第978話 ワイバーン注意報
カパリと伝声管を開ける。
「カーチス攻撃隊長、メインブリッジまでお越し下さい。ワイバーンが接近中です」
一応呼んでおかないと後で怒るからな奴は。
船内モニターにソファーから飛び上がってラウンジを出るカーチス兄ちゃんが映っていた。
ドラゴン種というのは種類が多い。
ヒューイのような小型ドラゴンから、アダベルのような大型の古竜までいろいろだ。
ワイバーンというのは前足が羽になっていて飛ぶタイプの中型竜で亜竜とも呼ばれる。
ちなみに世間で言われる竜騎士はワイバーン騎士が多く、ちゃんとしたドラゴンに乗るのは勇者関係者が多い。
私もヒューイに乗り始めたから、立派に竜騎士の資格を有している。
竜騎士聖女だな。
えっへん。
「私が外に出てぶっとばす」
「まあ、カーチスと相談してからにしよう」
「あんな竜もどきに相談する事も無い、一発だ」
アダベルはファイティングポーズを取って虚空にパンチをシュッシュと打った。
どたどたとカーチス兄ちゃんと剣術部の人達が入って来た。
「敵襲かっ!」
「敵襲というか、ワイバーン、魔導機関砲で追っ払えると思うよ」
「あー、あれはガーリン山のワイバーンだな、緑の賢者って二つ名がついてる、大人しいはずなんだが」
「賢者?」
「いつも岩山の天辺で考え事をしているみたいだから付いた名前だ」
「頭が良いのかな?」
「さあ?」
「二つ名とは生意気なっ、ぶち落として今夜のディナーのステーキにしてやる」
「あ、アダベル」
剣術部が入って来たドアをくぐってアダベルがメイン操縦室から飛び出していった。
ぶっ殺す気、まんまんだな。
「とりあえず警戒する。攻撃の意思があれば、武装で対応しよう」
カーチス兄ちゃんが火器管制席に座った。
ワイバーンはどんどん近づいてきた。
なかなか凶悪そうなトカゲ面で、賢者な面影は無いな。
結構体格も大きい感じ。
「噂のワイバーンをこんな近くで見られるとは」
「エッケザックスで狙撃すべきでは?」
カチンとカーチス兄ちゃんの背中のホウズが少し抜けた。
『ふむ、あれくらいの亜竜ならば近寄って来た所を、我で斬る事もできるぞ』
「いや、今回は船の武装で行く、光ビーム砲は使えるか?」
「そんな馬鹿でかい物を使う気はないわよ」
船の魔力が三発で空になるほどの馬鹿食い兵器なんだぞ。
「艦首魔導機関砲展開、魔導ミサイル口、一番から四番まで解放」
【了解です、魔導機関銃ならば二十秒の斉射で、魔導ミサイルなら二発で死亡すると思われます】
ガシャンガシャガシャガシャガシャと前の方から音が聞こえた。
マーラーには魔導兵器は効きにくかったけど、ワイバーンだから何とかなるでしょう。
ワイバーンは船に近寄って来て高度を取った。
上空から駆け下りるようにして攻撃してくるか。
と、思ったら羽を止めた。
止めた。
止めた。
モニターを見れば甲板にアダベルが仁王立ちをしてワイバーンを睨んでいた。
頭にはトトメスが乗っていた。
肩にはクロが乗っていた。
アダベルはダダダと甲板を駆けて手すりに跳び上がり、さらに踏み切って虚空に飛ぶ。
そして空中で巨大な聖氷竜に姿を変えて、吠えた。
GAOOOOON!!
ワイバーンは目を丸くして尻尾を丸めて逃げだそうとした。
ガバリとアダベルの口が開き、青白いホーリーアイスブレスがワイバーンをつつみこんだ。
バリバリと羽に氷が付き、動きが鈍くなった。
GAHIIIN!!
アダベルがワイバーンの首に噛みついて森林に絡み合って落下した。
「……、くそう、一発も撃てなかった」
「まあまあ、楽に済んでよかったよ。カロル旋回して」
「わかったわ」
「アダベル強いなあ」
「頼りになる……、さすが守護竜……」
カロルは操舵輪をくるくると回して船を旋回させた。
さて、墜落地点に戻ってアダベルを拾おう。
あと、ワイバーンの死骸も拾おう。
「ワイバーンって美味しいの?」
「滅多に食えないけど、美味いって聞くな」
「おおー、竜肉、楽しみだな」
さて、アダベルの墜落地点に近づくと……。
何やってんだ?
アダベルが岩に座り込んで、その前でワイバーンが土下座していた。
死んで無いのか。
『なんだと、人間に興味が湧いたから近寄ったと申すか』
『は、はい、噂では人の都で守護竜になったお方がおられると聞き、良いなあと思いまして』
『そ、そうか。それはなかなか良い心がけだな、うん』
古語で話し込んでいやがる。
人語を解する系かよ。
ワイバーンなのに。
「緑の賢者だからなあ」
「そ、そういうもの?」
私は船外伝令管の蓋を開けた。
「おーい、何か話があるなら聞くよ。この先の草原まで飛べる?」
『あ、はい、わあ、人間だ、すごいなあ、あ、いてっ』
どうも賢者くんは墜落のショックで羽を折ったようだ。
「カロル、私はヒューイで行って治してくる」
「解ったわ、気を付けてね」
「空中でヒューイで飛び出す訓練もしたかったから丁度いいわ」
「いってらっしゃい」
私は船長帽を椅子に引っかけて下りた。
メイン操縦室を抜け、廊下を通って船尾の螺旋階段へ。
下りると貨物室のドアがある。
エンジンルームからエバンズが顔を出した。
「どうしたのだ?」
「ちょっとトラブル。ヒューイで行ってくる」
「そうか、気を付けて」
貨物室に入るとヒューイが立ち上がった。
「空中で飛び出すよ、大丈夫?」
《まかせて》
よし、私は鞍を……。
ダルシーが現れて手伝ってくれた。
「エイダさん、後部ハッチを開けて」
【了解です】
今は飛行じゃ無くてホバリング中だから風はそんなに強く無いね。
私がヒューイに乗るとダルシーも後ろに乗った。
「護衛ですので」
「わかったよ」
私はヒューイの脇腹を軽くかかとで突いて前進させ、格納庫のハッチから飛び出させた。
よーしワイバーンと面談だっ。
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