第920話 クヌート先生の青空テイム教室①(クヌート視点)
Side:クヌート
孤児院の年少が三人、村人が三人、サイズの王子さまと王女さま、それからアダベルさんと聖騎士のサイラスさんで王都の南口を出た。
五本指の仲間を誘ったら、ローゼとハイノ爺さんが付いてきた。
ミリヤムは、また遊びに出かけてやがった、ブルーノはせっせとトレーニング中だったよ。
あんだけ苦労して入った王都を出るのは簡単だった。
身元はサイラスさんが保証してくれたぜ。
丁度良いから帰りに俺も冒険者カードを作るかな。
そうすりゃ出入りは自由自在だ。
身分証が無い奴は流民と一緒だから都市には入れねえ。
ここらへんはアップルトンでも、ジーンでも一緒だな。
首都の警備はアップルトンの方が厳重だった。
ジーンの帝都はわりと忍び込む隙間が多いんだ。
王都の森に入ると良い匂いがした。
近場にこんな豊かな森があるのは良いな。
「気持ちが良い森だね」
「そうだろうそうだろう」
なんでアダベルさんが自慢げなのかね。
彼女の肩にいる黒猫が良い声で鳴いた。
ローゼは立ち止まって深呼吸をしていた。
「良い森じゃな、薬草や小動物の狩りの為に残してあるんじゃろう」
森の他は広い畑になって、農夫が何かやっていた。
「おいちゃん、一角ウサギって危なくない?」
「注意していれば大丈夫だ、心配ねえよ」
一番ちっちゃい孤児の子が俺を見上げて言ってきた。
「私が斬ってやるから大丈夫だよ」
「うん、ローゼお姉ちゃん」
一角ウサギは魔物だ。
獲物を見つけると一直線で飛びこんで来て、その角で刺そうとしてくる。
まあ、攻撃が単調だから、ちょっと大きい子供なら余裕で倒せる。
ローゼも、ハイノ爺さんも、サイラスさんも、アダベルさんも居るから大丈夫だろう。
俺は従魔を聖女さんに取られたから戦闘力がほとんどねえ。
まあ、魔物の動きは読めるから、なんとかなるだろうけどな。
みんなで森の中に分け入っていく。
「あ、薬草あった、取っていい?」
「おお、これが薬草か」
「そうだよー、たまに孤児院の子たちで取りにくるの」
そう言いながら女の子がしゃがんで薬草をむしり、ポケットに入れた。
「にがい」
アダベルさんが別の薬草を採って口に入れて苦い顔をした。
「お、あっちの木の下に一角ウサギ発見じゃ」
「わ、ええとええとっ」
ローゼが剣に手をやって、どうしようかという感じに動きを止めた。
「ローゼ、爺さん、とりあえず素手で捕まえてくれ」
「解った」
「了解じゃ」
ローゼが足音を潜めて一角ウサギに近づく。
ハイノ爺さんがひらりと木の枝に跳び上がり、上から飛び降りて一角ウサギを地面に押さえつけた。
さすがは爺さんだ。
「ハイノじいすごいっ」
「まあ、これくらいはな」
一角ウサギは爺さんに押さえつけられてジタバタと暴れた。
「どうすんのどうすんの?」
村の子供が焦った声で言ってきた。
「まず、両手に魔力を作って、頭を包みこむようにするんだ」
「お、おう」
村の子供、王子王女、孤児たち、アダベルさん、そしてローゼまで手を向かい合わせて魔力を練った。
俺は左目をつぶって魔力を見る。
一応俺の右目は弱い魔眼だ。
魔力感知ぐらいしかできねえけどな。
お、王女さんがなかなかの魔力だな。
「王女さん、やってみますか」
「う、うんっ!」
王女さんはトトトと一角ウサギに近寄った。
小さい手で一角ウサギの頭を包むようにした。
「唱えてくだせえ。『小さき物よ、我が眷属となれ』」
まあ、本当は何でも良いんだけどな。
魔物と自分を魔力のパスで繋いで、意思を送れば良い。
相性が良ければ、それだけでテイム完了だ。
「ちぃ、ちいさきもの、わ、われのけんぞくになりなさい」
「ちいっ!」
一角ウサギが一声鳴いて暴れた。
軽くテイムが入ったが、まだ浅いな。
「王女さん、この子の名前を呼びなせえ」
「え、なまえしらないよっ」
「頭の中に浮かんでませんか」
「え、あなたは『ミー』ちゃんですか?」
「きゅっきゅっ!」
よし、名付け成功だな。
名前はテイムしようとすると頭の中に湧いてくる。
まあ、一流になりたいなら、従魔に名付けはしないんだが、王女さんだとペットだからな。
「うん、王女さん、あんたあテイマーの才能あるよ、成功だ」
「ほ、ほんとう?」
王女がおそるおそる手を離すと一角ウサギはキュウキュウ鳴きながら王女の足下にまとわりついた。
「わあっ、ミーちゃん、ミーちゃん、ずっとお友達ねっ」
「きゅーきゅーっ」
一角ウサギは王女に抱き上げられた。
舌を出して王女の頬を舐めた。
「意外に簡単だ」
「ひょっとして王女さんのご両親のどちらかは魔法使いですかい?」
「うん、おかあさん、けんじゃさんだった」
賢者さんの娘さんか。
サイズの王族だから魔力も高いんだな。
「よーし、次は私がテイム……」
アダベルさんの足下に沢山のトカゲが集まって土下座をしていた。
「と、とかげはあっちに行けようっ」
アダベルさんがおっぱらおうとしたが、トカゲは土下座ポーズのまま動こうとしない。
古竜はトカゲの王様みたいなものだからなあ。
「あれ、凄く綺麗なトカゲが一匹いるね」
王子さんが声を上げた。
うお、背中がてらてらと虹色に輝いていて額に赤い宝石があるトカゲがいる。
ちょっと大きめのトカゲだ。
「カーバンクルだ」
「凄い魔物なの?」
「すごく珍しい魔物じゃな、王都の森に出るもんじゃろうか」
「カーバンクルって深山に居る奴じゃねえの?」
カーバンクルの能力はなんだっけか、石化封じとか、毒無効だったかな。
王子さんならテイムできるかな。
「王子さん、テイムしてみますか?」
「い、いいの?」
「よし、トールがテイムしろ、私が許す、いいなカーバンクル」
アダベルさんが言うと、カーバンクルは微かにうなずいた。
王子さんは恐る恐る魔力を出して、カーバンクルの頭を手で包んだ。
「わあ、すべすべ。ちいさきものよ、わがけんぞくになってください」
「きゅーーん」
「わあっ、君はトミーと言うんだね、よろしくねトミー」
「うむ、トミー、励めよ」
アダベルさんはなんだか偉そうだな。
トミーはトール王子の体をするすると登って襟巻きのように首にまきついた。
さすがは王族、魔力が強いな。
サイズの王族って、勇者の血筋だしなあ。
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