第951話 リューグ隊長とお話の後にお茶を飲む
「ディラハンは何か吐きましたか?」
「いまだ黙秘してますね。とりあえず首実検をして身元は判明しました、マヌエル・ウエストン。ウエストン侯爵家の長男ですね」
「嫡男?」
「いえ、爵位を継ぐのは次男のようで、それに不満を抱えていたという噂です」
私たちはお堀端に寄って、騎乗のままおしゃべりをしている。
「なんでまた、騎乗がすごく上手いのに」
「ええ、騎乗も上手いし、成績も優秀で一流大学を出ています、ウエストン商会の研究施設で研究者をやっていたという事です」
「お妾さんのお子さんなの?」
「いえ、それがですね……、背が小さいから、と言われています」
「は?」
背が小さいというだけで、成績優秀、武道にも優れる息子を正当な跡継ぎにしなかったの?
なんだそれ。
「貴族というのは、見栄っ張りなものなんですよ、聖女さん」
リューグ隊長の子分さんが発言した。
「リオネルの言うとおりなんですよ。侯爵家で隷属の首輪で大もうけしている大貴族の跡継ぎは押し出しの強い大男が良いと、そんな感じみたいです。次男は大男ですね」
「ああ、それで」
「考えて見れば哀れな男ですな」
「それで、一発大手柄を立てようと、古竜のテイムをしようと単身で大陸に渡ってきたようです」
それで一人でホルボス山麓で暴れていたのか。
凄い執念だけど、馬鹿だな。
「アライド王国の仕込みは無かったのね」
「はい、どこの諜報機関のヒモも付いて無いようですね」
まったく小男で運動神経が良いなら競馬の騎手にでもなれよ。
一発大ばくちで人に迷惑を掛けに来るんじゃないわさ。
「しばらくは裏取りですね」
「そうなんだ、アライド王国との対応は王府よね」
「はい、外交交渉は王府が決めますね」
「わかりました、ジェラルドにでも聞くかな。この子は私が乗っていていいのよね」
「はい、いくら恥知らずのウエストン侯爵家でも返せとは言わないでしょう。戦利品としてお使い下さい、というか、良くお似合いですよ」
「真っ白な竜馬って風格がありますよ、聖女さま」
「えへへ、ありがとう。リューグ隊長、リオネルさん」
とりあえずヒューイに乗っていて文句は言われ無さそうだね。
一応、ジェラルドに会ったら確かめてみるか。
リューグ隊長たちと別れて、私はまた王都散歩である。
ああ、なんかこれはサイクリングみたいで楽しいなあ。
遠乗りって奴だ。
(ヒューイ疲れた?)
《全く》
私の騎獣は元気いっぱいのようだね。
馬よりもスタミナがありそうな感じだ。
王都大通りはお堀端を過ぎると、ちょっと細くなり王都環状路と名前を変える。
パタパタとヒューイは道を走っていく。
ちょっと小洒落た喫茶店があったので、ヒューイを止めて下りる。
酒場とか喫茶店の前には馬掛柵があって、そこに手綱を引っかけておいて馬を繋ぐのだ。
ヒューイが隣に行くと馬がびびるけどね。
ここら辺は北の方なので荒くれ冒険者も少ないから大丈夫でしょう。
「いらっしゃいませ」
イケメンマスターが出迎えてくれた。
私はテラス席に座ってヒューイを見ながらお茶を飲む事にした。
いやあ、ヒューイ君は格好いいねえ。
にまにま。
「おまちどうさま」
「ありがとう」
頼んでいた紅茶とケーキが来た。
んー、チーズケーキは美味しい。
この世界は乙女ゲー世界なので、スイーツは完全に前世日本互換であるよ。
リアル中世に転生しなくて良かったなあ。
おいしいおいしい。
はーのんびりするなあ。
ヒューイ君が首を伸ばしてきた。
(ケーキとか食べるの?)
《食べた事ない》
(試しに一口食べたまえ)
私はフォークにチーズケーキを一かけ乗せてヒューイの口に運んだ。
《これは好きかも》
ヒューイの喜びの感情が伝わってきた。
(半分こしよう)
《ありがとう》
私はヒューイにチーズケーキを食べさせ、お茶を飲み、自分も食べたりした。
なんか良い時間だなあ。
一休みしたので元気が出た。
私はお金を払ってお店を出た。
さて、また騎乗じゃ。
私はヒューイに跨がった。
うーん、乗馬服作るかなあ。
制服だとスカートがまくれ上がる危険があるからなあ。
ズボンの方が楽でアル。
本来貴婦人が乗馬するときは横座りの鞍に乗ったりするのだが、私は跨がる方が好きだな。
横座りだととっさの時に危ないしさ。
パタパタパタパタ。
春の王都散歩だねえ。
良い季節だなあ。
日差しがあったかい。
新緑がキラキラしてとても綺麗だなあ。
カロルと一緒に来たかったけど、一人でぱたぱたと騎乗するのも、これはこれで良い感じ。
王都の西側の商家街に入る。
道に商売の小僧さんとかが歩き回って賑やかだね。
問屋さんとか商会とかが軒を連ねていてビジネス街って感じだ。
とっとことっとこ。
西門が見えて来た。
あ、そうだ、ホルボス村に行って、ディラハンが捕まったって知らせるかな。
ヒューイだとどれくらいで着くかとか知りたいしね。
私は西門にヒューイを走らせた。
「お、凄い騎獣だね」
「すごいでしょ、はい、冒険者カード」
「あ、聖女さんか、これはこれは。昨日は凄かったらしいね」
「私もびっくりだったよ」
「そうだろうなあ。はい、確認しました、行ってらっしゃい」
「ありがとう」
私は西門をくぐった。
(さあ、ホルボス山まで飛ぶよ、ヒューイ)
《解った》
ヒューイはバサリと羽を展開した。
よしよし。
良い感じ。
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