第930話 アダベルの洗礼式が始まる
私は聖騎士団を引き連れてコロシアムの中に入る。
地面は硬い土だな。
大昔はこの場所で剣闘士の決闘とか、魔物対剣闘士とかの血生臭い行事をやっていたのだけれど、最近はスポーツとか演劇の場所となっているな。
真ん中に据えられた台の上へ階段を上っていく。
観客は静まりかえって私をみている。
まだ楽曲はないね。
台の上の机にはきらびやかな聖典ときらびやかな水壺が置いてある。
私は聖典を取り上げ頭上にかざす。
「これより、青竜アダベルトの洗礼式をおこないます」
大声で宣言する。
声は魔導具でコロシアム全体に響き渡る。
突き当たりのゲートからアダベルが歩いて来た。
緊張してないわね、にこやかに手とかふってるぞ。
そして、地面の白線まで来るとくるりとトンボを切ってドラゴンに変身した。
「おお~~、なんと立派な……」
「素晴らしく綺麗な竜ですわ……」
感嘆のざわめきが潮騒のようにコロシアムを包み込む。
アダベルは神妙な顔で頭をこちらに向けた。
「聞け、我が子たちよ、これは、私、女神の言葉である。世界に子たちが産声を上げ、世界に向けて歩き出す、これは自然の営みであり、私がつかさどる命の奇跡である」
うお? なんだか神聖魔力の吹き上がりがいいぞ。
なんだこれ?
聖句を唱えるたびに神聖魔力が大地からビュンビュン吹き出してくる。
こんなのは初めてだな。
「命は連綿と繋がり増えそして移動していく、貴方たちは心せねばならない、いまここに新しい命を人の輪の中につなげる。この洗礼により、使徒アダベルトは新しい命を授かり人の輪の中に入り遠い遠い旅を始めるのだ」
うおお、胸いっぱいに真っ白な魔力が流れて天に向かって昇っていくぞ。
なんぞこれ?
なんぞこれ?
こんなの初めてだなあ。
アダベルの体にも光の粒がまとわりついていくぞ。
竜か、竜を洗礼しているからこんな心霊体験になっているのか?
助けて百太郎。
「私は水のながれと共にこの子を加護しよう、私、女神はここに新しい命の始まりを宣言する」
よし、女神の宣言は終わったぞ、
「あ、まてまて」
アダベルが頭を引っ込めようとしたので小声で止めた。
まだ、信仰の宣言があるんだよ。
光の奔流は収まったみたいだ。
なんだか異常に神々しく神聖な気配があるな。
すごい巨大な魔法が動いてる感じがする。
大丈夫かね、これ。
「女神様が私たちを愛してくださっていることを知っています。女神の愛はこの世界の隅々まで光で照らし、私たち生きとし生ける者を慈しみ育ててくださいます」
うおっ、また光が出てきおった~~。
うわ、観客が息をのんでるぞ。
こんなの初めてだからなあ。
やべえ、汗がでてきたぞ。
「我々は誓います一生をかけて女神さまへの信仰をかかさぬことを、日々の粮を感謝し、隣人を大切にし、いたわりと友愛の世の中をめざし、日々努力し、祈りをささげる事をここに誓います」
よし、信仰の宣言も終了だ。
というか、光の球、どっかいけ。
なんだ貴様らは。
「凄いわ、なにかしらこの神聖な気配は」
「さすがは聖女さまのお祈りだわ、あんなに聖なる光が舞うなんて」
私は内心光の奔流にびびりながらも聖典を机の上に置き、水壺をとり高く掲げた。
水壺に光魔力を入れ、水を聖別……。
わあ、なんで光の球がどしゃどしゃ入るのかなあ。
やべえやべえ。
いつもの聖水の十倍ぐらい光っているのだけれども。
早く水をアダベルにぶっかけて、教皇様のご挨拶に繋ごう、そうしよう。
水壺を持ってアダベルに近づく。
奴は目をつぶってじっとしておる。
奴の額に水をたらたらと落とす。
水も光ってんなあ。
アダベルの額に水があたると光は奴の皮膚に入っていく。
一。
二。
三。
三回に分けてアダベルの額に水を注いだ。
ふう、終わった終わった……。
え?
地面の下からもの凄い神聖な魔力がどどんと立ち上がってきた。
なんだこれなんだこれ。
私の背中に強大な聖なる圧力が掛かった。
振り返ると、巨大女神さまがいた。
『みなさま、この良き日に、お集まりくださり、わたくしは感謝の念にたえません』
ちょっとまてー。
ちょっとまてー。
なんで女神さまの実物がでてくるんだっ。
というか、実在する物なのか女神さま。
私はてっきり前世みたいな信仰の象徴としての概念神様だとばっかり思っていたぞ。
というか下から見上げると牛久大仏みたいにでっかいぞ。
おっぱいもでかい。
『今日は邪竜アダベルトが聖女マコトに折伏されて、新しい命として私たちの仲間となっためでたい日です。かの竜は法縁を得て信仰に目覚め、教会と王都の守護竜として生まれ変わります。私はこれを祝福にまいりました』
どどど、どうすんだっ、女神さまがご降臨なされたら式の手順はどうするんだー、監督ー!! 監督ー!!
あ、監督も、リンダさんも、教皇様も、王様も硬直しておる。
というか、コロシアムの全ての存在が動きを止めた。
『そういえば、もう二つ、法縁を得た者がいますね、聖女マコト?』
「へ、なんですか、だ、だれの事ですか、女神さま?」
女神さまはふんわりと笑った。
彼女が手を合わせると、コロシアムにカマ吉とゴブ蔵が現れる。
『この者達にも私の祝福を与えましょう』
ゴブ蔵とカマ吉ですよーっ!!
魔物ですよーっ!!
『ほほほ、魔の物でも、邪竜でも、等しく私の愛はつつみこむものなのです』
ぐわー、心を読まれてるーっ!!
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