第950話 ハゲと騎士学生は当然のように妄言を連ねる
「たかだかパン屋の娘風情がなにゆえ勇者の証とも言うべき竜馬に乗っているのだ!! おかしいでは無いかっ!! どんなイカサマで手に入れたのだっ!!」
「午前中にディラハンをやっつけてテイムしたんだよ」
何を難癖つけてやがるのだこのハゲは。
「それならば王家に献上すべきではないかっ! 貴様は聖女なのだから後衛任務であろうっ、竜馬なぞ必要が無いっ!!」
あ、ダルシーが姿を現した。
これは怒っているな。
「そうですよね、真っ白な竜馬などという素晴らしい騎獣はフランソワ近衛騎士団長がお似合いです。聖女さんは少し思い上がっているんじゃないですか」
ペガサスにのった学生騎士っぽい奴が揶揄するように言った。
「わ、私はそんな名誉はいただけぬ、ケ、ケビン王子がお似合いであろう、各国の首脳をお迎えするのに、この真っ白な竜馬はふさわしいと思う」
「ああ、フランソワ団長はなんて奥ゆかしいのですか、あなたこそ英雄です」
「そ、そんなに褒めてはいかんぞ、エドガール部長」
ハゲが見え見えのおべんちゃらを言われて照れてやがる。
「そうだ、僕は良い事を思いつきましたよ。夏のレースで我々騎士学校騎獣部と魔法学園の騎獣部がこの白い竜馬を賭けて勝負をするんです。僕らが勝ったら竜馬をフランソワ団長に譲る事で、どうでしょう」
さすがに聞いてられないので乱暴をすることにした。
「ヒューイキック!」
ドガシッ!
「ぎゃあっ!」
エドガールの馬鹿はヒューイの前足キックでふっとんで落馬した。
古式テイムなんで自分が蹴りをくれる感覚でキックを打てるぞ。
「なんで、所属してない魔法学園の騎獣部との勝負に私の騎獣が賭けられるんだよ、ふざけんなっ」
「き、きさまあっ!! 未来の近衛騎士に騎獣蹴りをするとは!」
「部長大丈夫ですかっ!」
「魔法学園だからって良い気になりやがってっ!」
「謝れ、女っ!!」
「マコト様、一人残らず普通に殺して良いですか」
「ダルシー殺しはだめ」
ダルシーはがっかりした顔をした。
「フランソワ団長、この失礼な馬鹿どもは何?」
「私が顧問をやっている、騎士学校の騎乗部の生徒達だよ。なにしろ優秀でねえ、去年は騎乗レースの全国大会優勝を勝ち取ったのさ」
こいつらがパスカルの馬鹿の言っていた騎士学校の騎乗部か。
ほぼ全員がペガサスに乗ってるなあ。
「なんでみんなペガサス乗ってるんだ?」
「ふふっ、解って無いな、騎士学校で優秀な成績を上げれば将来は近衛騎士団ペガサス部隊入りが確定してるのさ、だからお金に余裕のある高位貴族は騎士学校に行くんだ」
ああなるほど。
武力のC組みたいな感じになってるのか。
社交の苦手な高位貴族の子息は騎士学校に行ったりするんだな。
「いくら聖女聖女と言っても元はパン屋の娘だろうっ、俺たちは騙されないぞっ!」
「女神さまを呼んだって評判だが、あれは守護竜アダベルさまのお陰で、お前は何もしてないんだろうっ!!」
《主よ、ファイヤーブレスの許可を》
(炎吐いちゃ駄目っ)
こいつらは何と言う不愉快な騎乗部なのか。
ぶっころしてえ。
だが、まあ暴力では何も解決しないな。
レースかあ。
レースに出てこいつらをコテンパンにして、ハゲにざまあしたら痛快だろうなあ。
いや。
いやいやいや。
これはイベントの罠だ。
このイベントを知らないけど、きっとファンディスクかなんかのレースミニゲームシナリオか何かであろう。
「ふん、何の興味もございませんことよ」
「へへっ、怖いのかよお、パン屋っ!!」
「なにおうっ!!」
あ、いかん、ついついカッとしてヒューイを動かして体当たりをしてしまった。
バタバタとペガサス達が倒れ込む。
「大体、隷属の首輪はどうしたっ! テイムしていない魔物を王都内に入れるのは法律違反だぞっ!」
「古式テイムしているわいっ、鑑札も付けておろうがっ!」
「古式テイムだ、そんな古くさい技術で、近代騎乗レースに出れるとでも思ってるのかよっ!」
「そうだそうだっ、生意気だぞっ、平民聖女っ!」
ダルシーが騎乗部部員の暴言にかっとなって、ペガサスの頬桁をドカンドカンと殴った。
ペガサスは哀れっぽくいなないて騎手もろとも路上にドタンと倒れた。
「聖女様を馬鹿にしたやつは殺すっ」
ぐおー、なんだか事態が混沌としてきおった。
ダルシーは鎌倉武士かよー。
一触即発、大げんか、という所に、灰色の甲冑を着込んだ騎士が二騎割り込んできた。
「なにをやっているんですか、聖女さま」
「リューグ隊長!」
最近よく会う警備騎士団のリューグ隊長と子分の騎士さんだな。
「近衛のフランソワ団長に、聖女候補が竜馬とか生意気だから王家に献上しろと難癖を付けられていまして」
「そ、そんな事は言っていないっ! でたらめを言うなっ!」
リューグ隊長は冷たい目でハゲを見た。
「それはディラハンの竜馬ですか、凄いですね」
「え、色が違いますよ隊長」
「テイムしたら色が変わったんですよ」
「テイムしたんなら仕方が無いですね」
そう言ってリューグ隊長は笑った。
「くそっ、警備の半端騎士どもめっ、覚えていろっ!! みな、帰るぞ」
「「「「「はいっ、フランソワ団長!」」」」」
ハゲは態度悪い騎士学生どもを連れて去って行った。
私はあかんべをしてハゲを見送った。
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