第922話 カロルの家の馬車でケンリントン百貨店へ
今日もオルブライト家の馬車でお出かけである。
ヒルダ先輩も一緒だ。
リクエストで影から出したポーポーちゃんをヒルダ先輩は抱いてうっとりしているな。
「そう言えば、ケーナさんのお葬式が木曜日にあると言ってたわ」
カロルが思いだしたように言った。
「ああ、もうそんなになるかあ」
ジーン皇国のいざこざに巻き込まれて死んでしまった女子寮の護衛女騎士の人だ。
「リーディア団長にも知らせるかねえ?」
「どうかしらね、責任がある対象が罪も問われないで自由にしているのを見たら、遺族としては複雑でしょうね」
甲蟲騎士団はトール王子とティルダ王女、そしてサイズの国民を人質にされて、むりやりテロをやらされていたからなあ。
責めるべきは皇弟なんだが、説明するのがややこしい。
遺族の怒りは手を下した甲蟲騎士団にまっすぐ向かうだろうし。
ディーマー皇子には遺族に謝罪と補償をしろと言ってはあるが。
いろいろと難しいね。
「難しいからジェラルドに相談するよ」
「そうですわね、王家の考えもあるでしょうし」
「私はお葬式に出るけど、カロルは?」
「寮を守って戦死なされたのだから、私も一緒に行くわ」
「派閥全員で送ってさしあげませんか?」
「そうね、それがいいかもね」
水曜日はアダベルの洗礼式、木曜日はお葬式だ。
命が一つ王国の仲間になって、命が一つ王国から去って行く。
切ない事だね。
オルブライト家の馬車はケンリントン百貨店の馬車溜まりに着いた。
御者のおじちゃんがドアを開け、踏み台を置いてくれた。
「ありがと」
「いえいえ、なんでもございませんよ聖女さま」
三人で馬車を降りると、百貨店のボーイがすっとんできた。
「いらっしゃいませ、聖女マコト様、オルブライト様、マーラー様。ケンリントン百貨店へようこそ」
おお、さすが、顔を覚えているのね。
前にアイスクリン食べにきただけだというのに。
「百貨店でご飯を食べたいのだけど、レストランはあるわよね」
「はい、ございます、最上級の展望レストランにいたしますか、それとも軽いランチでしょうか、五階のパーラーでもランチがございますよ」
「どうする、マコト?」
「最上級は時間がね。軽いランチのレストランにしようか」
「そうですわね。あと、支配人にお話がありますの、ご予定はお空きでしょうかしら?」
「かしこまりました、支配人に伝えてご希望に添うようにいたします」
さすが一流百貨店だなあ。
お客さんを下にも置かないおもてなしだ。
ボーイさんに案内されてエレベーターに乗る。
パーラーのある五階に一般レストランはあるようだ。
アイスクリンはあるかな。
昼時という事もあって、レストランはお客様が一杯だった。
ボーイさんは私たちを窓際の予約席に案内した。
「予約してないけど」
「はい、ここは支配人がいつかお呼びしたいと思った百人のお客様の予約席でございます。ごゆっくりどうぞ」
そういってボーイさんは椅子を引いてくれた。
ありがとうね。
「洒落た事をしているね」
「高級レストランにはありますのよ、VIP客が来た時に使う予約席が」
ああ、やっぱり料金が高いとそういう余裕ある運営ができるのだなあ。
「うちの領でもやろうかしら」
「……」
カロルの領都フォルムガルドの高級レストランって、薬膳精進料理でしょ。
VIPは来ないと思うよ。
ヒルダさんも口をつぐんでいたから、私と同意見だったようだ。
「お飲み物はいかがいたしますか?」
「お酒飲む?」
「いらないわ、お茶をください」
「わたくしもお茶でいいですわね」
「じゃあ、お茶でおねがいします」
「かしこまりました」
ウエイトレスはお辞儀をして戻って行った。
「一般レストランなのにメニューを出さないのね」
「ランチをいただくと言ったから、ランチ固定なんでしょうね」
「ABと選ばせるお店は安っぽく見られるからでしょうね」
そうか、気取ってんなあ。
しかし、お金は足りるかな。
一人前八百ドランクとは行かないだろう。
「なぜ獣人風情がケンリントン百貨店でランチを食べているのだっ!!」
ガッチャーンとテーブルをひっくり返してデブの貴族っぽい男が叫んだ。
「オレノコトカ?」
デブの前では豪華な異国風の衣装に身を包んだ、ライオン頭の獣人がいた。
「お前の事だっ!! この卑しい獣人めが」
「ホウ」
ライオンは微笑んで立ち上がった。
私も立ち上がる。
「まあまあ」
「な、なんだ、お前は学生かっ?」
「まあまあまあまあ」
まあまあ言いながら私はデブの近くによって膝の裏を蹴って椅子に座らせた。
ライオン方向に障壁を張り、テーブルを直す。
「ああ、聖女様、おかまいなく」
ボーイさんとウエイトレスさんがやってきて、散らかったテーブルまわりを片付ける。
「せ、聖女? 大神殿の?」
「そうですよ、おじさん、私はお食事を楽しみたいので、騒がないでいただけますかしら」
「し、しかし、獣人などと……」
ライオンは興味深そうに障壁を指でつついていた。
げっ、あいつ障壁が見えてるのか。
「どう見てもあれは、獣人の国の王族だ馬鹿野郎、おまえんちは王家に取り潰されるぞっ」
私はおじさんの耳元で小声で言った。
「え、そ、そうなのか?」
「とっとと出てけ、これ以上騒ぐなら教会に破門させるぞっ」
「そ、それは、それはこまるっ」
支配人がゆっくりとやってきた。
「どういたしましたか? ウエイズ子爵様」
「子爵さまは、ちょっと体調が優れず、テーブルを倒してしまったようですわ」
「それは大変ですな、子爵様を医務室にお連れしたまえ」
「はいっ」
「い、いや、いい、か、帰る」
ウエイズ子爵は真っ青になっていた。
ボーイさんが手を引いてウエイズ子爵はレストランから退場した。
「聖女さま、お気遣い嬉しく思います」
支配人は慇懃にお辞儀をした。
ライオンは薄く笑って私を見ていた。
『ヨールト閣下、まことに失礼いたしました』
『いや、支配人、かまわぬ、馬鹿者のお陰で聖女殿と知り合えた』
支配人とライオンは獣人連合国の言葉で話し合っていた。
いや、まだ知り合ってないぞ、ライオン。
「さて、これも祖霊の導きだろう、聖女どの、そちらのテーブルに移ってもいいか」
「まあ、閣下はアップルトン語がおできになるのですか、かまいませんよ」
「うむ、聖女どのは話がわかる」
ライオンめは私たちのテーブルに移ってきた。
くっそー、ランチで国際外交とかしたくねえよっ。
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