第96話 閑散とした食堂でヒルダ先輩の報告を聞く
食堂バイト卒業だ!
ふおおおっ、という感じでロッカールームを出ると、食堂にまだ人影があった。
覗いてみると、ヒルダ先輩が閑散とした上級貴族席でお茶を飲んでいた。
「どうしました、ヒルダ先輩」
「領袖に諜報部から、夜のご報告です」
「何かありました?」
「十傑衆、極大射程のエーミールの続報です」
おお、奴がまた何かしたのか。
私はヒルダ先輩の向かいに座る。
なぜだか知らないが、コリンナちゃんも隣に座る。
シャーリーさんが私たち二人にお茶を入れてくれた。
んー、良い匂い。
アップルティーかな。
「とりあえず、時計塔前でのエーミールとの交戦、勝利おめでとうございます」
「そんな事をしてたのか、おまえは」
「い、行きがかり上襲われたから倒したよ」
「ダルシーが倒したのか?」
ヒルダ先輩が笑った。
「マコトさまが倒されましたよ、コリンナさま」
「は?」
「交戦状況をご説明しましょう」
そう言うとヒルダさんは簡単にエーミール戦の状況を説明した。
よく調べてるなあ、アンヌさんにでも聞いたかな。
「自分で、時計塔に駆け上がって行って、また金的……」
「そ、それが一番手っ取り早いんだものっ!!」
コリンナちゃんは渋い顔をした。
「マコトは馬鹿か、あぶないにもほどがある」
「諜報部門からも、領袖に無茶はおやめ下さいと懇願いたしますよ」
ぐぬぬ。
私は悪く無いのに、みんなに怒られておる。
くそう、エーミールの奴めっ。
「障壁で空に駆け上がれるという素晴らしい能力は秘匿しておくべきでした。これで敵に空を飛べるという利点を対処されてしまいますから」
「あ、そうか。しまった」
「今回のエーミールの攻撃も障壁の強度を見る目的があったと思われます。もちろん馬車であったなら、その場での必殺を目的としていたのでしょうが」
サーヴィス先生のぼろ馬車に感謝だなあ。
今度、メンテナンスしてあげようかな。
木製の物ならヒールは掛かるだろうか?
どこからどこまでが生物なんだろう。
「まあ、十傑衆の一人に土を付けたのはかなり大きい勝利ですわね」
「うん、結果オーライだよ」
「本当に、気をつけろよなあ、お前が死んだら私も悲しいし、カロルも悲しむし、ダルシーや、他のお前を好きな奴らが悲しむぞ、あとリンダさんが騎士団率いて大暴れしそうだから、気を付けろ」
う、うむ、それはコワイ。
リンダさんと聖騎士団は危ない。
気を付けます。
「現在エーミール部隊は移動中です」
「ど、どこへ?」
や、やばい、ポッティンジャー公爵家第二公邸とかに常駐とかされたらウザすぎる。
学園近くの高い建物から狙撃をされるとマジヤバイ。
派閥の子を狙われたら、マジで聖戦掛けないといけなくなるぞ。
そうすると、本格的に教会対ポッティンジャー公爵家になって内戦だ。
「ご心配なく、エーミール部隊はポッティンジャー公爵家領に撤退していきました」
「なんで? 目をやられたから?」
「ええ、医師の診断では完治に三週間かかるそうです。それよりも、エーミールがびびっちゃいましてね、『あ、あんなきちがいじみた奴とはもう戦いたくない』だそうです。マコトさまの完勝ですわ」
「ほーーー、良かった」
「心が折れたのか、えげつねえ事だ」
「コリンナさま、想像なさってください、魔物をも貫く大ボウガンでバンバン撃っても撃っても障壁で跳ね返されて、高所に居るのに、あっという間に距離を詰められて、閃光で目潰し、さらに金的打ちです。もしも金的ではなく、短剣ならば、絶命している所なんですよ。心が折れない方がおかしいのです」
コリンナちゃんは腕を組んでうなった。
「コワイなあ。それはコワイ」
「いやあ、相性が良かったから」
「本当に遠距離特化のエーミールで良かったのですよ、十傑衆にはもっとやっかいな奴がいますからね」
「わかったよう、気を付けるから怒らないでよう」
「今回、私も警戒網を抜けられて、警報を発する事ができませんでした、申し訳ありません」
「いいよ、しょうが無いでしょう、十傑衆が動く予兆とか無かったんでしょう」
「はい、特にエーミール隊は動きが速くて捉えにくいのです。本当にご無事でなによりでした」
ヒルダさんは頭を下げた。
良いんだよう、しょうが無いさ。
基本的に諜報というのは読み合いなので、突発的に動く奴がいるとすり抜ける事がある。
無敵の警戒網という物はないんだよね。
しかし、あのやっかいなエーミールがポッティンジャー公爵領に戻ったのは僥倖だね。
遠距離特化型はやばすぎるし。
次回の戦闘には、障壁対策と、閃光対策はしてくるだろうなあ。
気が重い事だ。
かぷりとお茶を飲んだ。
おー、やっぱり美味しいなあ。
「ミーシャさまにいただいたお茶ですわ」
「さすがは公爵家のお茶、美味しいなあ」
シャーリーさんがちょっと誇らしげに笑っている。
彼女は基本無表情なんだけど、ちょっとの口の動きで解るぞ。




