第954話 王都に戻ってキンボール家に帰る
さて、王都に帰って来たわけだが。
ヒューイなら城壁を飛び越して王都内に入れるが、それも何なので西門近くに下りて入関するんだぜ。
「お、聖女さんお帰りなさい、はい良いですよ」
門番さんは冒険者ギルドカードをチェックして通してくれた。
「ありがとう……。飛空艇で城壁飛び越しているけど、問題にはなってない?」
「あーー」
西門の門番さんは渋い顔をした。
「時々会議で議題に上がってるけどね、飛空艇の入関組織がもう無いんだわ。昔は時計塔で管制指示をやって、着陸した空港で入管処理をしてたんだけど、飛空艇が少ないからねえ、王家以外ないから良いだろうって事で」
そうか、王都上空の管制組織が解散されたのね。
「なんで、蒼穹の覇者号も王家の飛空艇扱いでお目こぼしって事になってるよ」
「騎獣で飛び越すのは駄目なのね」
「出入りの数が狂っちゃうからね、できれば騎獣の時は門を通ってくださいよ」
「ありがとう、安心したわ」
「これからもよろしくお願いしますよ」
一応、王都交通局の公式見解は聞いておかないとね。
飛空艇は王家あつかいか、しめしめ。
これで出入放題じゃ。
西門から入って環状道路を南に向かって走る。
商業地区が切れると緑が多くなって豪華な屋敷が増えてきた。
貴族地区だね。
《主よ、森に潜ると早く走れる》
(え、潜行するって事?)
《潜った空間には誰もいない、森から森へ抜けられる》
なんだろう、潜行すると高速移動ができるのかな。
面白そうだからやってみるか。
ヒューイの思うままに走らせてみる。
彼は環状路を外れ林の中に分け行ってゆく。
さすが森の魔獣、上手に木々を避ける……。
木々の密度が増えるとブワリと空間が歪んだ感じになり、周りにあった邸宅が消えている。
おお、ここが潜行空間。
影魔物の影空間の森版みたいな感じか。
あっちは閉鎖空間だけど、森空間は現実の空間と位相が違うだけでオープンワールドっぽい。
誰もいない、何も建っていない森の中をヒューイは走って行く。
おお、外の空間よりも早く走ってる感じがするね。
「これは飛んだらどうなるの?」
《空中に木々は無いので浮かび上がる》
位相空間から出てしまうわけだな。
同様に木々の密度が薄くなると浮かび上がってしまいそう。
この森地帯は貴族街から学校の裏手の廃教会を経由して自然公園まで続いているな。
相当なショートカットができそう。
やあ、森の中の疾走は竜馬っぽくて素敵だな。
足場の悪い森の中を鹿のように飛び跳ねながらヒューイは行く。
おろ、後ろのダルシーがいつの間にか居ない。
大丈夫かな、ついてこれてるかな。
位相空間だから無理かな。
木々の隙間から見える道とか池とかで大体の場所が解る。
廃教会のあった場所は空き地になってるね。
竜馬は本当に高性能だなあ。
森の中なら誰にも見つからずに移動できるぞ。
そうか、勇者はこれを使って魔王軍を急襲したりしてたんだな、きっと。
大きな空き地が見えて来た、自然公園だな。
公園内に乗り入れる。
いきなり現れた私たちを見て、公園を散歩していた人達がびっくりしてるね。
自然公園の道をタッタッタと走って行く。
出口から出ると大神殿の練兵場の横だね。
聖騎士さんたちと、カマ吉が私を見つけて手を振ってきた。
私も振り返す。
大神殿まで来ればキンボール家はすぐそこだね。
横町に入ってちょっと行くとキンボール邸到着である。
ああ、よく走ったなあ。
満足満足。
「お帰りなさいませお嬢様、そちらの騎獣は?」
「今日、敵から分捕ったの、厩舎に空きはあるかしら」
「ええ大丈夫ですよ」
キンボール邸のドアがバタンと開いて、ブラッドお義兄様とお養父様が外に出てきた。
「「マコト、なんだそれは」」
「ヒューイというの、私の騎獣よ」
「真っ白な竜馬か、これはすごいなあ」
「素晴らしい、ディラハンの騎獣をテイムしたのかね」
「そうよ」
お養父様とブラッドお義兄様はヒューイの周りをぐるぐるとまわって観察していた。
どうです、良いでしょう。
「あらあら、まあまあ、マコトちゃんお帰りなさい。あたらしいお仲間なのね、まあ、真っ白で綺麗だこと」
「灰色の竜馬に乗った勇者はいたが、真っ白は史上初ではないかな。これは興味深い」
「あら、あなた、マコトちゃんに女神様降臨のお話を聞くんじゃなかったの?」
「お、そうだそうだ、今、守護竜洗礼式での女神降臨事件に関しての話を集めているのだよ、なにしろ前代未聞の事件であるから、記録をまとめて本を出したいのだ」
「ええ、かまいませんよ、お養父様」
「それではとりあえず、式の時に……」
「あなた、中でやりましょうね。マコトちゃん入って入って」
私は家令さんにヒューイの手綱を渡した。
「それじゃヒューイ、また後でね」
《わかった》
今日は一日楽しかったから後でヒューイをブラッシングしてあげよう。
そうしよう。
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