第939話 王都に急行し切り返してカメオ村に戻りまた帰る
「領袖、とても価値のある牧場を紹介してもらった、感謝する」
「いいんですよ、閣下。気に入って貰えて何よりです」
フィルマン父さんはアップルトン食肉協会のお偉いさんだからなあ。
これからダシャ婆ちゃんは精霊の贈り物チートでアップルトンの食肉業界のトップを目指すのじゃ。
フィルマン父さんとも話し合い、護衛のブロウライト騎士さんを一人牧場に残すこととした。
あれよ望外の幸運を得た人にはやっかみで馬鹿な真似をする村長が出かねないからね。
愚かな人は先の事を考えたり、損得の勘定とかもできなくなるのだ。
村のゴロツキとかと一緒に攻めて来て、牧場焼き討ちとかされたら目も当てられない。
とりあえず、騎士さんを一人置いておいて、地獄谷でローランさんを拾う。
んで、大神殿で子供たちを下ろして聖騎士さんを三人ばかり積んで、牧場まで運ぶ。
という感じだよ。
騎士が五人いれば村人全員が暴動になっても何とかなるでしょ。
平民と騎士だと戦闘力がまったく違うしね。
「さあ、みんな蒼穹の覇者号に乗りなさい」
「「「「はーいっ」」」」
子供達がぞろぞろとタラップを上がって行く。
「本当になんてお礼を言っていいか、ありがとうございます。聖女さん、アダベルさん」
「良いのよ、私もダシャ婆ちゃんのお肉が人気になれば嬉しいし」
「なんというありがたいお言葉」
お孫さんは目尻に涙を浮かべた。
「じゃあ、騎士さんたちを積んだらまた帰ってきますから」
「お世話をかけるわね、聖女さま」
「いいのよ」
「婆っちゃ、またくるー」
「はい、待っているわよ、アダベルちゃん」
ダシャ婆ちゃんは抱きついてきたアダベルをぎゅっと抱き返した。
手を振りながらタラップを上がり、メイン操縦室に入る。
「さてさて、ホルボス山にいこー」
「ローランさんは地獄谷にいるのね」
「はい、オルブライトさま」
「凄腕諜報員が居れば、あの村長の秘め事は全部でるな」
「確実」
ディスプレイに映る婆ちゃんたちを見ながら蒼穹の覇者号を離陸させた。
出力を上げてかっ飛ばす。
地図上で見ると偽スペインに向かう街道沿いの山奥村なんだな。
なんであんな所に村を作ったかな。
王都が戦場になった時の後方補給村なのかね?
前方にホルボス山の独特の姿が見えてきた。
高度を上げて山を飛び越すようにして地獄谷へ。
硫黄掘り帰りのおっちゃん達が飛空艇を見上げて手を振っていた。
着陸!
子供達が出ようとするので、ダルシーに止めてもらい、タラップを駆け下りる。
「御領主様、お帰りなさいませ」
地獄谷のお世話役のヘイスさんが出迎えてくれた。
「ローランさんは居るかしら」
「食堂の方に居ましたね」
「ちょっと借りていくわよ」
「え、ええ、かまいませんが」
食堂のドアを開けてローランさんがこちらに来た。
「お呼びですか聖女さま」
「山奥の牧場を護衛するために行って欲しいの」
「解りました、詳しい話は船の中で?」
「私が説明する」
ハッチからリンダさんが半身乗り出して声を掛けてきた。
「了解です」
後ろから押す勢いで船内に入る。
「それじゃ、またね、ヘイスさん」
「いってらっしゃいませ、御領主さま」
私はメイン操縦室に入り、艇長席によじ登る。
後ろでアダベルがジャーキーの包みを開けてくちゃくちゃ噛んでいた。
リンダさんがローランさんに事の顛末を教えていた。
「その村長の秘め事を暴き出せばいいんですね」
「村道の通行料とかも調べてきてください」
「わかったよ、コリンナさん」
山頂を下に見るまで上昇し、機首を王都に向けて前進、次は大神殿だ。
王都内に進入し、大神殿の練兵場に着陸した。
リンダさんがタラップを下りて神殿へ走っていった。
「えー、もう終わりなの?」
「もっと飛空艇乗っていたいー」
「だーめ、終了です終了」
不満顔の孤児達や村の三馬鹿、トール王子とティルダ王女を下ろす。
子供達は孤児院方向へ走っていった。
「親父はどうする?」
火器管制席に座ったカーチス兄ちゃんがフィルマン父さんに声をかけた。
「ふむ、タウンハウスに寄ってくれ、騎士を二名ほど追加しよう」
「そうだな、それが良い」
アダベルもメイン操縦室に残ってもしゃもしゃジャーキーを食べていた。
「あんたも行くの?」
「行く、なぜならあそこは守護竜御用達の牧場だから」
まあ、間違ってはいないが。
「ローランも食え」
「お、ありがとうございます守護竜さま」
「うむ」
「わ、これ、美味いですねっ」
「そうだろうそうだろう」
なんだかアダベルが誇らしげである。
リンダさんが騎士と馬を連れてきたので、後部ハッチを開けてあげた。
そうか、馬があると機動力がつかえるよね。
馬を船に入れて、三人が上がって来た。
エイダさんに言って後部ハッチを閉める。
「お待たせしました」
「「聖女さま、御任務光栄でありますっ」」
ビシッと二人の聖騎士が敬礼をした。
「おまえら、これ食べてみ、美味いから」
「くえくえー」
「おお、これは美味しい」
「これから向かう護衛の牧場の産でありましょうや?」
「そうだって、燃えるねえ」
「これは素晴らしい」
騎士達もジャーキーが気に入ったようだ。
その後、ブロウライトのタウンハウスでフィルマン父さんを下ろし、騎士を二名乗せた。
フィルマン父さんは早速食肉協会に働きかけをしてくれるそうだ。
やっぱり素早いねえ。
その後、蒼穹の覇者号は守護竜牧場に直行し、ローランさんと騎士さんたちを下ろした。
なんだか、婆ちゃんもお孫さん夫婦も、私たちを見るとジャーキーとか、肉とか、チーズとかをくれるので、嬉しいけど困る。
困るけど美味しいのでつい食べてしまう。
もぎゅもぎゅ。
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