第929話 コロシアムで洗礼式の準備準備
コロシアム内では、沢山の尼さんとお坊さんが右往左往していた。
「敷布が足りんぞっ!」
「今持って行きますっ」
「貴賓席のワインの配置を急げっ」
「了解ですっ」
まあ、教会というのはこういうの得意だからね。
キビキビと動くなあ。
私がメイク室に入るとアダベルも付いてきた。
「私もメイクすべきか?」
「要らないんじゃない、人間体の時間は短いのだし」
「竜体のメイクは?」
「あんなでかい頭にメイクしてられないわよ、元々格好いいから問題無いでしょ」
「そ、そうかそれはよかった」
メイクさんがぱたぱたと私におしろいを塗り、ルージュを引いてくれる。
舞台用だから結構厚めな感じね。
「おー、マコトが化けていく」
「ふふふー」
メイクが終わったので、儀式聖女服に着替えさせてもらう。
宝石とかジャラジャラ付いてるから重いんだな。
「おお、綺麗だな、マコト」
「へっへー、良いでしょ」
鏡の前でポーズを取ると、いつもの完全聖女さまであるな。
ヨシヨシ。
今日も綺麗だぞ、マコト。
女官さんに待合室につれていかれた。
監督司祭が合唱隊とか、スタッフに手順を確認している。
テキパキしてんなあ。
行事の進行も大神殿は超一流だが、田舎の聖堂とかだと、あまり上手く無いときがあって、そういう時はわりとぐだぐだになりやすい。
司会進行も技能なんだよねえ。
椅子に座ってぼんやりしていると、後ろにリンダさんがきおった。
アダベルは隣で足をぶらぶらさせている。
「開始まで少々ありますね、王様の所にご挨拶に行かれてはいかがですか?」
「王様着いたの?」
「はい、先ほど」
「じゃあ、行こうぜマコト」
暇にしているよりは良いか。
私は立ち上がった。
アダベルもビョンと立ち上がる。
リンダさんの先導でコロシアムの観客席の中段にある通路を歩いていく。
「まあ、聖女さまよ、お隣のお小さい方がアダベルトさまかしら」
「今日もお綺麗だこと」
貴族のご令嬢が振り返って私たちの噂を交わしている。
観客席は二階席まで埋まりつつあるね。
貴族席、平民席、いろいろな区画がある。
派閥のみんなは……、あ、向かい側の一階だね。
魔法学園の生徒は一カ所に集められているっぽい。
いやあ、沢山のお客さんだなあ。
「一杯来たなあ、みんな暇なのか?」
「みんなアダベルを一目見たいのよ、格好いいから」
「そ、そうかあ、えへへっ」
アダベルは嬉しそうに笑った。
「あら、聖女様、聖女さまじゃあありませんの、私はギブラン伯爵家のマチルダと申します、お会いできて嬉しいわ、それで今度の夏、姪の結婚式がございまして、どうか聖女さまに祝福をして頂きたいと、そう思っていまして」
貴族席から太って着飾ったおばちゃんが走り出てきて私の前を塞いだ。
リンダさんが剣に手をかけた。
聖騎士が五人、すっ飛んできてマチルダ伯爵夫人を取り押さえ、席に引きずっていく。
「な、なんなの、失礼よあなたたちはっ、私は聖女さまにご依頼を」
「これから式典でございますから、ご依頼は御領地の教会を通してくださいませっ」
「なによっ、貴方たちは聖女さまに取り次いでくれないじゃないのっ、返事があった試しがないわよっ」
しらんがな。
王室の結婚式とかだったら仕切るけど、貴族の結婚式に呼ばれていたら、この身が幾つあっても足りないぞ。
リンダさんの目が怖い。
聖騎士が来なかったら伯爵夫人は抜き打ちにしていた所だろう。
「伯爵夫人ごときが、聖女様になんて口の利き方かっ……」
こわっ、狂信者こわっ。
アダベルがリンダさんの背中を押した。
「まあ、リンダ、怒るなよ、めでたい式典だしさあ」
「そ、そうですね、アダベル」
アダベルに落ちつかされる聖騎士団隊長はいかがなものであろうか。
その後は聖騎士さんたちが四人、中央通路の右と左に配置されて睨みを利かせていた。
リンダさんが暴れると人死にが出るからね。
王様と王妃さまが居るのはコロシアムの貴賓席エリアの真ん中だった。
ここらへんまでくると椅子も豪華だね。
ケビン王子とロイド王子もいるね。
ジュリエットさんが手を振ってきて、ビビアン様が苦い顔をした。
「おう、これは聖女マコト、今日も綺麗だな」
「ありがとうございます、王様」
「アダベルさまは今日も可愛らしくていられますわね、今日はおめでたい洗礼の日、一生の思い出になりましょうね」
「ありがと、王妃さん」
アダベルはにははと笑った。
まあ、ドラゴンだから失礼はしょうが無いね。
近衛の席でハゲが怒りの表情を浮かべたが。
王族の席の下は公爵家の席らしく、ゆりゆり先輩とかいた。
アップルビー公爵家の席にトール王子とティルダ王女が居た。
リーディア団長も一緒だな。
ドナルドは来てないっぽいな。
さて、反対側の中央通路を歩いて戻るか。
「リンダさん、あっち側を歩いて帰ろう」
「そうですか、庶民が喜びますよ」
「貴族より庶民だよなあ」
私は反対側の中央通路を歩く。
「アダベルちゃん、聖女ちゃん」
「うお、ばっちゃ、来てくれたのかっ」
「ダシャおばあちゃん、来てくれたのね」
「アダベルちゃんのハレの舞台ですもの、来ましたわ」
ダシャお婆ちゃんが山奥から来てくれたようだ。
お孫さんもニコニコして頭を下げていた。
近くには村の三馬鹿とか、孤児院の子供達もいる。
五本指も勢揃いしてるな。
お、カマラさんもいるぞ。
ダシャお婆ちゃんはにこやかに村の三馬鹿に話しかけていた。
いやあ、庶民グループが仲良しになってくれると良いね。
「お、マコト綺麗だな」
「可憐だ……」
派閥員がまとまって魔法学園の生徒がいる席にいた。
「マコト、アダベル、がんばってね」
「がんばれー」
カロルとコリンナちゃんが手を振ってくれたので振りかえした。
ああ、友達が応援してくれるのは良いね。
「パン屋の父ちゃん母ちゃんはいないなあ」
「パン屋は仕事中だからね。クリフ兄ちゃんは外の屋台でパンを売ってるはずだよ」
「クリフが居るのか、うん、それは良い」
中央通路の突き当たりの階段を下りて控え室に戻る。
「あ、聖女さま、アダベルさま、そろそろ式典を始めますよ」
「はい、いきましょう」
「よし、がんばるぞっ」
アダベルが天を指さして、びしっと気合いを入れた。
さあ、洗礼式だ。
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