第931話 呼んでない女神さんが洗礼式で大暴れ
女神さまは手を広げ、歌を歌った。
はっと気が付いた監督が聖歌隊に合図をふる。
聖歌隊が女神様の歌に合わせて聖歌を歌い始めた。
わああああっ!
神々しすぎるぞっ!!
何と言う歌声かっ!!
女神さまの生歌なんて、めったに聞けねえっ!!
『告げる、青竜アダベルトは、聖氷竜アダベルに生まれ変わりなさい。ゴブ蔵はホーリーゴブリンに、カマ吉はホーリーマンティスに、生まれ変わりなさい』
女神様が手を振ると、大量の光の粒の波がアダベルを、ゴブ蔵を、カマ吉を包み込んだ。
みるみるうちにアダベルの真っ青な鱗が白く変わっていき、氷山を思わせる青白色に変わる。
ゴブ蔵の緑色の肌が乳白色の肌に変わり、髪の毛が青白色に変化した。
カマ吉の緑の体色が青ざめていき、やや青い白と変わった。
『貴方たちは女神の僕として地上で神の栄光を示すのです』
アダベルが空に向けて轟々(ごうごう)と吠えた。
『われは聖氷竜アダベル! 女神の僕として聖女を守り、大神殿を守護し、王都を警護する事をここに約束するっ!!』
ぐわー、本物のクラスチェンジをしおったぞっ!!
存在の格が上がりおったっ!!
「ああ、女神よ、矮小な魔物の身に信じられぬほどのご加護をありがとうございます、私は一心不乱に信仰に全力をつくしたく思います」
ゴブ蔵がテラ子安声で宣言した。
「きゅきゅ~い」
カマ吉はカマを振り上げて、僕もがんばるよ、という感じのポーズを取った。
『この洗礼式に集まっていただいた善男善女の皆様に祝福を! あなた方に喜びと幸せが訪れますように! 光の空に祝福を!』
女神さまは祈りの言葉と共に手を振る。
コロシアム全体に光の粒が桜吹雪のように降り注いだ。
「「「「「「「光の空に祝福を!!!!」」」」」」
コロシアムの全ての存在がひざまづき、女神さまに感謝の祈りを捧げた。
女神様は満足そうにうなずいた。
『それじゃあ、またどこかでね、マコト』
女神様は小声で私にそう言うとふわりと消えた。
ハアハアハア。
び、びっくりした。
会場はシンとして音がまったく無くなった。
そして爆発するような大歓声、絶叫される女神コール!
アダベルコール! 聖女マコトコールが鳴り響いた。
案の定、リンダさんは歓喜の涙を流していたな。
教皇様がゆっくりゆっくり台の上に上がってきた。
「みなさま……」
観客は静まりかえる。
「奇跡です。千年ぶりの女神様のご降臨です。新しい王都の仲間である聖氷竜アダベルと、聖ゴブリンゴブ蔵、聖獣カマ吉に、ありったけの感謝と祝福を! そして女神のご降臨を成し遂げた奇跡の聖女マコトに拍手と、感謝を」
観客席は沸騰した。
なにしろ女神さまご降臨である。
というか千年ぶりなのか、それはすげえ。
教皇様は一礼して台上から下りていく。
「アダベル、ゴブ蔵とカマ吉を連れてこっちに上がってらっしゃいな」
『うむ』
アダベルはドロンと煙の中で人化した。
カマ吉がアダベルとゴブ蔵をカマですくい取って背中にのせて台の上まで飛んで来た。
「すごかったな、女神、初めてみたぞ」
「すごかったねえ」
「素晴らしいお姿でした」
「きゅっきゅーい」
アダベルの真っ青だった髪の毛は青白色に変わっていた。
なんとなく、さらに美少女になった感じもあるな。
いや、最初から超絶美少女だったんだけどさ。
貴賓席で王様が立ち上がった。
私たちは正対してお言葉を待つ。
「なんとまあ、素晴らしい物を見せてもらったのう。よもや生きているうちに女神様とお目もじできようとは思わなんだ」
ロイヤルファミリーもなんだかニコニコしている。
「聖氷竜アダベル殿、王都と大神殿と聖女の守護竜就任おめでとう、アップルトン王家としてとても喜ばしい事である」
王様はジェラルド父から巻物を受け取りそれを開いた。
「この吉事を記念して、聖氷竜アダベル殿の王都市民権を発行する。そして、ダドリー伯爵家との養子縁組を正式に許可する」
ダドリー伯爵家とういうのは学園長の家だね。
これで王都にアダベルの居場所ができたのだな。
「ええと、ありがたく、ちょうだいいたします」
そういうとアダベルはぺこりと頭を下げた。
万雷の拍手がコロシアムを包み込む。
続いて王都守護竜としての年給額がジェラルド父から発表された。
年間五百万ドランクとの事。
結構な高給取りになるな。
本当は年俸五千万ドランクとか言ってたのだが、学園長が下げさせたらしい。
竜は凄いが、そんなに予算を使ってはいかん、だそうだ。
領地も、爵位も断ったとの事。
どうしてと聞いたら、アダベルは寿命が長いので、あまりアップルトン王国に縛り付けるのは心苦しいとか言っていた。
そうだね、今は良いけど、私たちがみんな死んでしまったらアダベルの自由にしてあげたいよね。
人間の世界に入った古竜は結構いるのだが、どうも古竜という事を隠して国から国へ旅をしている竜が多いらしい。
ここらへんは寿命が長いエルフや、不死の吸血鬼なんかもそうらしい。
人間は好きだが、国家は嫌い、というのが長命種の普通らしいね。
ファンタジー世界はいろいろと面倒臭い事が多いのだ。
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