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第95話 晩餐バイトの後でお花を貰って打ち上げられる

 スタッフルームでコリンナちゃんと晩餐を試食する。


 もぎゅ……。


「うお、こんなに違うのかっ」

「昨日までも美味しかったけど、別物ねっ」


 私たちの驚愕に、メリサさんがくすりと笑う。


「イルダさんのお料理は凄いんですよ」


 そういえば、新入生歓迎会の時の料理も美味しかったよなあ。

 こんなに違うんだ。


 コリンナちゃんと取り合うように、上級貴族食と下級貴族食を完食した。

 いやあ、満足満足。


 三角巾とエプロンを装備して厨房へ。


「もう、この姿ともお別れか、なんだか寂しいな」

「ほんとね、楽しかったよ」

「お二人には、ずっと居て欲しいのだけれど、お勉強もあるし、駄目よね」


 メリサさんが目を伏せて言う。


「人手が必要な時は声を掛けて下さい、下働きしか出来ませんけどお手伝いしますよ」

「本当にありがとうございます」


 厨房に入ると、イルダさんとクララが揉めていた。


「名月堂ではそうしてきたんですよっ」

「そうかもしれないし、これは凄いパンなのは解る、だけど、料理に調和しないから明日からすこし味を変えてちょうだい」

「質を落とせというのですかっ」

「そうじゃないよ、パンが前に出すぎて料理全体の完成度が落ちちゃうと言ってるの、大丈夫、クララなら出来るわ」

「わかりました……」


 クララは憮然としている。


 すげえなあ。

 プロの料理人すごいわ。

 クララの一流のパンに、料理の全体を見て注文を付けるのかあ。

 半月堂の半端なパンを使って、どんだけイルダさんは悲しかったんだろうなあ。


 通り際、クララの背中をぽんぽんと叩く。


「わかってるよ、マコト、ちょっと悔しかっただけ、明日のパンでイルダさんをぎゅうと言わせるわ」

「さすがクララ、がんばれがんばれ」

「うん」


 私たちのやりとりを見て、パテシィエのレメーさんがにっこり微笑んだ。


 私がカウンター、コリンナちゃんが外で集金という定位置について、晩餐の時間をむかえた。


「最近、食堂のご飯が美味しくてさあ、太りそう」

「ほんとうにねえ、下級貴族食なのに」

「不味くない寮の食堂はおかしいよっ」


 わいわいと好き勝手な事を言いつつお客さんがカウンターに並ぶ。

 今日の下級貴族食は更に違うぜー。

 けけけ。


 今日の下級貴族食のメニューは、チキンカツ、コンソメスープ、黒パン、ミニサラダだ。

 どの食材もヒールを掛けるまでもない、鮮度が高い物だったぜ。

 男子寮食堂に卸している業者さんはやり手だったんだぜ。


「ふわっ、美味しい、さっくさく」

「コンソメがしみる~~」

「黒パンに合うね、いいね~」


 お客様の喜びの声を聞くのが飲食業の醍醐味ですな。


「やあ、マコトちゃん、今日は何~」

「チキンカツですよ、揚げたて」

「おいしそー、良いねえ」

「上級食のデザートはロールケーキかあ、良いなあ」


 ラクロス三勇士先輩方が来てわいわいと騒ぐ。

 甘々先輩はいつも上級食のデザートチェックを欠かさないなあ。


「うまいっ! パリパリッ」

「あー、毎日美味しい物食べられて、マコトちゃんに感謝」

「感謝感謝」


 私を拝むのやめて下さい、先輩方。


 今日はみんな美味しい晩餐を食べるのに一生懸命でトラブルも無く静かであるね。

 上級貴族席にはエステル先輩が出張っているし。

 さすがの命令先輩グループもおとなしく食べているな。


 途中、入場制限を三十分ぐらいして、晩餐時間は終わった。


「マコトさま、コリンナさま、ありがとうございました」


 イルダさんが頭を下げると、食堂スタッフ全員が頭をさげた。

 やめてよー、照れちゃうし。


 拍手と共に、私とコリンナちゃんに花束が贈られた。

 わあ、良い匂い。

 なんだ、ジーンとしちゃうね。


「ありがとうございます」

「本当に、なんと言ってお礼を申し上げれば良いか、あのままでは業者が変えられて、スタッフ一同路頭に迷う所でした。ほんとに……」


 イルダさんが感極まって泣き出した。

 泣かないで。

 私は、イルダさんを抱きしめて、肩をぽんぽんと叩いた。

 そうだね、辛かったね。

 もう、大丈夫だからね。


「失礼しました。本当にありがとうございます、私は聖心教信者ではありましたが熱心な信者ではありませんでした、今回聖女さまの存在をとても近くに感じて、敬虔な気持ちを持ちました。これからは一心に女神さまに帰依いたします」

「ああ、そっちは、あはは、まあ、ほどほどにね」

「なんとお優しい」


 信仰心が深まった人は苦手なんだよ。


 ロッカールームに向かう通路にスタッフさんが並んで、私たちに握手を求めてくる。


「マコトさん、コリンナさん、ありがとうございました、また来て下さいね」

「はい、ジョイアさん、お世話になりました」


 握手握手。

 ジョイアさんの焼き物は火加減が丁度良くて美味しかった。

 ミニステーキの立役者だよねえ。


「マコトさん、コリンナさん、名残惜しいねえ、あんたたちが居なくなると寂しいよ」

「お世話になりました、エドラさん」


 堅く握手。

 握力が強いぞ、さすがずっと鍋を振るスープ番の腕力である。

 エドラさんの明るさに助けられていたよ。


「お給料が途絶えなくて助かったわさ、本当にありがとうね」

「ソレーヌさんも、早く借金が返せると良いですね」

「まったくだよ、でももう少しさ」


 握手握手。

 ソレーヌさんは息子さんが大病をしてお金を借りていたらしい。

 大きい金額だから、返金が途絶えると大変で、心配してたんだな。


「色々刺激になったよ、クララと一緒に菓子パンも作るからさ、今度買っておくれ」

「それは楽しみですよ」


 握手握手。

 メレーさんはにっこり笑った。

 クララとメレーさんが組んで作る菓子パンかあ、美味しそうだね。


「本当にお二人にはお世話になりました、ありがとうございます」

「メリサさんも頑張ってましたよ、こちらこそお世話になりっぱなしで」

「そんな、わたしなんて」


 握手握手。

 メリサさん、泣いてしまっているが、それもよし。

 あなたは頑張ったからね。


 その後、ロッカールームでイルダさんに小さい袋を渡された。

 十万ドランクが入っていた。

 多いと抗議する私とコリンナちゃんに、イルダさんは笑って、ご祝儀も入ってるから受け取ってちょうだいと言った。


 まあ、そう言うならしかたがないな。

 うむ、十万ゲットだぜ。


「コリンナちゃん、メガネを新調だっ!」

「やだっ、五万は家に入れて、五万は貯金だっ!!」


 まったく、堅い女め。


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