第967話 夕暮れ空を飛んで王都に戻る
【魔導カタパルト射出シーケンスを開始します】
エイダさんのカウントが流れるメイン操縦室で、みんな夕日に赤く染まった王都を見ていた。
【6、5、4、3、2。カタパルト起動。蒼穹の覇者号テイクオフ】
どんと席に押しつけられるような加速度がかかって船は夕焼け空に飛び出していった。
赤い赤い、まわり中真っ赤だね。
「きれいね~~」
「に”ゃ”あ”」
ちびっ子に抱かれたニャーリンがダミ声で返事をした。
カタパルトの速度を落とさないようにして直進すれば、王都はすぐだね。
やっぱり飛空艇は速いなあ。
王都の街壁を飛び越し、飛空艇は一路、魔法塔を目指す。
屋上に着陸して学者さん達を下ろすのだ。
「うわあ、空から見た魔法塔はまたかくべつっすね」
目をキラキラさせてアリアーヌ先生は言った。
カタパルトから水平飛行をしてくると魔法塔の屋上のちょっと上ぐらいに着く。
塔が近づいてきたので出力レバーを絞って速度を落とした。
ゆっくり正確に、ふわりと蒼穹の覇者号は魔法塔屋上に着陸した。
「「「「ブラボー!!」」」
学者さん達が拍手をして着陸を褒めてくれた。
というか、この世界でもブラボーって言うんだね。
学者さんがどやどや降りていった。
ジョンおじさんが屋上の出入り口で出迎えていた。
「アリアーヌ先生、村の警護ありがとうございました」
「なあに、ディラハンと対峙したのは一回だけだったっすよ」
「それでも助かりましたよ。次のガドラガ行きはいつぐらいですか?」
「そうっすね、パーティの仲間の予定もあるっすが、来月ぐらいじゃないっすか?」
「そうですか、私もそれくらいにガドラガに行きますので向こうで会えたら色々教えてください」
「まかせるっすー」
にっこり笑ってアリアーヌ先生はタラップを降りていった。
彼女は気の良いお姉さんで良いな。
迷宮だと凄そうだけど。
ハッチを閉めて垂直離陸。
大神殿に向けて高度を下げながら飛ぶ。
しかし、慣れてきたからか蒼穹の覇者号を自在に動かせるようになったな。
操縦は楽しい。
いつもの練兵場へふわりと着陸する。
「マコねえちゃん、ありがとー」
「ああ、村の三人も、王子様も王女様も、しばらく会えないのね」
「さびしいさびしい」
「またすぐつれて行ってやるよ」
「ほんとう、アダちゃん大好きっ」
「よせやいっ」
すっかりアダちゃん呼びが定着したなあ。
仲良しになって何よりだ。
「アダベルは学園まで乗って行くの?」
「うん、学園からの方が近い」
たいした距離の違いとは思えないけどなあ。
まあ、いいか。
メイン操縦室にはアダベルとエバンズだけになって何か寂しいね。
また出力を上げて飛空艇を空に舞い上がらせる。
さて、次は格納庫に入れて完了だね。
ひょいと上がって、バックで格納。
手慣れたもんだね。
「おつかれさま、マコト」
「もう慣れたからなんでもないね」
「明日は遠出だから、私が先に操縦するね」
「あ、ありがとう」
今は三人で操縦出来るから楽よね。
「エバンズはどうするの?」
「これからエイダさんと一緒に各部チェックをします」
「エイダさん、夜十時になったら作業は強制的に中止させてください」
【了解しました。賢明と思います】
「ええ~~~っ、そ、そんなあ、夜十時だなんて宵の口じゃないですか」
「マニアの人は楽しいからって寝食を忘れて頑張るからね。寝て食べて休んで、健康に研究をしなさい」
「はい……」
エバンズは不満そうだが、オタクの人の集中力を舐めてはいけない。
ガチでテンション上げて天国行きというのは結構聞く話だ。
まあ、私も前世でやらかしたしね。
「食事の方はカーチスに言って男子寮食堂で取れるよう手配しますから」
「ありがとうございます、オルブライトさま」
「よし、エバンズもがんばれよっ」
「はい、アダベルさん」
なんだか守護竜さまが偉そうである。
エバンズを飛空艇に残して地下道を通って女子寮へ。
エレベーターで一階にあがるとロビーで派閥員が集まっていた。
「そいじゃ、私は行く、マコト達は明日から旅行か?」
「そうだよ、カーチスの家族とメリッサさんの家族を送っていくんだよ、アダベルも来る?」
「うーんどうしようかな」
アダベルは迷っているようだ。
「カーチスの領の特産は牛肉よ」
「牛肉っ!」
アダベルの目がギラリと光った。
腹ぺこドラゴンは食べ物で釣るのが手っ取り早いね。
「よし、守護竜さまが付き合ってやろう。ガクエンチョに頼まなくては」
守護竜さまは王都を離れていいのかな、という気がしたが、まあ、アダベルだからね。
王府も文句は言わないでしょ。
「じゃあ、またなあ、みんな」
アダベルはロビーにいた派閥員に手を振ってテテテと走っていった。
「いつも元気ですわね」
「なにしろアダベルさまですから」
私もそう思うぞお洒落組よ。
「さあ、晩餐に行きましょう、お腹が空いたわ」
「そうしようそうしよう」
私たちはぞろぞろと食堂に入っていった。
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