第962話 厩舎に行ったら騎乗部長が待ち構えておった
ヒューイに乗って学園の建物を縫うようにして飛ぶ。
樹とか生えてるから結構難しい。
男子寮の横を通り過ぎた時、エルマーが自室で勉強しているのが見えたので手を振る、
エルマーはにっこり笑って手を振り返してくれた。
なんというか、竜馬で飛ぶと学園を立体的に移動できて面白いな。
飛空艇は図体がでかいからぶつからないかとハラハラするからね。
ヒューイだと小回りが利いていいね。
図書館の横をすり抜けて厩舎方向へと飛ぶ。
ふわふわっとした乗り心地で官能的でさえあるね。
厩舎前の広場にふわりと着地した。
「うまいうまい」
《まかせろー》
ヒューイの誇らしげな気持ちが伝わってくる。
さて、馬丁頭さんにヒューイを頼もうかなと、思ったら厩舎の中から騎乗部部長のパスカルめが現れた。
「おう、聖女さんお帰り」
「あんたは厩舎に住んでるの?」
「まさか、だけど、学校がある時間以外はだいたい厩舎にいるな」
なんという騎乗馬鹿なのか。
「聖女さま。あなたのサイラスがまいりましたぞ」
「……、サイラスさんがヒューイのお世話してくれるの?」
「いえいえ、私めはローランの代わりに地獄谷にいかねばなりませんので、栄えある馬丁係はこちらの二人でございますぞ」
サイラスさんはイケメン馬丁さん二人を指し示した。
「デュドネと申します、聖女様」
「オノレでございます、聖女様」
あれだ、二人とも平服を着て馬丁に化けてるけど、所作の優雅さが聖騎士だってわかるな。
「デュドネさん、オノレさん、よろしくおねがいするわ」
「「おまかせください」」
パスカル部長は眉間にシワを寄せた。
「おいおい、馬丁に化けてるけど騎士さんだろこれ、いいのか?」
「なにをいうのだ、聖女さまの騎獣だぞ」
「瑞獣にして聖獣、いつ悪漢に襲われるかわからぬのだ」
パスカル部長も聖騎士馬丁コンビに詰め寄られると困ったようだ。
本当に教会関係者は聖女候補を溺愛するよなあ。
「最近、従魔に毒を飲ませた事件があったから、気を付けてお世話してくださいね」
「「かしこまりました、命に替えても」」
「ああ、流行ってるらしいな、何匹かの従魔が毒を飲まされたって、小動物系の従魔は死んだ奴もいるってよ」
え、流行ってるのか。
毒を使う、毒蛇令嬢みたいなやつがいるのか。
物騒だな。
「俺らもヒューイ号の事見ておくから安心しろよ。その代わり、夏のレースの件、考えておいてくれ」
「騎士学校の騎乗部を昨日見たよ。ペガサスばっかだったよ」
「そうなんだ、あいつらレースに有利だからってペガサスばっかり使いやがってよう」
「空を飛んでも良いんだ」
「ああ、ちゃんと道はあるんだけど、空を飛んでも良い」
「コースをショートカットしちゃわない?」
「何カ所かチェックポイントがあって、たすきを取らないといけないんだ。一本でも無いと失格だよ」
あ、なるほど、地上のコースがあって、各所にあるチェックポイントは経由しないといけないんだな。
「それでも空を行けるとそうとう早いんだよ。ルールでは騎獣の種類は問うてないからな、なんだか騎士学校騎乗部のスポンサーのどっかの侯爵が金を出して揃えたって話だよ」
どっかの侯爵……。
どこのハゲだろうか。
というか、金に物を言わせやがって、むかつくな。
「だから、聖女さんの竜馬があれば、奴らに一矢報いる事ができるんだよ」
「騎乗レースだとペガサスは無敵なの?」
「そうでもない、強風の時は空を飛べないから地上を行かなくちゃならないんだけど、ペガサスは足が弱いから、そういう時は地上が強い騎獣が有利だな」
ああ、天候にもよるのか。
いかんな、このままだと騎乗レースに出る事になってしまうぞ。
何しろハゲに吠え面をかかせるチャンスだしなあ。
魅力的すぎる。
「夏までにミニレース大会が何回かあるから見に来てくれよ」
「まあ、気が向いたらね。デュドネさん、オノレさん、ヒューイをお願いね」
私は手綱を二人に渡した。
「おおなんという喜び」
「聖女さまが我らの名前を呼んでくれるとは……」
泣いてんじゃねえよっ!
サイラスさんも目を閉じてうんうんとうなずいてんじゃねえよっ!
まったく、聖騎士って奴はよう。
「聖騎士って変わってんなあ」
それは同意する、パスカル部長。
《それではまた、主よ》
「またね、ヒューイ」
ヒューイは騎士馬丁二人に引かれて厩舎の中に入っていった。
「あ、サイラスさん、地獄谷行くなら四時頃トール王子とティルダ王女をホルボス村につれて行くから、その時に便乗したら? はちまき道路ができたから行き来が楽になったよ」
「おお、完成しましたか、それではお言葉に甘えて便乗させていただきますかな」
蒼穹の覇者号はホルボス村行きのバスみたいになってるな。
私はサイラスさんと一緒に校内を歩き始めた。
「乗馬服姿もお似合いですな」
「ありがとう、やっぱり乗馬服は楽ね」
「それ用に工夫されておりますからな」
図書館前でサイラスさんと別れて私は集会室に向かう。
連続従魔毒殺事件が気になる。
ヒルダさんが居たら聞いて見よう。
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