお陰と聞いていますよ」
「そのとおりだよ、親父、おふくろ」
長耳さんにもお世話になっていると言いたいが、まあ、あれは軍事機密エルフなので言及は避けよう。
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