第965話 邸宅でカロルは錬金作業をする
「ああ、オルブライトさん、邸宅に錬金釜を設置しましたよ」
私たちが船から下りると学者さんたちが近づいて来てそう言った。
「わあ、ありがとうございます」
おお、学者さんが多いと思ったら、錬金釜設置の関係者だったのか。
「今日はお休みだったんだけど、錬金釜輸送の話があったからサーヴィス先生に頼み込んでね、設置をしに来たんだよ」
これで、ホルボス山邸宅でもカロルは錬金作業ができるね。
「ありがとうございます」
「料金の方は?」
「あ、私の方にください、聖女派閥で使っている建物なので」
「いいの? マコト」
「いいのだ。携帯式ドライヤーのロイヤリティから引いといてくれると助かります」
「ああ、そうだね、そうしておくよ」
さっそく錬金釜を見に行こう。
私とカロルはホルボス基地から通路を歩いて邸宅の地下礼拝堂に入った。
なぜかアダベルも付いて来た。
「こちらになります」
錬金釜を設置したのは二階の西ウイングの部屋だった。
私たちが泊まった部屋の応接室だ。
「よし、ここはカロル専用の部屋ね」
「わ、悪いわよ」
部屋の一角に立派な錬金釜が設置されていた。
「ああ、新型ね、熱の効率がよさそうですね」
「魔石の使用効率を上げたもので二十%の魔石の節約になりますよ」
「ありがとうございます」
これでホルボス山でも錬金作業ができる。
さっそくカロルが収納袋から毒消し草を出して作業を始めた。
「あ、アンヌ、ナイフあるかしら」
「はい、お嬢様」
アンヌさんが現れて調理ナイフをカロルに手渡した。
「へえ、こうやって薬を作るのか」
「アダベルは初めて見る?」
「初めて初めて、そうだみんなも呼んでこよう」
彼女はテテテと走っていった。
カロルはにこにこしながら混ぜ棒で釜をかき回している。
「すぐできるの?」
「毒消しは簡単だからね」
学者さんもご満悦なカロルを見てニコニコしていた。
どやどやと子供達が部屋に入ってきた。
「おお、錬金作業!」
「本当に釜で作ってる、何を作ってるんですか?」
「毒消しよ、そうだ、念のため、みんなも一本ずつ持っていって」
「えーでも」
「すぐ悪くなるんでしょうー」
「普通なら一週間ぐらいで駄目になるわね」
カロルが私をちらっと見た。
「私が魔法を掛けて時間を固定するから、開くまで何年も持つ毒消しができるよ」
「そ、それは安心」
「い、家にあるともしもの時に良いね」
「ばっか、おまえ、オルブライト商会のお嬢様と聖女さまの作った毒消しだぞ、家宝だ家宝!」
「そ、それもそうだ」
みんなに念の為毒消しを渡しておくのはいいね。
大教会に毒飼い令嬢は来ないと思うけど、もしも来て子供達の従魔が殺されたら悲しいからね。
ボワンと緑色の煙が上がって、青い薬液ができた。
「これが毒消しかあ。あ、苦い」
アダベルが柄杓から一口毒消しを飲ませて貰って顔をしかめた。
アンヌさんが毒消し用の一口瓶を持っていたので、それにちゃっちゃと薬液を入れていく。
小さい瓶だから持ち歩き易いね。
私は詰められた小瓶に障壁を掛けて時間を止める。
「わあ、逆さにしても中が移動しない、不思議ー!」
アンヌさんは飾り紐も出して来て薬瓶の穴に通してトール王子の首にかけた。
「ありがとうメイドさん」
まあ、トール王子はカーバンクルのトミーがいるから毒の心配は無いんだけど、持ってるとなんかの役に立つかもしれないしね。
みんながアンヌさんの前に並んで小瓶にヒモを通して首に掛けて貰っていた。
「マコトは要らない?」
「私は毒は効かないし、自分で治せるしなあ」
「それもそうね、あなたにもプレゼントです」
カロルは学者さんに毒消し小瓶を渡した。
「これはありがとうございます、というか時間停止毒消しだなんて、これは貴重ですよ」
「素敵な錬金釜を設置して貰ったお礼ですよ」
「ありがとうございます」
学者さんたちはほくほく顔で受け取った。
ああ、なんで首紐の列にならぶかな、おっちゃんっ。
「派閥のみんなにも一つずつ渡した方が良いわね」
「そうだねえ、毒消しはいつ必要になるか解らないしね」
派閥の人数分の一口瓶も時間停止してカロルに仕舞ってもらった。
本当はハイポーションの一口瓶も持たせたいねえ。
でもあんまり薬品をジャラジャラさせるのもなあ。
「二つの薬剤を入れる一口小瓶は無い?」
「あんまり見ないわね、特注になりそうよ」
「毒消しとハイヒールポーションの時間停止一口瓶があれば色々と安心かなって」
「それは……、とても売れそうだけど、作る?」
「凄く売れるかな」
「滅茶苦茶売れると思う、というか、凄い高値で売れます。王家も欲しがるだろうし」
非常用薬品で良いかもなあ。
時間停止させておけば何年でも持っておけるし。
「今度一緒に作りましょう、ハイヒールポーションもあると便利だし」
「そうだね、とりあえず、みんなには毒消しを配ろう」
アンヌさんが通常瓶に毒消しを詰めて、ホルボス邸宅でのカロルの初錬金作業は終了した。
余談だが、孤児の一人がひっくり返って早速毒消し瓶を割ってしまったが怪我はなかった。
子供用には割れない瓶とか考えないとね。
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