第974話 アンドレア領城でランチが始まる
ハッチを開けるとアンドレア夫妻とメリッサさんがまずやってきた。
「なんて速いのでしょう。さっき王都にいたなんて信じられませんわ」
「本当に素晴らしい経験をさせて貰いました、聖女様」
「いえいえ、王都に上がる時はお気軽にお知らせください、お迎えに行きますよ」
「本当に時間の節約になって、素晴らしいわ」
「秋の学園祭の時期に是非お願いします」
まあ、入り口でくっちゃべると後ろがつかえるのでタラップを降りながらお二人のお話を聞いた。
領城の中庭ぎりぎりに降りた、ように見えたが地上から見るとわりと余裕があるね。
アンドレア領城は歴史がある感じの小さな丘城で綺麗に手入れされているね。
なんだかメルヘンチックである。
「お帰りなさいませ旦那様」
家令の人が領城から出てきてクリスチャン父さんに頭を下げた。
「おお、ベランジェ、今帰ったぞ」
ベランジェさんは蒼穹の覇者号を見上げて大きく息をはいた。
「我が領城に飛空艇が駐まるとは、夢にも思いませんでしたぞ」
「そうだろうそうだろう、朝には王都に居たのだ、まったく魂が王都に残っておるようじゃわい」
「さようでございますか、得がたい体験をなされましたな」
「早鳩で知らせていたが、昼食の用意はできているか?」
「はい、もちろんでございます」
よかった、これから用意をするとか言われたらどうしようかと思ってた。
早鳩というのは連絡に使われる長距離伝書鳩の事で、前日ぐらいにクリスチャンお父さんが飛ばしていたようだ。
中庭で領城を眺めていたら、みなもぞろぞろ降りてきた。
今日の主賓はブロウライト辺境伯夫婦なのだが、他にもゆりゆり先輩は公爵令嬢だし、王族のロイドちゃんも居る。
身分というのは色々面倒くさいものだ。
「や、ややっ、ロ、ロイド王子、ロイド王子ではありませんかっ」
クリスチャンお父さんがロイドちゃんを見つけて眉を上げた。
「いいや、人違いだ、私は騎士爵の息子、ユーリンゲンである。ロイド王子なるものではない。という事にするのだ」
「は、ははあ、仰せのままに」
クリスチャンお父さんは膝を付いて頭を下げた。
「やっぱりロイドは面倒臭いですわね」
「ひ、ひどいよユリ姉っ」
「まあ、メリッサさまのような可愛いお城ですわ」
「ありがとうマリリン、ランチが終わったらいろいろ案内してあげるね」
「それは嬉しいですわ」
私も付いていって城の中を見よう、そうしよう。
「城だ、ここは戦場になった事あんの?」
「おほほ、運良くありませんのよ、守護竜さま」
「そうなのかあ」
アダベルはちょっとがっかりしたようだ。
子供は戦争好きだからね。
ここらへんは、アライド王国になったり、ジーン皇国に占領された事はあるが、戦争は起きて無かったようだ。
あまりの大軍が来ると領主は降伏して寝返ったりするんだよね。
他の国でも税は欲しいから抵抗せずに寝返ると特に戦いが無い事が多い。
クリスチャンお父さんに案内されて領城の中に入る。
なんとなく葡萄酒っぽい匂いがするのは気のせいか。
それとも城でもワイン作っているのかな。
「さすがアンドレア城だ、ワインの匂いがする。今年の出来はどうなんだ?」
「去年は暖かかったので葡萄も良く太りました、良い出来の新酒ができてますぞ、フィルマンさま」
「まあ、楽しみですわ」
「少し荷物になりますが、飛空艇に何樽か積み込みましょう、聖女様、大神殿にもお持ち下さい」
「御寄進ありがとうございます」
うむ、新酒は大神殿のみんなが喜ぶぞ。
坊さん達はワイン好きだからなあ。
洒落た廊下を通ってホールに出た。
燭台が点いているテーブルがあって、お皿やらシルバーやらが乗っていた。
さて、席次は……、と思っていたらゆりゆり先輩がくるくると動いてみんなを席に座らせていく。
ああ、ゆりゆり先輩がいるとラクチンだなあ。
まずはお客さんであるブロウライト辺境伯夫婦が上座である。
その後テーブルの上から左右に派閥の執行部、三年生、二年生、一年と割り振っていった。
ロイドちゃんは騎士ユーリンゲンなので、一年の男衆と並べられている。
さすがは公爵令嬢だぜ。
会食の席ではとても頼りになる。
「さて、派閥の領袖たる聖女様やブロウライト辺境伯様、公爵令嬢であるユリーシャさま、それと正体不明の騎士ユーリンゲン様と、素晴らしいお客様をアンドレア領城にお迎えできて、望外の光栄であります。ささやかながら、お昼の宴を用意いたしましたので、アンドレア領の食材をお楽しみ下さい。ワインは新酒、去年の物と、赤白取りそろえておりますので、給仕にご要望をお伝え下さい」
給仕さんが来たので、私は小声でお茶をと伝えた。
カロルもお茶らしい。
コリンナちゃんは白ワインを頼んでおったな。
「私は葡萄ジュースだっ、あるか?」
「ありますとも守護竜さま」
「よし、でかしたっ」
アダベルが殿様ムーブしているな。
男衆とか、ゆりゆり先輩、ヒルダさんなんかはワインを頼んでいるね。
私の前にグラスに入ったお茶が運ばれて来た。
「それでは、聖女派閥の発展を祈って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
みな、グラスを掲げ持って乾杯と挨拶をして、お昼の宴は始まった。
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