第928話 洗礼式の朝は来る
鳥の鳴き声で目を覚ました。
ふわあああ。
良く寝た。
前世は宵っ張りで、ずっと寝不足気味だったんだけど、こっちの世界に来てからは夜に何もすることが無いからよく寝れる。
アニメもインターネッツも無いというのは健康的だな。
カーテンを開けて梯子を下りる。
「おはよう、コリンナちゃん」
「おはよう」
うーにゅとか言ってコリンナちゃんも起きてきた。
外は良い天気だな。
さて、顔を洗って歯を磨き、用を足して制服に着替える。
今日の聖女服は儀式用の奴なので大神殿で着替えるのだ。
ダルシーがお茶を入れてくれるので、コリンナちゃんと応接セットに差し向かいで飲む。
「今日はアダベルの洗礼式かあ、出会って大して時間が経ってないのに、何年も一緒のような気がするよ」
「色々あったからねえ」
色々あったせいでアダベルとはすっかり仲良しだな。
「だんだん、人間の世界にも慣れてきた感じだね」
「そうだね、頭も良いから、すぐいろいろ覚えるね」
トール王子とティルダ王女のお友達として無くてはならない存在になったなあ。
「ドラゴンの友達なんて、マコトと知り合わなければできないよなあ」
「私もドラゴンの友達ができるとは予想もしてなかったよ」
「というか、私の予定だと学校の三年間は勉強勉強で埋めるつもりだったんだが、まあ、楽しいからいいけどな」
うむ、コリンナちゃんも、射手になったり忙しいよね。
「これからも頼むぜ、親友」
「おう、任せとけ、親友」
私たちは下町の漢たちみたいな宣言を交わして微笑んだ。
コリンナちゃんは得がたい友達だよなあ。
同じ部屋になって良かった。
連れだって部屋を出て階段を降りる。
エレベーターホールには皆が集まっていて、朝の挨拶を交わす。
食堂に入って、甘々ポリッジをリクエスト。
カロルは塩ポリッジばっかだよねえ。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
パクリ。
あー、甘々で美味しいな。
「みんなも洗礼式に来るの」
「行きますわ、アダベルさまのハレの舞台ですし」
「今から楽しみだみょん」
「洗礼を受けるとアダベルも本当の仲間、という感じになるな」
派閥のみんなは全員参加っぽいね。
なかなか楽しい行事になりそうだ。
「コロシアムに行く人で馬車に乗りたい人は一緒に乗せて行くわよ」
「わたくしは馬で行きますわ」
「さすがはマリリン、騎士ですのねえ、私を乗せて頂いてよろしいかしら、カロリーヌさま」
「ええ、良いわよ、メリッサさん、コリンナも一緒に行くわよね」
「頼むよ、カロル」
「わたしはカーチスさまの馬車に誘われているみょん」
「ず、ずるいぞコイシっ」
「カトレアはうちの馬車がいやなのかしら」
「い、いえその、ナーゼル先輩がウザイとかそういう事ではなくてですね」
「あとで教えてあげなくては」
「わあ、やめてください、ヒルダさまっ」
みんなコロシアムまでの足はありそうだね。
「マコトは教会の馬車?」
「今日は一日教会馬車かな、無駄に豪華だから嫌いなのだけど」
「聖女さまだからしょうがないみょんよう」
良いんだけどね。
今日は大教会に寄って、儀式用聖女服に着替えて、それからコロシアムだね。
リンダさんとマンツーマンになるのでウザイのだが、安全は万全よね。
「さて、出かけましょうか」
「それじゃ、行きましょう」
皆で連れ立って馬車溜まりに行く。
カーチスとかエルマーとかオスカーとかライアンとかの男性陣も来たな。
「おはよー」
「おう、おはよう」
「おはよう……」
挨拶を交わして馬車溜まりを見回す。
あ、教会の白い高級馬車があって、リンダさんが満面の笑顔で手を振っていた。
「そいじゃ、またコロシアムでね」
「おう、今日はがんばれよ」
「がんばれ……」
「うんっ」
教会馬車に行くと、窓からアダベルが乗り出してきた。
「おはよー、マコト」
「学園長邸に行って来たのね」
「はい、今日の主役を連れてくる馬車なのです」
「主役~~」
「私は導き手だわね」
「導け~~」
リンダさんがドアを開けて踏み台を置いてくれた。
よっこいしょと馬車の中に上がる。
あいかわらず白い馬車の中は豪華な内装だ。
教皇様とか乗る馬車だからなあ。
リンダさんも乗ってきて、御者さんに大神殿に行くように言った。
派閥員の乗る馬車を縫うようにして白馬車は走る。
意外にコロシアムに行く派閥員以外の生徒も多いみたいだね。
やっぱり、みんな竜を見たいのだな。
「孤児院の子とか、トール王子とティルダ王女は別馬車かな?」
「トール王子とティルダ王女はこちらに乗りますね、孤児院の子達は職員馬車に便乗です」
教皇様はもう一台の白馬車だな。
教会はセレモニーが多いので馬車も沢山あるし、御者をやる聖騎士にも困ってないからね。
さすがの高級馬車だから、音も揺れも最小限に滑るようにひよこ堂前を通り過ぎ、大神殿の馬車溜まりに入った。
「おはようございます、聖女さま、アダベルさま、本日はよろしくおねがいします」
「よろしくおねがいいたしますね」
「監督~~、今日は頼むよ」
アダベルが大物っぽい挨拶を式典の監督司祭にした。
「アダベルは着替えるの?」
「着替えない~、竜化すると破れてしまうから勿体ないよ」
ああ、それはそうか。
いつものエプロンドレスも可愛いからだいじょうぶか。
すぐ、でっかくなるしね。
私が馬車を降りると、すぐ女官さんたちに囲まれて連行される。
これからメイクをして着替えなのである。
式典はお客さんから遠いので、結構濃いめのメイクをしないとね、すっぴんだと埋没しがちだし。
儀式聖女服も宝石とかついて、ちょっと重いので苦手なのだが、アダベルのハレ舞台だからしかたがないのだ。
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