第979話 緑の賢者くんと話し合う
ヒューイに乗ってくるくると旋回させながら墜落地点へと舞い降りる。
結構森の深い所だね。
二頭の竜は木々をぶち折って落下したようだ。
賢者くんの怪我の方が多いな。
羽がバキバキに折れているし、喉にかみ傷がある。
血が流れていて痛々しい。
「おーい、治しにきたよ」
『わあ、人間の女の子だ、こんにちは』
「こんにちは賢者くん、今治すから」
私はヒューイを着地させて地面に降りた。
賢者くんは私とダルシーを目で追った。
『ありがとう、でも大丈夫? 竜を治せるの?』
「聖女候補にまかせておけー」
『ああ、あなたが邪竜アダベルトさまを守護竜に任命なされたという聖女さまでしたか、失礼しました』
『そうだぞ、失礼だ。そして、私が守護聖龍アダベルさまだっ』
『ああっ、そうだったのですね、古竜アダベルさまでしたか』
賢者君はアダベルに向かってぺこぺことお辞儀をした。
アダベルはふんぞりかえった。
でっかいワイバーンに近づくと巨大な頭がこちらを向いた。
ちょっと怖かったが目が穏やかなので恐れは消えた。
「羽を突き出して」
『こ、こうですか?』
「ヨシ、『ハイヒール!』」
でかいので魔力量が要るが問題無く折れた翼は元に戻っていく。
『ああっ、すごい、痛くないっ、ありがとう聖女さま』
次は首筋に手を当ててと。
『ヒール』
首筋のかみ傷もみるみるうちに治った。
『わあ、ありがとうございます、人間の回復魔法を掛けて貰うのは初めてです』
「とりあえず、君の話が聞きたいよ、この先の草原に船を下ろしたから、そこまで移動してくれるかな?」
『わかりました』
「アダベルは怪我は?」
『ない」
「にゃーん」
「げろげろ」
クロとトトメスはアダベルの首筋に乗っていた。
あんたらも器用だね。
二頭の竜は羽ばたき始めた。
ぐおう、風圧が凄い。
トットットとヒューイが寄ってきて風よけになってくれる。
ありがとう、ヒューイ。
障壁を掛けて風を防いでヒューイに跨がった。
ダルシーも後ろに乗った。
障壁を消してヒューイを羽ばたかせて空中に舞い上がる。
おっとっと、風が強くて流されるね。
風に直向するように体勢を変えさせて高度を取る。
おおー、竜二頭と一緒に空を飛ぶのは素敵だなあ。
ワクワクする光景だ。
森の向こうの草原に蒼穹の覇者号が駐まっているのが見えた。
「あそこに行くよ~」
『わかりました聖女さん』
『いくぞ、緑色』
竜族三騎編隊で草原の上を飛ぶ。
ああ、なんか夢の中の光景のようだ。
ひらりと蒼穹の覇者号の前に着陸した。
賢者くんは興味深そうに船を見ていた。
『こんな物が飛ぶだなんて、人間は凄いですね』
『我らが近づくと人間は怖がるから無遠慮に近づいてはいかん』
『そうですね、気を付けます』
なにげに温厚な竜だな、賢者くんは。
私はヒューイから飛び降りた。
「賢者くんは人間の世界に行きたいの?」
『あ、はいっ、僕は人間に興味があって、いつか人間の社会に入って観察したいと思っていたんです』
珍しいワイバーンだなあ。
『人間界を満喫したいなら、人化の魔法が使えないと駄目だ、緑色は使えるのか』
『あ、いえ、その、ワイバーンの魔法には人化の術が伝わっていなくて』
ワイバーンは時々魔法攻撃をしかけてくる事がある。
魔法が伝わっているのか。
竜が使う魔法は竜語魔法といって、人間が使う魔法とは少し系統が違ったりするね。
蒼穹の覇者号のハッチが開いて、派閥員とフィルマン父さんとイザベラ母さんも下りてくる。
ロイドちゃんはリックさんの影に隠れておるな。
「おお、これは立派なワイバーンだ」
フィルマン父さんは恐れる事も無く、賢者くんの前に進み出た。
「我が地方の二つ名持ちワイバーンの緑の賢者どのか」
『は、はい、そう呼ばれる事もあります』
「話は聞かせて貰った、貴殿が良ければ、我がアイアンリンドの街の守護竜にならないか、さすれば人間の世界を見る事ができよう」
『え、良いのですか?』
フィルマン父さんはにっこりと笑った。
「王都に守護竜アダベルが居着いたというニュースで人間界は持ちきりだ、我が領都にワイバーンが守護竜となれば民は喜び、街の名も讃えられよう。是非守護竜になっていただきたい」
『そ、それは嬉しいです、お願いできますか』
「緑の賢者といえば、高山で思索を重ねる温厚な竜として有名である、こちらが伏してお願いしたいところだよ」
おお、なんだか話がするするとまとまりそうだな。
そうか、ブロウライト領は守護竜ブームに相乗りするつもりか。
竜が居るというだけで街の格はあがるし、戦争になったときも敵が二の足を踏むだろう。
『おー、良かったな、緑色』
『ありがとうございます、アダベルさま』
『頭を出せ、我が人化の魔法を教えてやろう』
『ほ、本当ですか、嬉しいですっ、お願いします』
なんだかんだ言ってアダベルって親分気質なんだよなあ。
二頭のドラゴンは頭を付けあって何やらぶつぶつと呪文を唱えていた。
古語じゃなくて竜語魔法なのでさっぱり解らない。
人間の口の構造だと発音出来ない音とかあるから、人間で竜語が解る人ってほとんど居ないんだよね。
『よし、やってみろ』
アダベルはトンボを切ってドロンと変身した。
『やってみます』
賢者くんもドロンと変身した。
「ぶわっはっははっ」
アダベルが指さして笑った。
「あらら」
賢者くんは見事に人間サイズに縮んだ、だが、頭が竜のまんまだね。
竜人族の人みたいになっていた。
そして全裸だ。
私はとっさに収納袋からバスタオルを出して賢者くんに投げつけた。
「服を着ろっ!」
「す、すいません」
ともあれ、賢者くんも蒼穹の覇者号に乗っけていけそうでなにより。
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