第959話 子供達と魔法塔見学する
さて、ヒューイで下に降りようかな。
「それでは受付に話を通しておくよ」
「おねがいします、ジョンおじさん」
「たのんだぞ~」
「うむ、まかせておきたまえ」
屋上の縁から飛び出すのは、ちょっと怖いけど思い切ってヒューイを走らせる。
アダベルもダダダと走る。
ダンと踏み切ると、そこはもう空中、わあ、遠くまで見えるぜ。
ホルボス山も霞んでるけど遠くに見えるね。
塔の周りをらせん状に飛んで降りると空気抵抗が少ないっぽい。
ぎゅーんとね。
アダベルも隣で飛んでいる。
ああ、空飛ぶの楽しいなあ。
くるくるっと塔を三周ぐらい回って馬車溜まりに着陸する。
アダベルもシュタッと降りた。
「みんなが来るまで待つのか」
「そうしましょう、というか、アダベルのカエルもクロも良く落ちないわね」
「ふふふ、トトメスもクロも慣れているのだ」
「ゲロゲロ」
「ニャーン」
器用だなあ。
守衛さんに馬繋ぎ場を聞いてヒューイを置いた。
意外に馬出勤する魔術師さんはいるようだ。
玄関前のベンチで待っているとリンダさんが御者をやっている幌馬車が到着した。
「お待たせしました聖女さま」
「ありがとうリンダさん」
子供達が幌馬車から飛び降りてきた。
「うわっ、たっけー」
「首が痛くなるね、お兄ちゃん」
「そうだな、すごいなあ」
ジョンおじさんが玄関から出てきた。
「やあやあ、良く来たね、私が魔法省長官のジョンポール・クレイトンだよ、よろしくね」
「「「「「よろしくおねがいしまーすっ!」」」」」
お、ジョンおじさん自ら魔法塔を案内してくれるのか、いいね。
「魔法塔は高いね、この建物はね、前期魔導文明の頃に立てられて五千年ぐらい昔から立っている貴重な魔導建築物なんだ」
「すっげーっ!」
「五千年の歴史の前に俺はいるぜっ!」
「大昔~~」
「高度な魔法建築技術が使われていて、今でもわかっていない事も多いんだよ。私たちはずっとこの塔自体も研究しているんだけど、まだまだわからない事ばかりなんだね」
「むかしのひとすごーいっ」
それは知らなかった。
高い塔な訳だなあ。
みんな感心して塔を見上げていた。
きっと五千年前もここは大きな都市で色々な凄い魔法であふれていたんだろうなあ。
「さあ、中に入ろうか。この建物の中ではたくさんの魔導技術者や魔導研究者の学者さんたちがいて、色々な世界の謎を研究しているんだ」
「すごーい」
ジョンおじさんは皆を魔法塔の中に案内した。
「ここは魔法塔一階、受付とか、魔法塔の職員を管理する部署が入っているよ」
一般事務オフィスだね。
「一階で働くにも魔法の才能はいりますか?」
「一般事務会計の仕事だから、魔法の才能はそんなにはいらないね。貴族だけじゃなくて平民の職員もたくさんいるよ」
「「「おおっ!」」」
貴族ばかり雇ってたら人手が足りなくなるからね。
王府は一応貴族で無いと職員にも成れないけど、魔法塔はちがうっぽい。
「長官、学者さんには平民でも成れますか」
「成れるとも、学者に必要なのは知性だけだからね、魔法塔には沢山の平民出身の研究者がいるよ。いつか君たちのうちの誰かが魔法塔に来てくれるかもしれないね」
「「「おおおおっ」」」
孤児達がどよめいた。
「わ、わたしはテイムのけんきゅうでがんばりたいのです、にゃーりんもいます、まほうとうに入れますか」
「に”ゃ”あ”」
あいからずダミ声だな、夜光猫にゃーりん。
ジョンおじさんはちびっこの頭をやさしく撫でた。
「そうだね、これからは聖女さまのご協力で古式テイムの研究をしなければいけないから、きっと君が大きくなる頃には魔法塔でテイマーの求人があると思うよ」
「わわーーいっ! がんばりましゅっ!」
ちびっこはにゃーりんを抱いたままくるくると回った。
そうだなあ、アップルトンで古式テイムが流行ると良いねえ。
ジョンおじさんはエレベーターホールに皆を案内した。
「魔法塔には沢山の部署があってね、魔法開発課、錬金課、魔導政策課、魔獣対策課、迷宮管理課、などなど、魔導先進国アップルトンの未来を担うべく、沢山の人達が色々な魔法の研究をしているんだ」
というか、ジョンおじさん案内慣れしてるな。
外国の賓客とかを案内する関係なんだろうなあ。
チンとベルが鳴って魔導エレベーターのドアが開いた。
「さあ、乗りたまえ、まずは最も魔法塔らしい魔法開発課から見ていこう」
「「「「「はーい!」」」」」
ジョンおじさんは丁寧にわかりやすく魔法塔の各課を紹介してくれた。
いや、わかりやすいなあ。
まあ、現場はだいたい普通のオフィスで見て面白い物でも無いのだけれど、魔法実証実験室とか、錬金印刷室とか、見所のある場所は結構有った。
錬金課の階でエレベーターが開くとミリヤムさんがいた。
「あら、こんにちは、ミリヤムさん」
「あ、ミリヤムおねえちゃんっ」
「あらあら、どうしたの?」
「トール王子とティルダ王女と村の子がホルボス村に帰るから色々と観光なのよ」
「魔法塔を見に来る子供って渋いわね」
ミリヤムさんは目を細めて笑った。
「どう? 錬金術の勉強の方は」
「すっごく面白いわ、初めて勉強ができて楽しいのよ」
ジーンのスラムだと勉強の機会自体が無さそうだもんねえ。
「ミリヤムくん、これからお昼かね」
「はいそうですよ長官」
「それではみんなと一緒に展望レストランで取らないか? お子様の世話をする手が足りない気がしてね。もちろん私のおごりだ」
「良いんですか、長官!」
ミリヤムさんが弾んだ声を出した。
おお、お昼はジョンおじさんが奢ってくれるのか。
展望レストランは良い景色だしね。
「さあ、みんなで最上階に行こうではないか」
「「「「わわーいっ」」」」
子供達がぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
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