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第938話 その名は守護竜牧場

「婆っちゃ、この牧場の名前は?」

「特に無いわねえ」

「村ではダシャ婆ちゃんの牧場と呼ばれていますよアダベルさま」


 お孫さんがアダベルに教えた。


「そうかあ、もっと格好いい名前に変えようよ」

「おほほ、アダベルちゃんが付けてくれるの?」

「そうだなー、うーん、そうだ、守護竜牧場はどうかなっ」


 お、アダベルのくせに良い名前だな。


「まあ、それは良い名前ね」

「うむ、覚えやすいなアダベルよ」

「そうだろそうだろ、カーチスの父ちゃん」


 私は収納袋から羊皮紙とペンを出した。

 定規を使ってと。

 ヨシ!


「はい、マークはこんなのでどう?」

「うわあ、格好いいですよ、聖女さまっ」

「マコトは素早いな」


 コリンナちゃんが感心したように言った。


「守護竜牧場にふさわしいマークね」


 そうだろうそうだろうカロル。

 マークは六角形の枠の中に、アダベルをイメージしたドラゴンを入れて、守護竜牧場と書いた。

 良い出来だ。


「よし、アップルトン食肉協会は新しいブランドの守護竜牧場を全力でバックアップするぞ」

「まあ、恐れ入ります、ブロウライトさま」

「必ずや守護竜牧場は王宮御用達となろう、そして、この地方の新しい名物となる事だろう」

「晴れがましくて怖いぐらいですわ」


 フィルマン父さんはニヤリと笑った。


「もしもよければ、なぜこのような深い味わいの牛肉を育てられるのか、秘密を知りたいのだが」

「そうですわね、村の人間には秘密でしたのですが、閣下と聖女様、アダベルちゃんには教えても良いかもしれませんね」


 ダシャ婆ちゃんはいたずらっぽく笑った。


 私たちはダシャ婆ちゃんに案内されて、森の奥に進んだ。

 牧場からちょっと入った所が急に開けて、綺麗な泉が湧いていた。


「ここはうちの牧場の敷地ですの、ここの水を飲んで、この水で育った牧草で大きくなって、それであんなに美味しくなるのですわ」

「ほう」

「フィーネちゃん、出てらっしゃい」

『は~~い~~』


 泉の中から眠そうな精霊がポチャリと顔を出した。


「なんと、ウンディーネか、精霊の贈り物だったのか」

「はい閣下。あれはアダベルちゃんが初めて牧場に来る前の事だったかしら、森の中で弱っているフィーネちゃんを見つけて、良かったらうちの泉に住む? と聞いたんですの」

『ここの泉は居心地がいいの~、お婆ちゃんは優しいし、美味しい供物をくれるの~~』


 うおおお、ファンタジープロジェクトX!

 それで、ダシャ婆ちゃんの牧場だけお肉が美味しくなったのか。


 生産物の産地に精霊が付くと超高品質の製品が得られるというのはよく知られている。

 たしかアンドレア領にも精霊付きのワイナリーがあったはず。


「おお、精霊、おまえ綺麗だな」

『わあ、ドラゴン、私と同じ属性……、ちょっとちがうかなあ~』

「私は水と聖属性のダブル持ちだから、ちょっと違うが、仲間だ~」

『仲間~~』


 エルマーが棒をもって前に出てきた。


「精霊……、研究したい……」

「だめよエルマー」

「しかしカロル……」


 というか、エルマーよ、人の家の大事な精霊を研究しようとするない。


「なるほど、これは秘密な訳だ」

「はい、心ない人は村にも居ますからね」


 村長あたりが知ったら泉を埋めかねないからなあ。

 だからダシャ婆ちゃんは誰にも言わなかったのか。


「とりあえず、守護竜牧場の品質の秘訣は秘密にしておいた方が良いな」

「そうですわね。こういう事は知っている人が少ない方が良いですわ」


 泉から牧場に戻ってくると、村長が神父さんを連れてやってきた。


「さあ、さあ、ゴワイド神父、あいつらが偽物の聖女と聖騎士隊長と告発してくれいっ」

「ははは、そうですな、こんな山奥に……、ややっ、あれは蒼穹の覇者号! 今月の聖心月報で特集していました。や、ややややや、これはこれは聖女さま、なんという女神のお導きか、ご尊顔を拝したてまつり、恐悦至極にございますぞっ」

「えっ、本物なの?」

「あたりまえです、あの美貌、まごうこと無く聖女さまですぞ、村長殿、頭が高い」


 あはは。


「今日はお忍びなので騒がないでくださいね。こちらは大神殿の守護竜となったアダベルです」

「こんちゃー、神父さん」

「は、ははーっ! 守護竜さままで、なんという望外の喜びでしょうか。女神様のお導きです」


 神父さんはひざまずいてお祈りを始めた。

 村長さんはまた泣きながら村の方に走っていった。

 リンダさんが神父さんに村の事情を聞いている。


「ええ、村長一族のダシャお婆ちゃん一家への風当たりはとても強かったですねえ。代官さまにもお金を握らせていたようですし」


 なんというか、村長はやぶ蛇だな。


 フィルマン父さんは母屋に入ってお孫さん達と今後の事について打ち合わせをしている。

 子供達は牧場を駆け回って遊んでいるね。


 私たちは庭のテーブルに座って、ダルシーが入れてくれたお茶を飲んでいた。


「お嫁さんが作った、バタークッキーだそうな」

「うっは、バターが凄いねえ、おいしい」

「守護竜牧場も良い所ね」


 カロルがあたりを見回しながら言った。


「近場にダンジョンは無いのか」

「無い……」


 カーチス兄ちゃんはダンジョンアタックばっかりだなあ。


「昨日はみんなでダンジョン行ってきたの?」

「行ってきたが、浅いダンジョンでつまらなかったぞ」

「もう少し……、深い所に……、行きたい……」

「今度、ゴブ蔵を貸してくれ」

「良いよ、カマ吉は?」

「前衛は余っているからなあ」


 そりゃまあそうだね。

 カーチス兄ちゃん、エルザさん、コイシちゃん、カトレアさんの四枚前衛ではカマ吉が入る余地がないか。

 中衛と斥候系が欲しい所だね。


「こんどコウナゴも来い、射手アーチャーは居ると便利だ」

「いやでーす」


 コリンナちゃんの無愛想な返事にカロルはクスクス笑った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新ブランド確立!!٩( 'ω' )و [一言] 王領だしフィルマンさんとローランさんいろいろがんばれ〜!!٩( 'ω' )و コリンナちゃん、最近走ってる? アーチャーの訓練してる?
[気になる点] コリンナちゃんのダンジョンアタックは、たぶんマコト、カロル、コリンナの三人(+α)となると予想。 なお、+αはマコト(ダルシー、カマ吉)カロル(アンヌ、チェーン君)更に勝手について来そ…
[一言] ここまで来たら村長もヤケクソで攻撃に出るしかないか? 上様がこんな所に来られるわけがなーい!ってか。 爆発四散するといいよ。
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