第942話 サロート教会でお葬式が始まる
学生で一杯になったサロート教会でお葬式が始まる。
一番前に綺麗な棺が置かれ花で飾られていた。
司祭さんが前に出て、開会の挨拶をする。
「皆様、このたびは天に召された、ケーナ嬢のお葬式へのご参列ありがとうございます。彼女は先日、業務の途中でその命を失いました。若すぎる悲劇、人生はこれからなのにという思いもある事でしょう、ですが、女神さまは時に心正しい者を選ばれて天に召される事がございます。心静かにケーナ嬢の魂が光の空へと達するよう、我々の心からの祈りで送りだしてあげましょう」
うん、良く通る声の初老の司祭さんでいい感じ。
教会自体も貴族街にあるからか、広くて綺麗だな。
ケーナさんは子爵家の三女さんだったらしい。
実直そうなお父さんとお兄さん、お姉さんが前列にならんでいる。
厳かな感じで式は進んでいく。
参列者は皆、教会の入り口で、お花を一輪貰う。
順番に立ち上がり、棺の前に献花していく。
私の番が来た。
立ち上がり前に出て、台にお花を置き、一礼する。
「ありがとうございます、聖女さま」
「ケーナさんは立派な護衛女騎士でした、皆、姉のようにしたっていましたよ」
「勿体ないお言葉です」
お父さんは感極まったのか、ハンカチで涙をぬぐった。
ゆっくりと席に戻る。
お葬式は、もの悲しいね。
献花が終わると皆で起立して賛美歌を歌う。
女神さまへの賛歌だね。
私は歌い慣れてるので上手い。
コリンナちゃん、音程はずすなー。
シスターが聖なるお菓子を配って歩く。
カソリックの聖餅みたいな物でハンカチで受け取って、後で食べる。
まあ、そんなに美味しい物では無いけどね。
お父さんが前に出て、スピーチをする。
娘が魔法学園を優秀な成績で卒業した事、後輩を見守りたいと護衛女騎士に就職を決めた事、親としては早く結婚をして孫の顔が見たかったのだがこんな事になってとても悲しい事、でもこれも女神さまの思し召しなので笑って光の空に送りだしたい、と言ってスピーチを結んだ。
ああ、悲しいよねえ。
可愛くて優しそうな人だったから。
本当に残念だと思う。
即死じゃ無かったらなあ。
私がもうちょっとなあ……。
表情に出ていたのか、カロルが優しく肩に手を置いてくれた。
ありがとう。
棺が家族によって教会を出た。
馬車に乗って、王都北門を出て王立墓地へと向かう。
さて、私たちも向かおう。
「なあなあ、マコト、これ食っていいの?」
アダベルがハンカチに包まれた、聖なるお菓子を見せてきた。
「持って帰って、お家で食べるものよ」
「そうかー、美味い?」
「ん~~~」
話を聞いていた参列者の皆が一斉に微妙な顔をした。
「た、食べなきゃだめ?」
「駄目、そういうものだから」
「わ、解った、私は守護竜だから食べる」
うん、偉いぞ守護竜。
しかし、美味しい聖なるお菓子革命を起こすべきだろうか。
こういうのは伝統だからなあ。
たしか材料からレシピまで決まっていたはず。
前世の田舎で巨大葬式饅頭が出るのと一緒だな。
それぞれの馬車に乗って北門を目指す。
車窓を流れる北側の風景はなんとなくもの悲しいね。
『塔』の前を通り過ぎた。
グレイブの奴は処刑されてないんだよなあ。
『塔』の地下にまだいるのかな。
まあ、酷い目にあってそうで考えたくないな。
北門の通行はノーチェックだ。
というか、サロート教会からリストが行ってるはず。
馬車は止まらないで王都を出た。
北門を抜けると一面の墓地である。
とんでもなく広い。
葬列の馬車たちは静かに埋葬地を目指す。
北の墓地は王都ができた時からここにあり、年々ひろがっていく。
古いお墓は取り壊されて遺骨は地下納骨堂に納められる。
大体百年ぐらいだね。
王家の墓と有名人の墓は壊されないで残っている。
埋葬地に着いたので馬車から降りる。
王都の外は風がふいていて少々寒いね。
ケーナさんの棺は馬車から降ろされ墓穴近くまで運ばれた。
墓穴はすでに掘ってあり、土が小山になっていた。
掘るのに土魔法は使わない、墓掘り人夫さんがスコップを使っての手掘りであるよ。
ロープを使って棺がゆっくりと墓穴へ入っていく。
ああ、この瞬間がなんか嫌よね。
悲しさMAXな感じがする。
棺は底に着き人夫さんがスコップで土をかけていく。
司祭さんはずっとお祈りの聖句を唱えている。
みながお墓に向けて合掌していた。
「光の空に祝福を」
皆が復唱して、人夫さんが墓石を立ててお葬式は終了した。
はあ、しみじみと悲しいな。
「人が死ぬと大変なんだな」
「そうよ、こうやって故人の思い出を送りだしてあげるの」
「そうか……」
アダベルはなんか悲しそうな顔をした。
そうだね、あなたはこれから沢山の人を空に見送っていくんだろうね。
ん?
私は変な感触を後ろ頭に感じて振り返った。
遠くに王都の壁が見える。
王都の壁を飛び越えて、黒い馬に乗った騎士が飛び降りてきた。
「ディラハン!!」
そうか、王都の壁は中から出るのは自由なのか!
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