第946話 ヒューイは子供達にたかられる
子供というのは馬とかが大好きである。
さらにドラゴンも大好きである。
竜馬のヒューイは子供達に大人気というわけである。
「うわあ、格好いい、真っ白、すべすべー」
「すごいすごい、大きい、綺麗~」
「これは立派な竜馬だなあ」
「乗ってもいい? マコねえ」
「いいよー」
「これ、にゃーりんだよヒューイちゃん」
《……》
子供達にたかられて、ヒューイがとても困っている気持ちが伝わる。
ごめんねえ、ちょっと我慢してね、すぐ飽きるから。
子供達はヒューイの上に鈴なりになって登ったり抱きついたりしていた。
ティルダ王女が乗りたそうにしていたので抱き上げて鞍にのせてあげた。
「ありがとう聖女さま!」
「いいなあティルダ」
トール王子はうらやましがりながらも、彼の蹴爪とかを観察している。
首のカーバンクルのトミーも興味深そうにヒューイを見ていた。
大神殿に繋がる階段をゴブ蔵とカマ吉が下りてきた。
「これはこれは聖女さま、お帰りなさい」
「きゅきゅー」
「こんにちは、ゴブ蔵、カマ吉、この子ヒューイよ、貴方たちの仲間よ」
「おお、これは素晴らしい竜馬ですな。ダンジョンでもこのように立派な者は見た事がございません」
「ガドラガにも竜馬はいるの?」
「相当深部になりますが、少数おりました。ですがここまで立派ではありませんでしたなあ」
ゴブ蔵は神父の服を着てイケボで語るので、なんだかお爺ちゃんのベテラン神父さんみたいでおかしい。
カマ吉がヒューイの前で頭を下げた。
ヒューイもカマ吉に向けて頭を下げる。
うんうん、従魔同士だから仲良くしてね。
「アダちゃんはまだ来ないの?」
「お葬式から帰って着替えてくるから、もうちょっと掛かるかもね」
「喪服のアダベル親分は見たかったなあ」
「よく似合っていたわよ」
アダベル親分は村の子供から慕われているな。
カリスマ親分だ。
「お、すげえのが来たな」
「綺麗な竜馬だ」
五本指のクヌートとブルーノが階段を下りてきた。
「こんちは、クヌート、ブルーノ」
「おう、聖女さん、今度は竜馬か、すげえなあ」
「立派な騎獣だ」
クヌートはテイマー教室で点数を稼いだから子供がわあっと寄ってきた。
ちびっこ人気があるな。
ブルーノは剣を振りにきたらしく、聖騎士の人に声をかけて乱取りを始めた。
ミリヤムさんは魔法塔かな?
「そういや、ディラハンの中の奴が人間で、ウエストン侯爵家の奴らしくてさ」
「え? どんな状況だ?」
クヌートがヒューイを撫でる手を止めて振り返った。
私は手短に今日の顛末をクヌートに語った。
「そりゃすげえなあ、ウエストン侯爵家だったか」
「なんか、古式テイムを駆逐したはずって、言ってたけど?」
「おう、ウエストン商会の隷属の首輪が流行って古式テイムは失伝しかけたぜ」
やっぱりそうか。
技術が要る古式テイムより、誰でも簡単にテイムできる隷属の首輪の方が楽だもんな。
「クヌートが伝統を守ったんだなあ」
私の言葉を聞いてクヌートが変な顔をした。
「元々古式テイムってのは勇者のテイミング技術から来てるからよ、聖女さんが使えるなら伝統は復活するんだぜ」
「あ、光魔法テイミングが元なの?」
「そうだよ、勇者のテイムを解析して応用したのが古式テイミングだぜ」
そうだったのか。
まあ、クヌートと戦わなかったら閃かなかったかもだし、巡り合わせってあるよなあ。
「クヌートも古式テイムの道場とかやったら?」
「あはは、弟子を取るのか、そりゃいいなあ」
「おいちゃん、わたしが一番弟子になるー」
にゃーりんを抱いてちびっ子が目をキラキラさせてクヌートに言った。
「そうかそうか、うん、お前は一番弟子だ」
「おれもおれも」
「ぼくもぼくも」
「わたしもわたしもー」
「そうかそうか」
子供に取り巻かれてクヌートは嬉しそうな顔をした。
ふふ、いつか王都で古式テイムが復活したらいいな。
「きたぞ守護竜さまだー!」
アダベルが人の姿で羽を生やして飛びこんできた。
「アダちゃん!」
「おやびんっ!」
子供たちがわっと着地したアダベルの元に駈け寄った。
むらっ気よね、子供って。
「ごはんですよ~」
孤児院の女官さんが、お昼をしらせに来た。
「うおっ、丁度良い食べる食べる」
「マコねえちゃん、一緒に食べようようっ」
「学園でこの子を厩舎に入れるから帰るよ」
「え~~」
「え~~」
「またね、みんな」
私はヒューイに跨がりカロルを引き上げた。
「ありがと、マコト」
「なんのなんの」
ポックリポックリと王都大通りを学園に向けて歩かせる。
「ヒューイは大人しいわね」
「お利口さんだ」
《ありがとう》
ヒューイの褒められて嬉しいの気持ちが伝わって来た。
道行く人がヒューイを見て目を丸くしている。
いやあ、竜馬は目立つなあ。
ひよこ堂前で列整理をしているクリフ兄ちゃんに手を振った。
「……なんでマコトは毎日のように違う生き物に乗ってるんだ」
「たまたまよ、この子はヒューイよ」
「こんにちは、クリフお兄さん」
「これはこれはオルブライトのお嬢さん、良い天気ですね」
カロルに挨拶しながらクリフ兄ちゃんはヒューイの鼻面を撫でた。
「これはでっかくて綺麗な騎獣だなあ、すごいや。マコトをよろしくなヒューイ」
ヒューイはブルルと唸って答えた。
なんかほっこりした。
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